二酸化炭素をメタンにほぼ100%変換できる「金属製自己触媒反応器」

二酸化炭素をメタンにほぼ100%変換できる「金属製自己触媒反応器」

レーザー金属3Dプリンティングで 高活性・高選択性・高温耐久性の次世代触媒を作製

2023-6-23工学系
工学研究科准教授森 浩亮

研究成果のポイント

  • レーザー金属3Dプリンティング(AM)技術と電気化学的表面処理を組み合わせることで、ニッケル(Ni)を基盤とした金属製自己触媒反応器の作製に成功した。
  • これは、二酸化炭素(CO2)を原料とし、化学工業で有用なメタン(CH4)の製造反応に高い活性と100%近い選択性を示す触媒として機能する。
  • 従来のセラミクス製反応器に不可欠な触媒層の充填ステップが不要となり、均一な温度分布、高温での高耐久性も示す。
  • レーザー金属AMプロセスのスキャンストラテジーにより触媒性能を制御できる可能性を示した。

概要

大阪大学大学院工学研究科の森浩亮准教授、大学院生のKIM Hyojinさん(博士後期課程2年)、中野貴由教授、山下弘巳教授らの研究グループは、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を有用なメタン(CH4)にほぼ100%の選択性で変換できる金属製自己触媒反応器の作製に、レーザー金属3Dプリンティング(AM)技術と電気化学的表面処理を組み合わせることで成功しました。

既存の粉末状金属ナノ粒子担持触媒は様々な触媒反応に利用されますが、表面エネルギーが高いため、過酷な環境下では凝集や表面構造の変化が起こり失活してしまいます。一方でセラミクス製のハニカム触媒も工業的に利用されていますが、それ自身は触媒機能をもたないため、金属ナノ粒子の担持は不可欠です。また、触媒層に温度分布が生じやすく、特に発熱反応ではホットスポットにより反応の熱暴走・触媒活性の低下が起こり、反応の制御が困難でした。この課題を克服するため、研究グループは高温強度、熱伝導性に優れた金属材料に着目しました。レーザー金属AMプロセスでチャンネル構造を付与し、電気化学的表面処理により触媒機能を示す活性金属を表面に露出させることで、触媒機能と反応管としての機能を併せ持った金属製の自己触媒反応器(SCR: Self Catalytic Reactor)を作製しました。

今回、原料に用いたHastelloy XはNi-Cr-Fe-Moなどを主成分とした固溶強化型合金であり、高温強度、耐酸化性に優れ、宇宙航空用途、産業のガスタービンエンジン燃焼室、排気管などに良く使用されています。レーザー金属AMプロセスで作製した反応管は触媒機能を示しませんが、最適な印可電圧のもとで電気化学的表面処理を施すと、触媒作用を示すNi金属を表面に露出させることができます。触媒性能を、環境・エネルギー分野で切望されている二酸化炭素(CO2)の資源化反応にて評価したところ、100%近い選択性でメタン(CH4)が得られました。また、400⁰Cで数日間利用しても活性が変化しない極めて高い耐久性を示しただけでなく、NaOH水溶液に浸すという簡便な処理で自己溶解メカニズムにより表面の再構築が起こり、触媒活性が向上するという極めて特殊な現象も見出しました。さらに本研究では、レーザー金属AMプロセスのスキャンストラテジーにより、結晶方位が変化し、それにより触媒性能が変化することを示しました。

今回開発した金属製の自己触媒反応器は、レーザー金属AMプロセスを利用することで多様な触媒プロセスに最適な構造を提案できる、過酷な環境下においても安定性が高く触媒の交換が容易なバルク状であるなど、実用化触媒に不可欠な基盤要素を兼ね備えています。また、CO2資源化反応において、実用触媒に資する優れた性能を示しました。今後、レーザー金属AMプロセスによる多結晶から単結晶へのマイクロオーダーでの結晶方位・組織制御を駆使することで、触媒性能のカスタム制御の可能性を秘めています。

本件研究成果は、カーボンニュートラルを指向した触媒分野のみならず、レーザー金属AM技術を基盤とした先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらすことが期待されます。

