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「よい」「良い」は「いい」か?

この記事は「言語學なるひと〴〵 Advent Calendar 2023」の14日目の記事です。

先日の出張で地元を歩いたときに見かけた看板です。

「よい」と「いい」はどちらも漢字にすると「良い」などです。『岩波国語辞典』第7版では「いい」は「よい」のくだけた言い方とされます。

いい【善い・良い・好い】「よい」のくだけた言いかた。▷終止形と連体形しかない

なお現代語では終止形(典型的には「。」の前)と連体形(後ろに名詞が続く)の区別はありませんから,その点は気にしなくていいでしょう。たしかに「いくない」(良くない)とか「いければ」(良ければ)は標準語にはないですね。

なお,どちらをよく使うかという点では時代による変化があるようです。

この記事には「よい」は文章語(書き言葉)的,「いい」は話し言葉的としていて,その点は岩波国語辞典と大差ありません。ただ「よい街」も「いい話題」もともに終止・連体形です。また,同じ文章なわけですから,書き言葉と話し言葉というような区別もなさそうです。そうすると違いは後に続く名詞とか文中の位置,つまり文頭か文中かという違いです。

ただ私が文章を書くとき,次の例のように文体以上か同じぐらいに意味や前後の言葉での使い分け(≒コロケーション)がありそうな気がします。例えば「1つ出せばいい」のように「最低限」を表すなら「1つ出せばよい」とはあまり書かない(言わない)ように思いますが,「よりよい方法」のように「上の段階」を表すなら「よりいい方法」とは言わないように思います。

そこでちょっといくつか日本語書き言葉コーパスを使って検索してみました。たぶん最も顕著なのが「動詞仮定形+ば」の後と「より」の後です。ちなみにこれは書字形という出現した形で,「良い」は「いい」からも「よい」からも変換されるのでここでは無視します。

書き言葉での「いい」「よい」「良い」

この場合,やはり私の使い分けと同じく「より」の後では「よい」,動詞仮定形+「ば」の後では「いい」が多くなっています。もっとも「よりよい」はかなり固まった表現っぽいので適切かやや議論が必要ですが。

他に,「より」ほどではありませんが,「とても」だと「よい」,「方が_です」だと「いい」の割合が多くなります。

では話し言葉だとどうでしょうか。日本語話し言葉コーパスを見ると,「より」以外は「いい」が優勢になります。これは上の説明と整合的です。なお話し言葉コーパスでは「よい」と発音されるものは「良い」と書かれます。

話し言葉での「いい」「良い」

もうちょっと類例を探してみたいところです。


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