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時雨ひととき。

関東圏は見事な迄の大雨と凍えるような寒さ。まだ10月も前半なのに一体何故としか思えないのだが、これも気候変動の現れなのだろうか。と云う訳で秋の季語である時雨を題材にした「時雨ひととき」を。飛鳥井帆二作詞、江口夜詩作曲で、渡瀬春枝が歌っている。この渡瀬と云う女性歌手は渡邊光子の事で、当時の彼女には変名毎に代表曲が存在している。例えば和田春子の名前では「幌馬車の唄」が大ヒットして、戦後は台湾でも永く愛唱されたとか。本名ではビクターで出した「旅は青空」がそこそこのヒットを記録し、またタイヘイでは水野喜代子名義の「水郷の唄」が売れたそうである。さすらうかの様に各社に姿を見せた訳で、そこまで自由奔放な活動をする歌手は今では現れそうにない。

「時雨ひととき」はフォックス・トロットの弾む様な歌で、伴奏ではバンジョーやピアノがリズミカルなサウンドを奏でており、そこからは秋の肌寒い雨の様なマイナスなものは感じない。雨の色さえ灯りに濡れて煌びやかで、とても心地よい空気をもたらしており、明瞭な渡瀬の歌声がまた胸に心地よい。歌は二番構成で、間奏での軽やかなピアノが雨音を上手く表していて編曲の冴を感じさせる。江口夜詩は当時29歳の若手作曲家で、帝国海軍軍楽隊に在籍した頃からその優れた音楽的才能で注目されていた。次期軍楽隊長としても期待されたが、それを固辞して流行歌の世界へ入る。その最初のホームランが此の歌とA面の「忘れられぬ花」で、発売元のポリドールにとっても嬉しいヒットだった。


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