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「役職」と「職位」とは?

こんにちは。

IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている社会保険労務士法人シグナル代表の特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。

「役職」と「職位」と聞いて、「その違いがわからない」という方が多くいらっしゃいます。

そこで、今回はその違いについてお伝えすることにしたいのですが、この2つの言葉は法律などで公的に定義づけられているわけではなく、企業実務において慣用的に使われているものということが、違いを余計にわかりにくくしてしまっています。

そのため、このnoteでは、最も一般的だと思われる使われ方を前提にご説明していきますことをあらかじめご了承ください。


○「役職」とは?


役職の方は皆様もイメージしやすいと思いますが、基本から丁寧に説明しておきます。

企業における従業員の身分や指揮監督の系列など、職務の分担に関する制度を「職制」といいます。典型的な企業組織では、従業員がラインとスタッフに区別されています。

ラインというのは、階層化された指揮命令系統であるのに対して、スタッフというのはラインを主に専門的な立場からサポートする存在です。

このラインの指揮命令系統の各階層を担う存在の権限と責任に応じて、部長や課長というポストが設定されますので、役職とは主に管理職の職名を意味します。

以上をまとめると、「役職」というのは「ラインに関する職制」ということになります。役職は企業内での指揮命令系統を示すだけでなく、企業外に向けて、その従業員のポジションを示す意味でも使われています。


○「職位」とは?


 では、「職位」とは何かといえば、先ほどの指揮命令系統においては、部長より課長の方が上位だということはすぐわかりますよね。ですが、たとえばA部長とB部長はどちらが企業内で上位なのかは、役職を見ただけではわかりませんよね。

また、スタッフ職の方の企業内での位置づけや、ラインの職制に位置づけられる人達を含めた全従業員中の序列もわかりません。

それらを明確にするために設けられるのが「資格制度」(企業内資格)で、「職制とは別に企業内における従業員の序列や処遇を明確にするために設けられている制度」のことです。

この資格制度における従業員の序列を「職位」と呼ぶことが多いのです。

ラインの職制と違って、資格制度は全ての従業員を対象とするのが特徴で、役職とは直接的には関係のないものなのです。ただし、企業によっては職位を役職と同じ意味に用いていることもあります。

「自分の会社には資格制度なんてないよ」と思われた方もいらっしゃると思いますが、昨年の調査では、資格制度の代表例である職能資格制度を導入している企業の割合は72%となっています ので、実はかなり普及しているのです。


○資格制度の移り変わり


役職と職位をより理解するためには、この職能資格制度の理解も必要になりますので、資格制度の歴史から、少しくわしくお伝えしていきます。


資格制度の源流は、戦前の従業員を「工員」(ブルーカラー)と「職員」(ホワイトカラー)とに区別していた身分的資格制度に遡ることができます。

戦後になってこの制度から、年齢や勤続年数によって賃金などの処遇を変えていく年功的資格制度へと変わっていきました。この制度の難点は、時間の経過とともに年齢の高い人材が増えてしまうと、年功型賃金が企業経営を圧迫してしまうことでした。

日本の企業は長期雇用を前提としている企業が多く、この問題は高度経済成長期に深刻化しました。そこで、能力主義を反映した職能資格制度への転換が図られ、先ほど調査データをご紹介したとおり、現在に至るまで資格制度の中心的存在となっています。

職能資格制度とは、職務遂行能力を基にした従業員の格付けです。
上からランクの高い順に、参与、副参与、参事、副参事、主事、副主事、一般社員のように区別する例が多く見受けられます。さらに、それぞれのランクについて「級(資格等級)」で細分化することもあります。たとえば、一般社員を1級、2級、3級と区別して、大学院卒は1級、大学卒は2級、短大卒・高卒は3級からスタートするというような形です。

この職能資格制度と賃金を結びつけたものが、「職能給」です。職能資格が上がるごとに、基本給が上がるという形で、賃金制度が設計されるのです。先ほどの一般社員を級で区別した意味の1つが、学歴によって入社時の基本給に差を設けるためであったりします。

能力主義を反映したのが職能資格制度であるとご説明しましたが、実際には職務遂行能力は年齢と共に上がり、一度上がった職務遂行能力は下がらないという前提でこの制度を運営してしまっていることが多いため、職能給が事実上年功型賃金と同様のものになってしまっているという問題点も存在します。
現在、「ジョブ型雇用」に注目が集まっているのも、この問題点の解決策としての期待がその一因だと思われます。


○「役職」と「職位」の結びつき


以上から、「役職」とはラインに関する職制であったのに対し、「職位」とは職務遂行能力を基にした、従業員の格付けであるというのが、現在のところの一般的な理解ということになります。両者はゆるやかに結びついて運用されていることが多く、ある職位にある人が就任できる役職の幅というのが各企業で決められていることがよくあります。

たとえば、「主事以上になると係長職、参事以上になると課長職、参与以上になると部長職」というような結びつきということです。
 職能資格制度における「役職」と「職位」の両者の結びつき、そして基本給との関係を、簡略化した表にすると、次のとおりとなります。あくまでイメージを持って頂くための例にすぎないことをご理解いただいた上で、ご覧ください。

表 「役職」と職位の結びつきの例

noto.本分用 役職と職位


○「昇進」と「昇格」の違い


「役職」と「職位」の違いがわかると、「昇進」と「昇格」の違いもすぐにお分かりになると思います。役職が上がることが「昇進」、職位が上がることを「昇格」と称するのが一般です。


○「管理監督者」と「管理職」


この表に関連するものとして、労働基準法の「管理監督者」についてもお伝えしておきます。

労働基準法上の労働時間、休日及び休憩に関する定めが適用除外となる方として、管理監督者がいらっしゃいますが、管理監督者に該当するためには、当該従業員が①少なくとも人事権の一部を有していること、②地位にふさわしい報酬を受けていること、③出退勤の自由があることが原則的に求められます。


※以前公開したnote「管理監督者のポイント・要件表」もご覧ください。


では、上の表ですと、どの等級以上の方が管理監督者に該当するでしょうか?

実は、最高の9等級でも管理監督者に確実に該当するわけではないのです。部長ともなれば、②の報酬についてはクリアしていることが多いでしょうが、①の人事権や③の出退勤の自由は有していない場合もあるからです。

それに対して、世間一般で「管理職」が課長以上とされることが多いのは、今回の表の上では明らかです。職能が「管理専門」となっており、「管理」に関する職務遂行能力があるからこそ、それと結びついた課長以上の役職を与えられているという制度設計になっているからです。


今回はあくまで一般的な例でのご説明となりましたが、お伝えしましたように、この職能資格制度も各企業で見直されていきそうな世の中の流れとなっています。
とはいえ、制度を変えるにも維持するにも、まずは現行の制度についての理解が重要です。今回のnoteがその理解の一助になれば、ありがたく存じます。


それでは次のnoteでお会いしましょう。

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