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私は王女ではないけれど、アフタヌーンティーを召し上がる

ロンドン旅ごはん日記5ページ目です。
前回の記事はこちら、イングリッシュブレックファーストめっちゃ美味しいじゃん!と語っております

ロンドン行きを決め、何をしたいか考え出したのとほぼ同時に「あ、本場のスコーン…もとい本場のアフタヌーンティー、食べたい!」と思い旅程に入れた。

私たち夫婦は甘いものがとにかく大好きであるが、同時にもう良い大人なので愛する気持ちと同じくらい節度を持って糖分と接さねばならない身である。
しかし我慢も募るとそれはそれで…ということもあり、ごくたまにホテルのアフタヌーンティーに出かけるのが殊の外良い癒しになっているのであった。
(ちなみに一番好きなのは恵比寿のウェスティンホテルのヌン茶である。お飲み物も食べ物も本当にクオリティが高く、また量が多いのも嬉しい)

そしてロンドンは紅茶の国、スコーンの国、とありアフタヌーンティーの国でもあって、選択肢は嬉しいことに本当に多かった。ホテルはもちろん、カフェや専門店なども多く展開していて、またどれも美味しそうで…

しかし今回は"いわゆる"アフタヌーンティーをしよう、ということで有名どころのアフタヌーンティーを楽しむことにし、2度のチャンスのうち1回目はフォートナム&メイソン、2回目はマンダリンオリエンタルのアフタヌーンティーに行くことにした。

行ってからも楽しいが、行くまでも楽しい。
アフタヌーンティーに独自のお作法や歴史があることを詳しく知らなかったのでこの機に調べたのだが、下から順番に食べ食事っぽいやつから甘いものたちに移行する、服装はカジュアルすぎない方が望ましい、などなど、肩肘張らない程度というかお互い気持ちよくいられそうなマナーがあったのも面白い。

歴史としては「夕飯までにお腹空くし夕方のオペラの前になんか食べながらおしゃべりしよーよ!」というアンナ・マリア・ラッセル侯爵夫人の陽ギャルマインドが始まりだったらしい。

そこから脈々と受け継がれ、今は誰でも楽しく食べられるようになったとのことだ。

好きな童謡がある。
『アイスクリームのうた」というのだが、Wikipediaの説明文を借りると「昔話の王子や王女ですら食べられないアイスクリームを、現代の子供が食べられる幸せを歌った楽曲」である。

結構この歌すごいことを言ってるな、といつも思う。今美味しくいただけるあれこれの中で、「昔はとても食べられない」ものって実は少なくない。冷凍庫がないからアイスクリームは作れないので食べられないみたいなこともあるし、調理方法だって今よりも少なかっただろうし、もっと言うと身分や経済状況、運輸の兼ね合いなど、食の自由への障壁は今よりも高かったのではと思わずにはいられない。

私は王女でもイギリス人でもなければ貴族でもアンナ・ラッセル女史の友人でもないけれど、おいしいアフタヌーンティーを楽しめるんだよな…という気持ちになる。
うれしいことだ!今ある美味しいあれこれは先人たちのあらゆる願いと努力と工夫が詰まっていると本気で思う。私はいつもおいしい食べ物と共に、そうした長い歴史をいただいているのだ。

さて話をロンドン旅行に戻す。
今回の旅で行ったアフタヌーンティーは前述の通り二箇所なのだが、そのどちらも素晴らしかった。

まずフォートナム&メイソンを語らせていただきたい

ひとりぶん

広いお店に真っ白なテーブルクロスのかかった円卓がいくつもあり、うっとりしてしまう綺麗さ。時間的に遅めのお昼くらいにしたので全然混んでなかったが、居合わせた人々は皆楽しそうにおしゃべりしていた。男性2人組が楽しそうにアフタヌーンティーを楽しんでいらっしゃる様子を見て、夫は「いいなあ、日本でも男同士で普通に食べにいけたらいいのに」と言っていた。確かにあんまり見ないかも。

