見出し画像

弁護士を「雇う」と言ってはいけない

 この仕事をしておりますと、時折、弁護士を「雇う」という表現を聞くことがあります。
 お話をしている本人に悪気はないことは承知していますが、実は弁護士はこの「雇う」というフレーズに非常に敏感です。
 弁護士によっては、このフレーズが出てきた段階で受任をお断りということになってもおかしくありません。
 これは、弁護士以外の方には不思議なことと思いますので、少し、その理由をお話しいたします。

弁護士との関係は「雇用」ではなく「(準)委任」

 そもそも、依頼者と弁護士の関係は雇用契約ではなく(準)委任契約です。
 雇用契約とは、要するに、使用者の指揮命令に基づき労働者が労務を提供するという契約です。他方、(準)委任とは、依頼者が依頼を受けた者に対して一定の事務などを処理することを任せるという契約です。
 弁護士は法律学という専門知識に基づき、自分の判断で依頼者の利益のため最善の事件処理を行なうべき立場にあります。誰かの指示どおりに事務処理を行なうわけではないので、「雇われる」という立場にはありません。
 このような法的概念の正確性という点から、「雇う」というフレーズを嫌う傾向があります。

「雇う」という言葉から弁護士をコントロールしたいという意図が垣間見える

 また、「雇う」というフレーズを使う人については、実際に弁護士を自分の指示どおりに動かしたいと考えているフシが見られます。
 しかし、弁護士が最善の結果を出すためには、法的観点に関しては弁護士の専門的知見を尊重してもらわなければなりません。医師が患者の言いなりで医療行為を行なうわけではないことと同様です。
 もし、弁護士が依頼者の言いなりで業務を遂行しなければならないとしたら、違法行為を命じられても断られないことになります。これは専門職としては極めてストレスフルな状況です。そして、「雇う」というフレーズを使う人は、違法・脱法行為をけしかける傾向があるのです。
 そのため、弁護士は「雇う」というフレーズを使う人に警戒をしてしまいます。

言葉ひとつで弁護士の頑張り方も変わる

 弁護士も人間であり、1人で引き受けられる案件には限界があります。
 そのため、同じような案件であったとしても、きちんとした信頼関係を築ける方の依頼を丁寧に処理したいと考えるのは自然な感情です。
 「雇う」というフレーズだけで依頼を断られたり、仕事の手を抜かれるということはないですが、弁護士側から距離をとられてしこりが発生するということはあるかもしれません。
 逆に、「依頼する」「任せる」と言っていただける場合には、それだけで弁護士としても「よし、できる限りやってあげよう!」という気持ちになり、事件処理のクオリティも上がることでしょう。
 言葉ひとつではありますが、もし、弁護士への相談を希望される場合には、以上のような弁護士側の心理にも気を付けておくと良いかもしれません。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
 
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?