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【インタビュー】私たちは、「妖艶金魚」っていうジャンル。

ラップが巧い人、リリックが鋭い人、ビートが面白い人……このヒップホップ戦国時代、光る才能を持ち合わせたラッパーは数多くいる。しかし、新人で明確な世界観を確立している存在というのはめったに現れない。その点、妖艶金魚は注目に値するユニットだろう。

 著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』で、私はその新たな才能について次のように記した。「フィメールダンサーやDJといった才能を続々輩出している近年の国内ヒップホップ文化が生んだ結晶のような、わくわくするユニット」。さらに、ライターの二木信はこう形容する。「野良猫ロックとBガールの出会い」(ミュージックマガジン2022年3月号)。

 多くの賛辞が集まりはじめている。パンデミックが長期化し、ハイパーポップやボカロミュージックといったインターネット発の混沌を強調したような音楽が溢れる中で、妖艶金魚は伝統的なヒップホップの魅力をベースに艶めかしさを発する、オルタナティブで稀有な存在だ。その魅力については、以下のコラムを読んでいただきたい。

『サイゾー』妖艶金魚コラム

ダンサーのRIRIとDJのNinaは、すでに各々が東京の夜のストリートでその名を轟かせている。期待のユニットはいかにして生まれたのか?何を企んでいるのか?妖艶金魚・初のインタビュー。

妖艶

RIRI(写真左)/Nina(写真右)

強い人って、元々弱かった人が強くならざるを得なかっただけ。

――まず、妖艶金魚が結成されるまでのいきさつを教えてください。

 Nina:私とRIRIは同じ岐阜県で地元が近いんです。私が飛騨高山でRIRIが大垣っていうところ。高校生の頃から知り合いだったんですけど、私の方が先に上京して女の子5人で“T.W.S(TWIC SISTERS)”っていうグループをやってたんです。その後RIRIが東京に出てきて、「一緒にやる?」って誘って6人組になりました。今は個々で忙しいからグループとしてはあまり活動できてないんですけど、私たち二人は遊びながら曲作ってて、溜まってきたのでリリースしよっか?ってなったんですよ。

RIRI:ちなみに私が高校生の時にダンサーとして初めてshowcaseで踊ったのは高山(岐阜)のクラブで、¥ellow Bucksがブッキングしてくれたんですよ。そこでNinaと初めて出会いました。

――お二人とも岐阜出身で高校生の頃から接点があるんですね。上京して、お二人はどういった点でヴァイブスが合って曲を作るようになったんでしょう?

RIRI:個人的な話になるんですけど、妖艶金魚始める前くらいの時とか……私はどうにも抜け出せない絶望的な時期があったんです。だいぶグレーで、そういう世界に持っていかれちゃいそうな経験もあった。大して生きてない未熟者なんですけど、私は色んな感覚や今まで味わってきた痛みを、Ninaと音楽を作ることで叫びやはけ口にしないと居ても立ってもいられなかったんです。せっかくこんな思いをしたなら、絶望を音楽に変えて世の中に残したいと思ったんですよ。音楽をやることでどうにか自分を正当化したい、同じような想いを持っている人に共感して一緒に共鳴してもらいたいって。

――妖艶金魚をやることで救われた部分があると。

RIRI:そうですね。弱さの中の強さ、って言うのかな……妖艶金魚はもちろん嘘偽りないものだけど、本来の自分のパワーをさらに出してくれる。世の中に、“強い人”っているじゃないですか。私、それってみんな弱い人が強くならざるを得なかっただけだと思うんですよ。強いガキ大将も、大人になってもなかなか同じようにはいかないだろうし。みんな、弱いし繊細な人が強くなったりしている。妖艶金魚は、そういった.本当の強さやクールさを表現したいんです。

――おっしゃるような“繊細さから来る力強さ”みたいなものは楽曲からも伝わってきます。ビートはNinaさんが作られているんですか?

