「○○さんって、いつも斜に構えてるよね」。オフィスの廊下や飲み会で、こんな会話を耳にしたことはありませんか?「斜に構える」は、「皮肉っぽくひねくれた態度」を、批判的なニュアンスを込めて表現する際によく使われる慣用句です。でも実は、言葉本来の意味はまったく違ったものであることをご存じですか? 今回は「斜に構える」の正しい意味や由来について解説します。この記事を読めば「斜に構える」のがとてもポジティブな姿勢であることがわかるはずです。

【目次】

剣道の基本姿勢が由来の言葉です。
剣道の基本姿勢が由来の言葉です。

【「斜に構える」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方は「はす」?それとも「しゃ?」

「斜に構える」は「しゃにかまえる」と読むのが一般的ですが、「はすにかまえる」でも正解です。「ななめにかまえる」とは言いませんので、念のため!

■定着した意味  

「斜に構える」は「物事に正面から対処しないで、皮肉やからかい、遊びが混じった態度で臨む」という意味で使われることが多い慣用句です。どこから本気でどこまでがウソなのかわからない、皮肉屋で扱いにくい人物は「斜に構えた」態度の人物は次の行動の予測が難しいため、ストーリーのスパイスとして小説やドラマ、マンガにもよく登場しますね。

■「由来」

実は「斜に構える」は、剣道の「中段の構え」に由来する言葉です。「中段の構え」とは「上段・中段・下段」からなる剣道の基本の構えのひとつ。互いが真正面から向き合い、剣先をまっすぐ相手に向けつつ、刀身を斜めに向ける構えを指します。試合を開始する際、よく目にするあの姿勢です。攻撃と防御、いずれの動きにも移行できる、隙のない姿勢なのだそうですよ。ここから転じて、「斜に構える」は、「(手にした武器、得物などを斜めに持って)しっかりと身構える。改まった態度を取る」という意味になりました。

「斜に構える」の本来の意味は、先にご説明した「皮肉屋で扱いにくいイメージ」とは随分違いますね! 「斜に構える」がひねくれた態度を指すという解釈は、誤用が一般に広がり定着したものといわれています。確かに、「斜」は「斜(なな)め」とも読むので、「物事を斜めに見る」という連想が誤用につながったのかもしれません。


【「斜に構える」の「使い方」がわかる「例文」4選】

現状、「斜に構える」を「しっかりと身構える。改まった態度を取る」という意味で捉える人はほとんどいません。ですからここでは、「皮肉っぽいひねくれた態度」という意味での例文をご紹介します。相手の言動をとがめる、少々批判的なニュアンスで使われていることがわかります。

■1:「妙に斜に構えている人のなかには、少々幼稚な性格の人が多い気がする」

■2:「彼はいつも斜に構えて、人とは違う意見を主張したがる」

■3:「彼女の常に批判的で斜に構えた態度は、リーダーとしていかがなものだろうか」

■4:「彼はいつも斜に構えた態度を取ってはいるが、実は気のいい青年だ」


【「斜に構える」の「類語」「言い換え」表現】

「皮肉っぽくひねくれた態度」という意味での「斜に構える」の言い換え表現をご紹介しましょう。この解釈はもともとは「誤用」だとわかった以上、別のフレーズを選択するのも、賢い選択ですよ!

■ひねくれた ■偏屈な ■皮肉屋の ■シニカルな ■天邪鬼な

「シニカル」は「皮肉な態度を取るさま。冷笑的」という意味。「天邪鬼(あまのじゃく)」は民話などに悪役として登場する鬼で、「何事でも人の意に逆らった行動ばかりをすること。また、そのような人、さま。ひねくれ者。つむじまがり」といったキャラクターが特徴です。ちなみに「斜に構える」の反対の表現は「正面から向き合う。改まった態度を取る」です。正反対の意味で使われているため、本来の正しい意味が対義語になってしまった珍しい例と言えますね。


【「斜に構える」を「英語」で言うと?】

「斜に構える」の英語表現は、「言い換え」表現としてご紹介した「シニカル[cynical]」がぴったりです。

・She was cynical about the work of  the police.(彼女は警察の仕事に対して斜に構えた見方をしていた)

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「斜に構える」は、本来とは正反対の意味で使われている言葉です。「しっかりと身構える。改まった態度を取る」という正しい意味を頭に留めて置くことはもちろん大切。でも、「多くの人は『皮肉っぽいひねくれた態度』が正しい意味だと捉えている」という事実も忘れずに。「正しいことを押し通す」のではなく、状況に合った選択をするのも、「大人の語彙力」というものですよ!

この記事の執筆者
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