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「労働組合に捧ぐ」~元人事部長からのエール~ (3)

こんにちは。
モチベーションLAB所長の吉川和利です。

「労働組合に捧ぐ」の第3話にようこそ。
今回は労働組合の健全性と存在意義について私見を述べたいと思います。


組合の健全性と存在意義

Oさんがよく「労働組合とは経営のチェック機能を果たす存在」「是は是、非は非という立場で会社と対峙する」と言っておられましたが、役員の全員がそういった意識で活動に臨んでいたと思います。

そういった姿勢だからこそ、たくさんの情報に接することができ、また健全な議論を通じて、多くの知識や気づきを得ることに繋がったのだろうと思います。

自分自身の経験だけを捉えると、労働組合の役員として過ごした5年間は、良いこと尽くめでした。

一方、労働組合にも健全性に問題がある組織が存在します。

・ファイティングポーズ組合

未だ、会社・経営者に対して敵対姿勢を崩さない組合もあるのは事実です。無論、このような場合には、会社・経営者側にもブラック的な経営をしたり何らかの問題もあるのでしょう。

労使は対等な立場にありますから、これはこれで認められた権利です。
したがって私がその組合の姿勢に対してとやかくいうことはありませんが、最初から対決姿勢ありきというのであれば違和感を覚えざるを得ません。

・御用組合

一方、会社とは一切争わず、会社の施策に全面的に協力する姿勢の労働組合(いわゆる御用組合)もあると聞きますが、こういった組合にも疑問を感じます。
そんな組合の役員さんも選挙を経て役員に就任しているでしょうから、そこは民主的なのでしょう。
しかし、労働組合費を徴収して活動している以上、組合員の利益代表としての立ち位置も必要ではないでしょうか。
やはり是は是、非は非の姿勢が望まれると思います。

・独り占めする役員

またある組合では、委員長や副委員長などのポストを一部の専従役員が長期間にわたり独占し、定年退職に至るまでそのポストを明け渡さないという話も聞いたことがあります。
そういった体制に批判的な人が立候補しようとするとそれを邪魔したり、そこに異論をはさませないように細工する(邪魔をする)のだそうです。

・私物化する役員

さらに、一部の役員が労働組合を私物化している(組合の資産を私用に供している)という事例も聞いたことがあります。
例えば交際費と称して私的な飲食に用いているとか、組合の資産として購入した車両を特定の(一人の)人物が私的に使用しているというケースです。
こうなると言語道断ですね。

あくまで組合員があっての労働組合。
その原則を忘れたのならば、もはや組織として存在する理由を失うのではないでしょうか。


労働組合は必要か

さて「もはや労働組合は存在意義を失った」という意見をよく見聞きします。
最近は春闘の前に「何%賃上げ」などと具体的な数値を会社から先に示すケースが目立ちます。
その数値に労働組合サイドが納得できるなら、春闘の意味合いが薄れ、ひいては労働組合の存在意義も問われかねません。

そして組織率の低下や健全性に欠ける組合の存在などもあり、「もはや労働組合は存在意義を失った」あるいは「労働組合を必要とした時代は過ぎ去った」というような声も聞きます。

本当にそうなのでしょうか。

私は、人事制度構築の専門家の立場から、そして、過去に組合役員の経験がある者として、さらに人事部の管理職として労働組合と議論を重ねた者としての意見として「健全な」という前提付きで労働組合は企業にとって必要な存在だと思っています。

私が思う「健全」とはこのようなことを指します。

  • 特定の人が組合を私物化していないこと

  • 活動内容(特に金銭の収支)を組合員に分かるように透明化してこと

  • 一定の期間で組合役員が交代し組織内での新陳代謝が繰り返されていること

  • 内部で健全な議論の場があり、民主的に議論が集約されていること

  • 「闘争」や「対決」自体を目的としていないこと。一方、決して会社の御用組合にはならず、是は是、非は非の立ち位置を保っていること


労働組合も人事の専門家集団

そして人事部長を経験した立場では、このようにも考えています。

  • 人事施策は「管理」と「動機づけ」の両面からバランスの良いものにしなくてはならない中で、どうしても人事部(会社)の視点は「管理」に偏ってしまう傾向にある。

  • 人事施策の場合、その専門性の高さから当該施策の詳細部分について人事部以外の部門から口を挟まれる機会は極めて少ない。

つまり、人事部(会社)のスキルのみで施策が立案されてしまうので、結果としてバランスが悪くなってしまうのだと思います。

しかし、労働組合は、人事施策のもう一方の専門家集団でもあります。
その労働組合が「経営のチェック機能として、会社施策に足りない部分(この例では動機づけ部分)を質す」という役割を果たしてくれることでバランスの良い施策に仕上がる場面を何度も経験してきました。

このような機能を果たしてくれて、最終的な落としどころを一緒に探ってくれる組合は有難い存在だと思っています。


会社に無い福利厚生が魅力

労働組合として独自の福利厚生サービス機能を持っている組合も多いようです。
組合員なら誰でも利用できる保養所を独自に持っていたり、金融機関(ろうきんなど)を紹介してくれたり、組合員のプライベートな悩みの相談に乗ってくれる弁護士さんと顧問契約をしていたり、スポーツ大会をはじめとするレクリエーションがあったり。

私は組合の保養所を何度も利用させて頂いたし、プライベートな事情で組合を通じて弁護士さんを紹介してもらい、大変助かったことがありました。

一方、会社は社員に直接的に金融機関を紹介することは無いと思いますし、会社の顧問弁護士を社員に紹介することもありません。

このように労働組合は、会社に無い福利厚生サービスを独自に持っているのです。

組合員の労働条件の維持や向上が労働組合の役割であることは言うまでもありませんが、こうした個人では利用できない(しがたい)福利厚生サービス機能を持っていることは見逃してはならないことだと思います。

(つづく)


今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
「労働組合に捧ぐ」は次回が最後です。
次回もよろしくお願いします。


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