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「不満」を正しく理解する

一般的に「不満」や「愚痴」って超ネガティブなイメージを持たれていて、そう言うことを口にする人に対して排他的な態度をとりがちになるような傾向が私たちにはあるかと思います。

これは私の個人的な見解なのですが、そうした排他的な考え方を

 SIを生業とするIT企業の人間は持ってはいけない

と考えています。なんなら「それができないなら辞めちまえ!」とも思っています。多少強引ですが。いや、実際にそういうことを言いはしないですけど。


ですが考えてみてください。

私たちSI事業を生業とするIT業界に携わる人間は、お客さまの持つ、

 現状に対する不満や愚痴

を適切に取り扱い、その目の前の不満や愚痴になる原因を解決するために「IT」と言う技術を駆使して望みを叶える立場にあります。この業界で生きていくと言うことは、常に「誰か」の現状に対する不満や愚痴を聞き、その状態からの改善を提案し、実現していく義務(半ば義務に近いもの)が課されていると言っても過言ではありません。

不満とは改善機会です。
愚痴とはそのフィードバックです。

そもそも、IT…なかでもB2Bのソフトウェア開発においては、ユーザーの『現在の置かれている状況に対する不満』を改善/解決することではじめて成立するビジネスです。世の中のユーザーから不満が無くなった時、それはすなわちSI事業が滅亡する時です。言い換えれば

 世の中の不満や愚痴は、私たちのエサである!

とも言っても過言ではないでしょう。マクロな視点でみると、不満や愚痴があふれた世の中と言うのは決して喜ばしい状況ではないのかもしれませんが、世の中に絶えず不満があることは一方で感謝すべきことなのです。

そして「仕事」と言うのは、常に『現状に対する不満』が源流となってニーズに置き替えられ、そうしたニーズがあって初めて成り立つものですから、不満や愚痴をネガティブに捉え「聞きたくない」なんて姿勢の人にはまともな仕事が回ってくることは無いのではないかと思うんです。

事業の本質から目を背けると、ニーズの原点を見失ってしまいます。

たとえば、「美味しい食事がお腹いっぱい食べたい」と言うのも、

 ・お腹空いた
 ・マズい飯は食べたくない

という不満や愚痴を、ほんの少し目線を変えて言い直しただけに過ぎません。そのほんの少しの不満を知るからこそ、「ご飯作ろう」という話になるのです。

 ・今お腹いっぱい
 ・お腹空いてない

と言われたら作りませんよね?

不満を解決するのがITの仕事だけど。

不満はずっとそのままにしておけません。

お客さまのなかで「そもそも不満を言い続けているのはだれなのか」と言うと、やはりその企業の社員でしょう。お客さまの社員が高いストレス環境下に置かれ続けていては業績もなかなか向上せず、業績が向上しなければ待遇改善もおぼつかず、いずれみな辞めていって会社が潰れてしまいます。常に改善や解決によって不満を解消/軽減していかなければなりません。そしてその歩みを止めてはならないのです。

AmazonのCEO、ジェフ・ベゾス氏は次のように言っています。

 「一番大切なことは、顧客第一であること。
  だが顧客を満足させてはいけない、絶対に喜ばせるのだ」

ジェフ・ベゾス

私なりの解釈ですが、「満足」を100%だとすると「喜ぶ」は101%以上を指しているのではないでしょうか。これは狩野モデルを見れば自ずとわかるかと思います。

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満足とは「当たり前品質」を最大値化すると言うことでは無いかと思うんです。そして喜ぶとは「魅力的品質」を向上させる…と言うことではないでしょうか。ベゾス氏の1つの業界を牽引する経営者として、その言は正しいと思います。ユーザー側としても、要求に100%応えてもらうのは契約上の義務だとしても、それ以上の価値を提供してくれることに異を唱えることはないでしょう。

不満を解決するにあたって、ただ解決する以上の価値をもたらすことは悪いことでは無いのです(だからと言ってその分請求するのはどうかと思いますが…まぁ提供する価値の内容次第ですかね)。

たまに、システムを納品してお客さまから「今回は、無理を通していただいて本当にありがとうございました」なんてお礼を言われる時がありますが、いつも心の中では「こちらこそ、現状の不満や愚痴を私たちに打ち明けてくれてありがとうございました」とお返ししています。


不満から目を背けることは、ビジネスの死を意味する

製造業にせよ、サービス業にせよ、「仕事」「ビジネス」とはニーズがあって初めて成立するものです。労働集約型であれ、サブスクリプション型であれ、やはりニーズがなければ成立しません。そしてニーズとは常に『現状に対する不満』から生み出されるものです。世の中に不満があるからこそ仕事が成立し、経営が成り立ち、そしてそこで働く社員の衣食住が保証されているのです。