下からサンドイッチ、おかわり自由のスコーン2種、そしてカラフルで小さなケーキ、そこにたっぷりの紅茶という構成だったのだがどれも本当に美味しかった。個人的にスコーンはもう絶品で、比較的さっくりした歯触りを楽しんだ瞬間バターの香りが飛び込んでくる。そこにクロテッドクリームのまろやかさとジャムや蜂蜜の濃厚な甘さがなだれ込んでくるので、思わず笑みをこぼしてしまった。

あと、薔薇のケーキも夢みたいに美味しかった。一口齧った瞬間溢れ出したクリームは薔薇の香り。お菓子に紛れるとこんなに高貴で甘やかなのかと驚き、その直後にはおいしさの波が押し寄せる。花の香りを食すという体験が新鮮だったからか、ものすごくドキドキした食体験だった。砂糖菓子の花びらまで味わいつくし、スッキリとした香りの紅茶で咲き乱れる薔薇の花々を飲み干した。

紅茶がまた美味しくて、おなかがチャプチャプ言いそうになる程あれこれフレーバーをいただいた果てにティーバッグをお土産に買って帰ったほど。実はこちらの紅茶は東京でも手に入るのだが、それはがっかりポイントではなくラッキーポイントだ。

最終日の飛行機に乗る前にもマンダリンオリエンタルに行ってアフタヌーンティーを楽しんだが、お店の内装もメニューの雰囲気も全然違って大変面白かった。
映画に出てきそうなロマンチックな街並みの真ん中にあるひときわ豪華な建物がマンダリンだったのだが、ちょうど春節間近の時期だったこともあってかエントランスは真っ赤な装飾に彩られていて幻想的だった。
その奥にあるティールームは、フォートナム&メイソンの内装の印象が「横に広い」だとしたら、こちらは「縦に抜けている」という感じだ。

量も味もしっかりしており、見た目にも麗しい。伝統的な手法を重んじつつ、提供の仕方などで差別化を図っている印象だった。

鳥籠みたいな器に盛られたスコーンはふわふわで、そこにモスっと乗せたクロテッドクリームがほんのりとした熱で柔らかくなったところで食べると絵本で見た雲みたいだった。味も本当に美味しくて、サンドイッチなんて私も夫もおかわりをいただいたくらい。ケーキも甘すぎず、けれど食材の組み合わせに意外性があって楽しい!

そしてサービスの方々が本当に丁寧で、ひとときのお客さんでありながらものすごく大切に扱っていただいたような気がして背筋の伸びる思いだった。お上品なふりをして、夫と慣れないヒソヒソ声でたくさんおしゃべりしながらゆっくり食べた。為替も相まって決してお手頃ではないが、ほんとうに素敵な体験だった。

そして「本場の○○」を味わう楽しみを、ある意味この時本当に知ったかもしれない。
なぜなら、「ここはアフタヌーンティーの歴史の始まりの地だ」と思った時ものすごく愛しい気持ちでいっぱいになったのだ。アフタヌーンティーを始めたアンナさんはこの美しい街並みを馬車で横切ったりしたのだろうか。オペラが待ち遠しいと思う気持ちとおなかがすいたという現象は矛盾なく両立するの、わかるなあ。そんなソワソワは美味しい紅茶と素敵なお菓子と楽しいおしゃべりで満たすのがいいよねってきっと私も思うかもしれないけれど、ねえアンナさん、それをあなたが本当にこの街で始めてくれたから、ごく普通の日本人の私でも2024年に美味しく素敵な思い出を作れたよ。

何かを始める時、思い切って踏み出す気持ちや大きな勇気が必要なことが多いかもしれない。けれど、きっとアンナさんがそうだったように、あ〜こんなのいいな!やりたいな!と楽しく始めることもいいなと思った。
意外とそれが長続きして、形を変えながら何百年も続いちゃったりして!
そんなことがあるから、人生って面白いな。

アフタヌーンティー、大好き。

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