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特別支援学校からの発信「具体的でわかりやすい目標を設定しよう」

個別の教育支援計画やら個別の指導計画やらを考えていくときは目標を設定しなければなりません。そのためには子どもの実態、何が得意で何が苦手で、何がどの段階までできていて…といったことがまず必要になりますが(その実態把握とアセスメントについては、またどこかで紹介するとして)、今回はそんな目標設定について話していきたいと思います。

具体的な目標ってなんだろう?

「目標は具体的なものにしましょう」いろんな本や研修会で言われることです。でもどうすればいいのか…。

そこで、具体的な目標ってなにかを考える前に、具体的でない目標例を紹介します。

①「コミュニケーションの力を高める」

コミュニケーションっていろんな要素からできていますよね。相手の話を聞くのか、敬語や丁寧な言葉遣いを身につけるのか、自分の意見を伝えられるようにするのか、相手の気持ちを考えた伝え方ができるようになるのか、困ったときに「手伝ってください」「助けてください」と援助依頼ができるようになるのか、具体的にどんな力をつけるのかが分かりにくいですよね。大体コミュニケーションの力を高めるのは僕自身も含めて一生の課題になってしまうかもしれません。

なので大きすぎる目標は、その子の実態に合わせてスモールステップで取り組めるようにより細かく分けた方がいいでしょう。

②「忘れ物をしない」

「〜しない」という目標は、できない理由を子どもに求めやすくなってしまうと個人的に思います。そもそも、気合や根性だけで解決できないから課題なのですよね。叱られれば嫌々やるかもしれませんが、叱る人がいなくなったらやらないではもったいないですよね。

なぜその子が忘れ物をするのか、どうすれば忘れ物をしなくなるのかを考えましょう。

その上で、例えば、家で保護者と一緒に用意する、チェックシートをつくって(保護者に用意してもらったり、自分で用意したりして)登校前に確認する、特別な持ち物は手に書く(スマホやメモ帳にメモする)、当日の朝ではなく前日に確認する習慣をつけるなど、その子の実態や特性にあった使いやすい方法が見つかればいいですよね。それがゆくゆくはその子の人生のライフハックになるかもしれませんし。

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(画像はAmazon.co.jpより)

③「集中力を高める」

これもよく見る目標です笑。が、どうやったら集中力が高まったのか評価しにくいですし、大きすぎる目標ですよね。

そもそもその子にどうなって欲しいのかを支援者がイメージできていないといけません。話している相手の方を向いて(相手の目を見るのが苦手な子は鼻やマスクを見ようというとわかりやすいです)話を聞く姿勢のことなのか、見たり聞いたりする力(視覚認知・聴覚認知)を高めるのか、聞いた内容を覚えておく記憶力やワーキングメモリの力を高めるのか、難しい問題のときに立ち歩くから問題の難易度を調整するのか、集中できる時間を伸ばしていくのか(子どもたちが集中できる時間から逆算して授業の取り組みを組み合わせたり、休憩を入れる方法もあります)によっても取り組む内容は変わってくるはずです。そもそも深い集中ができる時間は15分、子どもが集中できるのは45分、大人は90分と言われますし、大人の僕も45分も集中できないときはよくあります笑。

またどんなときに集中できているのかを探ることは、後で紹介する支援の手立てを考えるときのヒントになるはずです。

「●●できる」という肯定的な表現で

「廊下は走ったらダメ!」などと誰しもが「●●してはいけない」という禁止の言い方で注意してしまうことがあると思います。

でもボウリングでピンが端に残ったときのことを想像してください。「ガーターにならないように投げないと…」と思うときに限ってガーターになってしまいませんか?

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(画像はフリー素材.comより)

「●●してはいけない!」と強く思うほど、むしろそちらに意識がいってしまうそうです。なので、否定的な言い方ではなく、例えば「廊下は歩きましょう」といった肯定的な表現で具体的にどうしたらいいのかがわかるように伝えましょう。

伝え方については、『発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換(大場 美鈴)』がおすすめの本で、特設サイトでは声かけ変換表が無料でダウンロードできます。

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(画像は『発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換』特設サイトより)

本の紹介記事も書いています。

また周りの大人は、どうしても「できていないこと」に目が向きがちです。でも、例えば授業中に立ち歩く子も、友だちにちょっかいをかける子も45分間ずっとし続けていることはなかなか無いと思います。そうした「できている」時間のタイミングで評価し、そのできている時間を増やしていくという視点も忘れないようにしたいと思います。

いつ、どこで、だれが、なにを、どうやってするのか(支援の手立て)をはっきりさせる

「支援計画や指導計画は、誰が見ても同じようにできるくらい具体的に書くのが理想です」と今まで何度も耳にしてきました。

目標をより具体的にするためには、いつ、どこで、だれが、なにを、どうやってするのか(支援の手立て)をはっきりさせる必要があります。

どんなことを目標にすればいいのかについては、家庭や学校での悩み、自立活動や発達検査などの各項目、ソーシャルスキル、ライフスキル、キャリア教育の視点などが参考になると思います。

具体的な目標の話に戻ります。

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(画像はNARA EIGOより)

いつは、例えば朝の会の時間なのか、問題が起きたときなのか、学校にいる間ずっとなのか、家でもなのかなどです。

どこでは、例えばホームルーム教室だけなのか、保健室でか、特別教室も含めた校内のいろいろな場所でか、家庭でもなのか…などです。

だれがは、担任なのか、キーパーソンとなる人なのか、教員なのか、仲のよい友だちなのか、クラスメイト全員なのか…などです。

いつ、どこでの場合もそうですが、学校以外の例えば放課後デイや移動支援の際に目標を設定することもあるかもしれません(そのために関係機関で情報を共有したり、連携会議などが開催されることもあります)。