Nina:「ATTITUDE」のトラックは友達のChillaDaMastaっていうビートメーカーが提供してくれてるんですけど、それ以外はほとんどまだタイプビートを使っています。できるだけそれっぽくないのを探してきてはいますけど。この間出した「OSS」っていう曲は、私が琴の音を足したりもしてますね。

「OSS」

――タイプビートでよくあれほどの唯一無二な世界観を作れますね。逆に凄いんじゃないかと。いわゆる昭和の妖艶な空気というか、そういったコンセプトはお二人で固めていったんでしょうか。

RIRI:1st EP『FRIDAY OF NIPPON』はたまたま昭和レトロっぽい感じになっただけですね。あれで妖艶金魚の独自の色がついたから、いま制作中の2nd EP『SATURDAY OF NIPPON』は、早速それを裏切ろうとしています。もう少し踊れてライブ映えするような。

――そうそう、2nd EPの先行で出されている「OSS」はちょっとサイケなムードがあって、また違う妖艶金魚のテイストが出ていますもんね。

RIRI:1st EPは自分たちのルーツを出したかったんです。ヒップホップのルーツを。

――具体的に、どのあたりのヒップホップがお二人のルーツにあるんでしょう?

Nina:私はUSも国内も全部好き。中学生の頃、ヒップホップを知らないのにとにかく"HIP HOP"が聴きたくて、地元のゲオでCDをレンタルしまくってました。DMX、50cent、Eminem辺り、国内だったら名古屋のヒップホップばかり聴いてましたね。あとCOMA-CHI!

RIRI:Ninaはほんとにゴリゴリのウェッサイも聴くし、煙いのも好きだし、全般好きだよね。私は五歳くらいからずっと踊ってて、ヒップホップで踊ることが一番多かったこともあって、当時一番上の兄に教えてもらって最初にハマったのがSoulja Boyで。同じサングラスつけて踊ってました。そこから本格的にハマって。ヒップホップは自分のベースになってるしもちろん大好きだけど、R&Bもめちゃくちゃ好きです。逆に日本のヒップホップはあまり聴いてきてない。大人になってから、周りの友達がラッパーが多かったりする影響で日本語ラップとか、Amy Winehouseからジャズ、THE BLUE HEARTSからロックも派生して聴くようになったかな。どんどん広がってはいますね。それこそNinaからたくさん教えてもらったし。ほら、Ninaはジャズのレコ屋で働いてたから。

――妖艶金魚の、雑多であり唯一無二の音楽性はそういった背景から来ているのかもしれないですね。でも「色んなジャンルの音楽性のミックス」みたいなのって今の時代多いですけど、実はその中でも「個性が際立っている」作品はあまりなかったりもします。

RIRI:そう言われるのは一番嬉しいですね。「妖艶金魚」っていうジャンルになりたいと思っているから。

図3

昨日も、ちゃんと綺麗に遊んできました。

――リリックは普段から書き留めている?

 RIRI:歩きながらパッと言葉が降りてきたり、人と喋っててフレーズが出てきたりっていうのは常にメモしていますね。思ったことをメモするっていうのは昔からです。トラックを聴いて、そのメモから引用してはめていきます。

――やや古風なことばのチョイスも含めて、魅力的な日本語で溢れていますよね。

RIRI:私、学生時代に二度も海外に短期留学していたせいもあって、「日本ダサい」みたいに思ってめちゃくちゃ海外かぶれてたんですよ。でも一周回って今思うのは、日本語ってなんでこんなにエロいんだろうって。昭和の歌謡曲とか「大好き」って言わずに遠まわしに表現するじゃないですか。まわりくどいめんどくささにロマンを感じてしまったんです。漱石の「月が綺麗ですね」とかまさにそうだけど、日本語でしかできない表現に最近は凄く惹かれています。逆に、Ninaはラッパーらしい言葉の使い方だなって思う。軽い言葉を重くはめることができる。「高く飛ぶために縮めたバネ」とか。それって簡単なように聴こえるけど簡単じゃない。

Nina:それは意識してますね。KOHHとかTHE BLUE HEARTSとかも、シンプルだけど強いよね。そういうのが好き。あと、よく色んな人から「上品なリリック」って言われるんですけど、分かんないんですよね。何かが溢れ出てるのかなぁ。

RIRI:MVは多少そのあたりは意識してますけどね。ちょっとエロくとか、盛れるアングルとかは考えているけど。

図1

――私が今回一番伺いたかったのは、そこなんです。妖艶金魚の個性である猥雑さだったりエロティックさだったりって、夜の街で本気で遊んでないと出せないものだと思うんですね。普段、どこで遊んでるのかなって。