ゆえに、私たちは『不満』から目を背けてはならないのです。

しかし、この不満に対して適切に取り扱うことの必要性を理解できていない人が多いのも確かです。そもそも不満を非常にネガティブにとらえる人がたくさんいます。ヒエラルキー構造の支配型組織では、部下からの不満や愚痴に対して否定しかできない上司もたくさんいます。

ですが、ここまでに述べてきたように、『不満』とは宝です。

不満を改善/解決できる能力を有し、機会を与えられ、実際に改善/解決することでのみ私たちは社会においてその存在価値を認められているのです。

たとえば、部下が上司のやりかたや方針に不満を持ち、異議を唱えてきたとしましょう。そして、上司はその内容をよく吟味もせず、頭ごなしに「文句言うな!」「俺に従え!」と一喝したとしましょう。

 部下はそれで納得して仕事できるでしょうか?
 部下はそれで本当に高いパフォーマンスを維持できるでしょうか?

仕事の大半…すなわち企業の運営基盤の大半は上司が稼いでいるのではなく、部下が稼いできてくれているものです。その部下にとって「稼ぎにくい」「それでは仕事にならない」とクレームを受けて、上司がその内容を見直さない組織と言うのは本当に健全なのでしょうか。

たまに、「不満は、自分自身の価値を下げ、評価を落とす」という間違った解釈をする経営層や幹部層がいると言います。実際、そう言うことをする経営者や上司も世の中にはいるのでしょう。

確かに、不平不満"だけ"しか言わず、

 ・自分では何一つ改善しようとしない
 ・具体的にどうしたいのかも考えていない、むしろ何かを否定したいだけ

な人は評価を落とす対象として妥当かもしれません。

しかし、「不平」や「不満」は、企業経営における現運用に対する従業員からのフィードバックです。なかには資金的な都合や業務上の事情もあって、即対応できないものもあるかも知れませんが、放置しておけばおくほど従業員のストレスや忠誠度(帰属意識)が低下する類のものです。

もしも、「不平や不満を言うな!」と言って無理やり口を閉ざさせてしまうとそれらは個々人の心の中に沈殿し、蓄積されていくことになります。ストレス/フラストレーションの蓄積を強制し、かつその期間をあまりに長くとり続けるといずれ人は精神疾患を発症したり、あるいは離職していったりするのは当然です。

部下の不平や不満を受け入れ、検討し、適切な判断を下すことができるかどうかは、上司の器の大きさによるところが非常に大きいですが、なによりも「顧客のニーズ(現状の不満に対する改善要望)」を受け止め、改善するビジネスを理解していない人材が組織の中核を担っていると言うことの方が、社会的に心配になってくるところです。

それはすでにビジネスモデルの根幹として死に体になっていると言えるのではないでしょうか。


不平や不満は「宝」と言いましたが、企業における貴重な財源とも言い換えることができます。世の中にあればあるだけ売上や利益に還元されると言うことです。そして、それは社外に対してのみならず社内においても同じことが言えます。

たとえば、「ある社内システムの〇〇が使いにくい」と言うクレームを受け取ったとします。

実際に調べてみると二度手間になっていて、1件の処理あたり1~2分ほどのムダが発生していることがわかりました。年間の総数が1万件あったら、それだけで最高2万分(≒333時間、16人月)もの時間を無駄にしていることになります。1人当たりの単価を仮に60万だと仮定すると、およそ1000万の経費改善に繋がるフィードバックと言うことになります。

それを

 「下から言われるのが気に食わない」
 「言い方が気に入らない」
 「面倒くさい」

と言った感情的な評価によって不満を封殺するのが本当に正しい行為と言えるでしょうか?

ちょっとした不満が、その企業の収益構造を大幅に改善する…なんて事例は毎年数えきれないくらい存在していることでしょう。日本と言う国だけで見ても、おそらくすべての『社員の不満』を集めれば、

 何兆円規模の市場になるのか
 何百兆円規模の収益改善に繋がるのか

はかり知れません。

実際、直接かかわったわけではありませんが、あるトラブルプロジェクトで利用者たちから「使いづらい」「こんなの使えない」「むしろ仕事のパフォーマンスが落ちる」など色々言われていたシステムがありました。同業者としては心に刺さるクレームですが、既に予算は100億以上費やされていてユーザー企業としても今更無かったことにはできなかったのでしょう。経営層から

