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デザインした「問い」の答えは誰が持っているのか:質問と発問との違い

イノベーションプロジェクトや、創造的な学びの場としてのワークショップの「問いのデザイン」について研究を進めていると、インタビュー調査やコーチングなど「質問」の方法論や、学校教育における授業設計の「発問」の領域など、”問い"に関連する近接領域の知見に行き着くことがありますが、「問いのデザイン論」に参考になる部分とならない部分があると感じます。※問いのデザインって何?という方はまず以下を。

今回の記事では、関連領域である「質問」と「発問」と比較することで、「問いのデザイン」の位置付けについて整理しておきます。

情報を適切に引き出すための手段としての「質問」

コーチングやインタビューをはじめとする「質問」の方法論も、ワークショップにおける問いのデザイン論の近接領域だと考えられます。実際に、ミミクリデザインの問いの講座にご参加くださったマーケティング担当者の方が「これはアンケートやインタビューの作成にも役に立つ」とおっしゃっていました。しかしながら、知見としてそのまま転用できる(問いのデザインとイコール)かといえば、差異があると感じます。

コーチングにせよ、インタビューにせよ、その方法論に共通する点は「相手のなかに引き出すべき情報がある」という前提で、質問は「情報を適切に引き出すための手段」として位置付いている点にあります。もちろん一般的な会話における「質問」のなかには上記に当てはまらない例外もありますが、多くの場合は「知らない人」が「知っている人」に対して情報を引き出す手段を想定しているのが特徴です。一つの質問だけで目的を達成しようとするのではなく、いくつかの質問を効果的に組み合わせて目的を達成するアプローチは、ワークショップにおける問いのデザインの観点からも参考になるでしょう。

試行錯誤を引き出し、自ら答えに到達させるための「発問」

第二に思い浮かぶ近接領域は、学校教育における授業研究の領域で議論されてきた「発問」の方法論です。発問とは、授業のねらいを達成するために、教師が生徒に向かって投げかける問いかけや課題を指します。答えを直接提示するのではなく、子どもに考えさせるために問い方を工夫することが重要とされています。以下は、文部科学省がまとめている「授業における発問の要件」です。

発問の要件(文部科学省)
1)何を問うているのかがはっきりしていること
2)簡潔に問うこと
3)平易な言葉で問うこと
4)主要な発問は、準備段階で「決定稿」にしておくこと

発問にはいくつかの分類があり、ここでは詳しく紹介しませんが、たとえば教科書上に直接書いてある内容を読み取らせるための「事実発問」や、教科書に書かれたことから書かれていないことを推測させる「推論発問」、それに対して生徒自身の意見や態度を答えさせる「評価発問」などがあります。

これらを組み合わせて授業を展開するとなれば、たとえば「浦島太郎は、竜宮城から何をお土産に持ち帰ったか?(事実発問)」「玉手箱の中身は、なんだったと思うか?(推論発問)」「あなただったら、玉手箱を開けるか?それはなぜか?(評価発問)」といった具合ですね。
  
これら「発問」の知見も、「問いのデザイン」に参考になるところが多いと感じます。けれども、学校教育における発問というのは、基本的には「答え(知識としての正解や、考えを深めるべきこと)を知っている教師」が、「答えを知らない生徒」に対して、投げかける問いの工夫によって考えさせ、答えに到達させるための手段を想定しています。

「問いのデザイン」の答えはどこにあるのか

他方で、安斎が扱おうとしている「問い」には、これまでみてきた「質問」や「発問」とは決定的に異なる点があります。それは、ワークショップにおいて、問いを投げかけるファシリテーターも、それに答えるかたちで対話を進行する参加者も、対話に取り組む時点では「誰も答えを知らない」という点です。

どこかに「答え」を知っている誰かがいるのであれば、そのゴール地点に向かって、情報を引き出したり、到達のための努力を促したりすることで、目標は達成されます。ところ「問いのデザイン論」によって対象としている問題領域においては、誰も答えを知らないなかで、対話を通して向かうべきゴールを探りあてていく必要があります。

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事前に答えがわからず、さらには答えがあるかどうかもわからない状況において、答えを探るための創造的な対話を促進させるためのトリガーとして、「問い」は位置付いているのです。

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