Nina:そうそう、だから今日もインタビューだっていうのにこんな声なんですよ(笑)。

RIRI:こりゃだめだと思ってさっき二人で発声練習してたんですけど。でも昨日もちゃんと綺麗に遊んできましたよ。いつもクラブを2、3件回ったりカラオケで朝まで踊って汗だくで歌ったり。エリアは渋谷とか(新宿)二丁目とか多いかな。昨日は私が誕生日だったので、渋谷で挨拶まわりしてました。まず「ブラッディ・アングル」で皆で飲んで、その後(ストリップ・バーの)「マダム・ウー」に行って。そこはもう友達のたまり場ですね。次にテクノのバー「翠月 - MITSUKI 」に行こうってなったんですけど……Ninaの正しい判断により帰宅いたしました(笑)。

Nina:うちらの遊び、皆に「むちゃくちゃだね!」って言われる。

――その遊びの雰囲気はMVにも表現されてますよね。MVのこだわりが凄まじい。

RIRI:めちゃくちゃこだわってます。映像は、ほとんど自分たちで作ってますね。

「ATTITUDE」

――「ATTITUDE」はディレクターにMESSさんがクレジットされていますね。

Nina:もう6、7年前かな。私が上京してすぐの時に、DJで呼んでもらったイベントで(ビートメイカーの)ChillaDaMastaと知り合ったんですね。そのイベントにはMESSもライブペイントで来てたんです。MESSは昔グラフィティやってたので。その時に、ChillaDaMastaのビートがかっこよくて「ビートちょうだい」ってお願いして。好きなビートなので、その後もDJやる時たまにかけてたりしたんですよ。そのうち、「これって曲乗せられるんじゃないかな」と思って今回試してみたんです。だから、この曲には昔上京したばかりの時の思い出がいっぱい詰まってるんですよ。全く同じ日にMESSとも会ったから、このMVはMESSの作りたいように作ってもらうべきだって思ってお願いしました。唯一、私たちが全部お任せしたMVです。出てくる女の子も、ただ可愛いだけの子じゃない。シーンでブイブイ言わせてる中身のある子たちに出てもらいました。

――Ninaさんにとって、思い出が詰まった非常に重要な曲なんですね。

Nina:でも、「ATTITUDE」以外の曲は私たちがほとんど注文つけて撮ってますね。MESSにはもう感謝しっぱなしで。たくさん手伝ってもらってます。たとえば、「BLACK」は撮りたい構図がいっぱいあってMESSに私たちからオーダーして。スタイリングはRIRIにやってもらって、ロケ地は二人で探して。編集もけっこう私たちが色々注文したかな。

RIRI:ほんとに、MESSには感謝。全部私たちのわがままや願望を叶えてくれる天才です。

「BLACK」

「shikisai」

 ――「shikisai」のMVはどのように撮っていったんでしょう?

 Nina:「shikisai」は、うちらの友達のブレイクダンサーMiMi aka Miharuが撮ってくれました。

RIRI:私たち、昔から可愛くて古いラブホが好きで色々回って遊んでたんですよ。巣鴨の回転ベッドがあるホテルが素敵で、そこで撮りました。

 Nina:編集はリルソム君にお願いしました。

「Oyasumi」

Nina:毎回がんばって色々工夫してますね。「oyasumi」は、なめらかな映像に見せたいから倍速で撮って、通常に戻して。ドラッグクイーンのママがやってる内装が素敵なバーがあるんですけど、そこが曲の雰囲気に合ってたので使わせてもらいました。

――お二人のコスチュームがお店の退廃的なムードにハマってますよね。

Nina:あと「FUNK YOU」は、ただAirbnb借りて「今日タダ酒飲めるよ!」って友達呼べるだけ全員呼んで。みんなガチで遊んでいるところをまたMiMi aka Miharuに撮ってもらったんですけど。さすがに騒ぎすぎて、向かいのビルと両サイド、あと……上下からもクレーム入っちゃった。

――全部じゃん(笑)。

 RIRI:定員を超えすぎてたので「あと8分で必ず出てください!」って言われて大声で「おぉい!皆帰れ!取り返しつかないことになるからごめんマジで帰れ!」って叫んで皆で凄い勢いで撤収するっていう……何とか警察も来ず大丈夫だった。フロントマンの方はめちゃくちゃ良い方で、「皆で楽しくしてるところごめんね」と言われて逆に申し訳なくなりましたけど。清掃がめちゃくちゃ大変でした。