 「慣れの問題」
 「文句を言う前にまずは使え」

と言って、その使いづらいシステムを無理やり、業務命令で社員たちに使わせた…と言う話を聞きました(どこの…とは言いませんが、5chでも一時期ユーザーから内部告発されていたシステムです)。

基幹システムの再構築とはいえIT投資で100億単位の予算をポンと出せる規模の企業です。

年間のシステムに依存した業務は数知れず、そのシステムに関わる利用者、関係者も延べ数百万人くらいになるのではないでしょうか。その人たちが1日あたりに数回~数十回システムを操作するとして、その回数分の業務がほんの少しのUI改善をすることで年間数億~数十億の改善、償却期間を10年とすると、数十億~数百億の業務コストが改善されていたかもしれない…ということですよね。勿体ない話です。

何度も言うように、不平や不満はビジネスにとって宝の山です。

「ビジネス」に関わる以上はどんなビジネスに携わる存在であっても、持ち込まれた不満の内容に対して対応「する」場合と「しない」場合のそれぞれのメリット/デメリット、経費や利益への影響くらいは最低でも検討すべきです。そのうえで、即時対応するのか、時期を見て対応するのか、あるいは対応しないのかを決定すれば良いのではないでしょうか。


不満を言う側のルール

とはいえ、不平や不満を真摯に受け止められる経営者や管理職…と言うのも実際には珍しいでしょう。彼らも人間です。常に負の感情を突き付けられ続けるのはつらいと思います。いくら宝の山とは言え、私も言われ方次第でどっと疲れることがあります。

ですので、発する側としても不平や不満をただ言えばいいと言うモノでもありません。

ただ感情に任せて言い放つのでは、名刺交換する際に、きちんと両手で手渡すのではなく、クシャっと丸めて相手に投げつけるくらい乱暴なのと同じようなものです。

不平や不満を言う側には、言う側のルールと言うモノがあります。

田畑氏も動画の中でおっしゃっていますが、上記の動画でいえば2m43sあたりから説明されています。ただ否定する、ただ不満だけ言う、だけど代替案もなく改善案もなく無責任に言い放つ…こういう人はビジネスマインドになっていない証拠です。

ITエンジニアのみなさんは分かっているはずです。
もっと広義に言えば、サービス業を営んでいる人ならわかるはずです。

お客さまから現状の不平や不満だけしか出てこなくて、何を提案してもウンともスンとも言わず、建設的な意見がいっこうに出てこなければ、要件定義工程は達成できると思いますか?

おそらく答えは"No"でしょう。ビジネスとして成立しませんよね。

同じように、チーム、組織、会社に対して不平や不満を言う側の立場になったとしても、むしろエンジニアの苦労がわかっていればこそただの文句にするのではなく、具体的なフィードバックにするべきなのです。

たいていの場合、ふつうに愚痴をこぼすだけではただの独り言で終わってしまいますし、周りの人にもネガティブな印象だけを与えてしまいます。

そこで、愚痴の負のエネルギーを変換して有益なフィードバックにしてしまいましょう。

たとえば、不満に「他部署との連携とか手続きの処理がいちいち面倒くさい」といったものがあるとします。それをそのまま言っているだけでは子供の癇癪と変わりません。

このとき、愚痴を言いたくなる具体的な原因を深く考えるようにしてみてください。きっかけとして「何があったのか?」と考えるとアイデアが出やすくなります。

たとえば、上記のような不満(連携や手続きが面倒)があるなら、その以下のような原因が考えられます。

 • 手続きがマニュアル化されていない
 • 書類のフォーマットが古すぎて、現在の組織にマッチしていない
 • すべて紙ベースでやり取りしていてデジタル化されていない
 • 省略できる手順があるのにそのままになっている
 • ボトルネックになる作業がある
 • 社内のフロアを移動する必要があるなど、位置関係が悪い
 • 他部署の上司と自部署の上司の仲が悪い

などです。不満の原因特定…すなわち具体的な課題になりさえすれば、改善すべき仕様として対応可能になるからです。このように原因がはっきりすると、改善策が見えてきます。

 マニュアル化されていなければ、「マニュアルを作る」
 書類の様式が古いならば、「書類を新しく作り替える」
 省略可能な手順があるならば、「不必要な手順をなくす」
 社内の位置関係が悪いならば、「社内で引越(席替え)をする」
 部署間で仲が悪いならば、「人事を見直す」

など、具体的な方法を考えることができるでしょう。今度はそれを上司なり、同僚なり、他部署の人なりに相談してみてください。具体的な改善点がわかると人は行動しやすくなるものですから、相談が受け入れられやすくなります。また、真剣に業務改善について考えてくれているという印象も持ってもらうことができるので一石二鳥にもなるはずです。

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