なにを・どうやっては、具体的で肯定的な目標とその内容のことです。なにをするのか、どのくらいの時間や回数をするのか、どんな方法でするのか、どんな配慮や支援をするのかです。

その目標とする行動にはどんな手順があって、そのどこで子どもがつまずいているのかを知るためには課題分析という方法がおすすめです。

例えば、支援者が手を取って一緒にするのか、一部を手伝うのか、支援者の見本を見てするのか、マニュアルや写真などを手がかりにするのか、声かけがあってするのかわ1人でするのか、ゆっくりでいいのか、時間を測って早くするのか、丁寧さを優先するのか、回数をこなすのか、同じ目標でもやり方やねらいは無数に設定できるはずです。

見本(モデル)を示したり、写真や絵カードを提示したり、言葉かけをしたりといった、子どもたちができるためのヒントや手がかり、援助のことをプロンプトと言います。

この配慮や支援の内容のことを「支援の手立て」とも言います。支援計画や指導計画には、目標・評価(課題)と共に、この支援の手立ても書かれていると思います。

その子にとってわかりやすい方法や環境整備、興味関心のある題材を使うなども支援の手立てです。個人的にはその子の好きなものを活用したいと思っています。

そして、こうやって範囲を確定させることで、僕たち大人がついよかれと思って、「まだ時間があるからもう1問やってみよう、次のステップにチャレンジしよう」と目標や子どもとの約束以上のことを言い出して、子どものやる気や信頼を失ってしまうという事故が未然に防げます。

スモールステップで

スモールステップとは、目標を細分化して簡単な内容から小刻みに達成していくことです。

支援学校にいる子たちは、1つのスキルを身につけるのに時間がかかることが少なくありません。目標が大きすぎると取り組む意欲をなくしてしったり、頑張りすぎてしんどくなってしまうかもしれません。

なので目標を細分化し、徐々にとりくんでいくのです。こうすることで、子どもま支援者も、なかなかできないストレスに苦しむことなく、できたを繰り返すことで自信と達成感を得られます。

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スモールステップのイメージ

(画像はキッズステップより)

スモールステップ取り入れ方には、目標を徐々に高くしていく方法や支援の手を少しずつ減らしていくという方法があると思います。

前者は例えば算数で、具体物を通して数える→数字と具体物を対応させる→10までの足し算を式で表せる→式を見て計算できる、みたいなイメージです。それ以外にも、特定の先生と一緒にできる→学校でできる→家庭でもできるのように範囲を広げていくパターンもあります。

後者は、一緒に手を取ってできる→一部を手伝ってもらってできる→見本を見て説明してもらいながら一人でできる→言葉がけがあればできる→一人でできるのようなイメージです。

目標設定を評価してPDCAサイクルを回していく

偉い先生の研修会に行くと、「支援計画や指導計画は作ってはい終わり、それからは大事に鍵のかかったロッカーに入れておくのではなく、日々活用し、またPDCAサイクルで加筆修正いくことが大事です」みたいな話をよく聞きます。

もちろん現場レベルでは、超個人情報ですから取り扱いには非常に注意しないといけませんし、紛失すれば当然処分されます。

評価する時期も決まっていることが多いので、こまめに改訂していくというのは難しいかもしれません。

しかし、一定の時期ごとに、目標に対する取り組みの成果への評価と目標自体の振り返りをしなければなりません。

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PDCAサイクル

(画像はリコーのマーケティング支援より)

目標を達成できているのなら、スモールステップで次の段階へ進んでもいいでしょう。ただし、子どもごとに自信をもって取り組めるペースというものもあるので、できれば即次のステップへという訳ではありません。

目標が達成できていない場合は、①目標が子どもの実態に対して妥当だったのか(高すぎる目標ではなかったか)、②目標に対する支援の手立ては妥当であったか(支援の手立てを変更するべきか)、③目標と取り組みを継続するのかを検討する必要があるでしょう。

ここで大切なのは目標を達成できなかったことを否定的に見るのではなく、このやり方は上手くいかなかったから別の方法を検討するという考え方です。ポジティブに考えるなら現時点で上手くいかない方法が見つかった訳ですから、別のアプローチを検討すればいいだけです。

そういったトライアンドエラーを繰り返しながら、子どもも支援者もよりよい支援を探していくのです。

目標や支援の手立てを見直す際には、こちら側の考えだけでなく、子どもの声も聞きながら、「●●なら難しいかもしれないけれど、これならどう?」のような提案・交渉型のアプローチも有効です。子どもが必要性を理解したり、納得して取り組みを選択することは、その取り組みへのモチベーションにつながります。

まとめ

本当は支援計画や指導計画の検討を始める4〜5月くらいに書こうと思っていた内容なのですが、遅くなってしまいました。

今回の内容は当たり前の話ばかりで恐縮ですが、今年は支援学校はじめての先生と組んでいることもあり、こういう話も必要だよなぁと思いながら書いてみました。

きちんと系統立てて説明できていませんし、本屋を覗いたり、ネットで調べるともっと有意義な情報が見つかるかと思いますが、僕なりの思考の整理も兼ねたものでので悪しからず笑。

あと具体的な目標と支援の手立てを!なんて言っているのに恐縮ですが、人間いつでもどこでも頑張り続けることは無理です。

頑張らない時間や目標を達成したごほうびがあった方が人間頑張れますよね(少なくとも僕はそうです)。「急がば回れ」とも言いますし、ゆるーい関わりが功を奏すこともあります。

まとまりのない内容ですが笑、何かのお役に立てば幸いです。




表紙の画像は対義語辞典ONLINEより引用しました。