Nina:エディットはリルソム君とRIRIがやってくれましたね。

「FUNK YOU」

ファッションはウソでありホント。

 ――やっぱり、コミュニティのパワーが凄いですよね。ヒップホップのDIY精神って、コミュニティのつながりで何とかするところもあるじゃないですか。

Nina:ぶっちゃけ、お金あったら凄い規模の作品とか何でもできると思うんですよね。今後そうなるつもりだし、私たちはこれから凄いお金かけたものも作る。でも、今は今しかできない、持ってる手札で最大限やれることを楽しんでやってます。

 ――MVやSNSを拝見していると、変身性やコスチューム性みたいな部分も妖艶金魚のアイデンティティとしてあるのかなって思います。

RIRI:自分って100通りあると思ってて。色んな自分を自分で見てみたいし、毎回違う顔を見せたいし。ロックな気分の日もあればギャルの日も、綺麗なお姉さんになりたい日もある。RADWIMPSの曲に「目一杯のウソをクローゼットから引っ張り出して身にまとって」っていう歌詞があるんですけど、そんな感じ。ファッションはウソでありホントだから。

Nina:結局、うちら自身がそういう生き方をしているんだと思う。クラブに行くだけの自分じゃないし、たまにはドレッシーにお洒落してジャズバーに行ったりするし、色々な自分がいますよね。

ギャル妖艶金魚

――その中でも、お二人の中で特に「ギャル」というものが重要なカルチャーとしてある気がします。

Nina&RIRI:ゴリゴリのギャルだったから!

Nina:高校の時、RIRIは名古屋まで30分くらいのところに住んでたから名古屋で遊んでましたけど、私は2時間半くらいかかるんで、名古屋で遊ぶってなったらもう一世一代の大イベントだったんですよ(笑)。うちはお父さんが昔パンクバンドのボーカルやってたこともあって、中学生の時はバンドでベースをやってたんです。でも、その時からファッションはB-GIRLだったんですよね。ヒップホップのファッションが昔から大好きで。だからギャル入ったB-GIRLっていうか。高校生の時はバイト代をJordanにつぎ込んでました。

RIRI:当時から色んなファッションしてたけど、中心はギャル。もう、ブームだったから。『egg』と『RANZUKI』が2トップって感じだった。ていうか、ギャルが一番可愛かったじゃんね。あの時代のギャルは可愛いしファッションセンスもあったし美意識も高いし、カルチャーがヤバいくらい強かった。私も『egg』の“ろみかな”(細井宏美&川端かなこ)が大好きで、イベントに差し入れ持って行ったこともある(笑)。

――(笑)。

RIRI:それと同時に海外のモデルやアーティストも大好きだったので、海外セレブ雑誌も毎月三誌くらい買って読んでました。ほら、最新のハリウッドの状況チェックしとかないといけないから(笑)。ファッションはそういうのも参考にしてましたね。中学の時に原宿系になってたこともあったしスケボーを一時期やってたときはスケーターファッションだったし……。

――凄い雑食性ですよね。でも、それだけ色んなカルチャーやファッション、音楽を好きな中で、一番はやっぱりヒップホップだっていうのは何なんでしょう。ヒップホップのどういうところに惹かれているのでしょうか。

RIRI:リアルなところ。ヒップホップってもう演説じゃん。何か、明らかに「リアル」「リアルじゃない」の選別があるじゃないですか。ソウルがこもっているかどうかの違いだとも思うんですけど。

Nina:私にとってヒップホップは生き方。「ヒップホップのラッパーです」って言っても、間違いなくヒップホップな人とそうじゃない人がいるじゃないですか。

RIRI:何であれってバレるんだろう?絶対バレるよね。別に否定はしないけど……でも響かないなぁ、っていう人はいますよね。そういうのがバレやすいジャンルだと思う。とは言え、ジャンルでカテゴライズするのってそんなに必要かな?っていうのもある。

Nina:でも、カルチャーだよ。それは大事。

RIRI:それはそう。そうなんだけど、自分たちからではなく、リスナーが勝手に決めたり言ったりする方がいいな。

 ――妖艶金魚はジャンル分けできないですから。2nd EPもリリースが近いんですよね。

RIRI:私たちは、妖艶金魚ってジャンル。今度はまたガラッと違う、新たな部分をお見せできればと思います。


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