本研究成果は、Wiley誌「Advanced Functional Materials (アドバンスト ファンクショナル マテリアルズ)」(オンライン)に、6月21日(水)に公開されました。

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図1. レーザービーム粉末床融合結合法 (LB-PBF)の概略図と作製した自己触媒反応管

研究の背景

CO2のメタン化、いわゆるサバティエ反応 (CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O、ΔH = −165.0 kJ mol−1) は、高密度でエネルギーを貯蔵する方法としてだけでなく、CO2を無毒で豊富なC1原料として利用することで大気中のCO2削減を指向したカーボン ニュートラル サイクルを実現する手法としても有望視されています。安定性の高いCO2のメタン化には大量のエネルギー投入が必要であるため、一般に活性化エネルギーを下げて変換を促進するために信頼性の高い触媒開発が近年活発に研究されています。さらに現状では、粉末状の金属ナノ粒子担持触媒を充填した反応器が用いられているが、化学プラントの省エネルギー化に向けて新たな触媒形状を提案する必要があります。

研究の内容

高温強度、熱伝導性に優れた金属材料に着目し、レーザー金属AMプロセスでチャンネル構造を付与し、触媒機能を示す活性金属をその表面に電気化学的表面処理により露出させることで、触媒機能と反応管としての機能を併せ持った金属製の自己触媒反応器(SCR: Self Catalytic Reactor)を作製した。作製したSCRは、二酸化炭素のメタン化反応において、従来のセラミクス製反応器にNiナノ粒子を担持した触媒に比べ高い活性・選択性を示しただけでなく、400⁰Cで長時間利用しても、高い耐久性を示しました。さらに興味深いことに、NaOH水溶液に浸すという簡便な処理で自己溶解メカニズムにより表面の再構築が起こり、触媒活性が向上するという極めて特殊な現象も見出しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回開発した金属製の自己触媒反応器は、レーザー金属AMプロセスを利用することで多様な触媒プロセスに最適な構造を提案できる、過酷な環境下においても安定性が高く触媒の交換が容易なバルク状であるなど、実用化触媒に不可欠な基盤要素を兼ね備えています。さらに本研究では、レーザー金属AMプロセスによる多結晶から単結晶へのマイクロオーダーでの結晶方位・組織制御を駆使することで、触媒性能のカスタム制御の可能性を示しており、カーボンニュートラルを指向した触媒分野のみならず、レーザー金属AM技術を基盤とした先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらすことが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2023年6月21日(水)にWiley誌Advanced Functional Materials (アドバンスト ファンクショナル マテリアルズ)」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Robust self-catalytic reactor for CO2 methanation fabricated by metal 3D printing and selective electrochemical dissolution”
著者名:Hyo-Jin Kim, Kohsuke Mori*, Takayoshi Nakano, Hiromi Yamashita
DOI:10.1002/adfm.202303994

なお、本研究は、大阪大学大学院工学研究科の異方性カスタム設計・AM研究開発センターの支援のもと行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

金属ナノ粒子

ナノメートル(nm)サイズの大きさをもつ粒子であり、触媒をはじめ、医薬品、電池など様々な製品に応用されています。触媒反応は触媒表面で起こるため、触媒粒子をナノサイズにまで小さくすると反応が大幅に促進されたり、触媒の量を減らすことが可能になります。

金属AMプロセス

金属積層造形(Additive Manufacturing: AM)技術は、電子ビームまたはレーザーにより必要な部分の金属粉末を溶解し、凝固させて金属部品を製作する技術である。複雑な形状や強度の高い金属などの難しい成形を可能にし、緻密な3D形状を造形することができるため、航空宇宙産業、自動車分野、医療分野等に幅広く適用されている。金属粉末を敷き詰め、溶融・凝固を繰り返すことで造形する手法をパウダーベッド方式という。

二酸化炭素(CO2)の資源化反応

温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を炭素原料とし、水素(H2)などと反応させることで、化学工業で有用な一酸化炭素(CO)やメタン(CH4)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)などへと変換すること。