手土産やお礼、お祝いなど、贈答品を渡す際の常套フレーズ「つまらないものですが」。謙遜や相手を慮った表現ではありますが、時代にそぐわないという声も…。「わざわざつまらないものを贈らなくてもいいのに」「つまらないものなら欲しくない」とまでは思われていないかもしれませんが、もっとスマートに、両者が気持ちよくコミュニケーションできるフレーズを使いたいもの。今日は、「つまらないものですが」の言い換え表現をご紹介します。

【目次】

「つまらないものですが」に対する気の利いた返答もチェック!
「つまらないものですが」に対する気の利いた返答もチェック!

【「つまらないものですが」の「意味」と「由来」】

■そもそも「つまらない」ってどういう意味?

まずは「つまらないものですが」の意味を正確に把握してみましょう。

「つまらない」を分析すると、動詞「つまる」の未然形に、打消しの助動詞「ない」を接続したものとわかります。意味は、「おもしろくない」「興味をひかない」「大したものではない」「取り上げる価値がない」「意味がない」「ばかげている」「甲斐がない」…。そんな「つまらないもの」を差し上げるつもりはなくても、言葉の意味だけ見ると散々です。

■「つまらないものですが」はビジネスシーンでも!

ビジネスシーンでも、「つまらないものですが」というフレーズと共に品物が行き交うことは多いもの。よく使われるのは、訪問先への手土産や、来てくれた訪問者が帰る際にお礼の品を渡すなど、下記のようなシーンではないでしょうか。

・本日は貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。つまらないものですが皆さんで召し上がってください。

・遠いところまでご足労いただき恐縮です。つまらないものですが、お持ち帰りいただけますでしょうか。

■なぜ「つまらないものですが」と言うの?

手土産にしろ、お礼やお祝いの品にしろ、「つまらないもの」という謙遜は日本人らしい表現です。本当につまらないものを贈るわけではなく、相手のことを考えて選んだ品でも「これは素晴しいものです」とは言わないのが日本人。また、素晴しいものであるほど、受け取る相手は負担に感じるはず。その負担を軽減する意味でも、「取るに足らないものなので、お気になさらないでください」という気持ちから、「つまらないものですが」というフレーズを使うのです。

■「つまらないものですが」は明治時代に発祥?

実はこの「つまらないものですが」というフレーズ、由来とされているのが新渡戸稲造(にとべ・いなぞう)の著書『武士道』です。新渡戸稲造といえば、明治から大正時代を中心に活躍した思想家で教育者。昭和後期から平成19年まで発行されていたお札、五千円券の肖像画の人物です。

この『武士道』には、日本人ならではの生き方や考え方が記されています。その中に、「立派なあなたにふさわしい品はありません。私が贈るのは取るに足りないものですが、品物の価値ではなく私の気持ちを受け取ってください」といったような意味の一節が。そこから「つまらないものですが」というフレーズが誕生したといわれています。日本人ならではの奥ゆかしさを表した“大和言葉”というわけです。


【なぜ現在では「つまらないものですが」はNGと言われるの?】

日本人らしい奥ゆかしさや気遣いから使わる「つまらないものですが」というフレーズですが、その意図するニュアンスが伝わらなかったり、不快に感じたりする場合もあるようです。

「へりくだって相手を立てる」という謙遜自体を、不要と考える人も少なくないよう。ビジネスシーンでもそんな風潮が広まっているので、「つまらないものですが」というフレーズは徐々に使われなくなっていく傾向にあるといえます。

では、「つまらないものですが」の代わりにふさわしいのは、どんなフレーズなのでしょう。次に言い換え例文を見てみましょう。


【次から使いたい言い換え表現「現代版つまらないものですが」】

「つまらないもの」というフレーズを使わず、奥ゆかしさや品格を含んだ言い換え表現をご紹介しましょう。 

■言い換え1:「ささやかですが、お受け取りいただけますでしょうか」 

■言い換え2:「気に入っていただけますとうれしく存じます」

■言い換え3:「お口に合うとよいのですが…」

■言い換え4:「お好きだとうかがっておりましたのでお持ちしました」  

■言い換え5:「喜んでいただけそうなものを見つけましたので」

■言い換え6:「人気の品がたまたま手に入りましたので…」

■1の「ささやか」は、「心ばかり」や「ほんの気持ち」などに置き換えても。実は大変な思いをして入手した品であっても、相手の負担にならないよう“手軽さ”をアピールするのも、大人の言い回しです。


「つまらないものですが」には、こんな大人の返答例

最後に、逆の立場になってみましょう。「つまらないものですが」と言われた場合、どんな応対をするのが大人のマナー? 返答例をご紹介します。

■返答1:「お気遣いいただき恐縮です」

■返答2:「喜んで頂戴いたします」

■返答3:「遠慮なく頂戴いたします」

■返答4:「ご丁寧にありがとうございます」

■返答5:「結構な品をありがとうございます」

いずれも受け取ったその場で使いたい返答例です。品物の内容がわからなくてもOK! 改めての返礼では、内容に関してひと言添えるのがマナーです。

 

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本日は、「つまらないものですが」という日本人らしい謙遜表現について学びました。言葉は時代と共に変わっていくものですが、“謙遜”や“慮る気持ち”自体は持ち続けたいもの。世の中の風潮も取り入れつつ、上手に表現していきたいですね。

この記事の執筆者
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