ワールドカップ 2023.09.21

母国代表の誘い乗らず日本で脱水症状…。ライリー、夢のワールドカップで躍動。

[ 向 風見也 ]
母国代表の誘い乗らず日本で脱水症状…。ライリー、夢のワールドカップで躍動。
イングランド戦で後半出場から攻守に奮闘した日本代表のディラン・ライリー(撮影:松本かおり)


 ディラン・ライリーが、ようやく本来のパフォーマンスを披露した。

 現地時間9月17日、スタッド・ド・ニース。今回が初出場のワールドカップ・フランス大会のプールDの一戦にあって、日本代表の22番をつけていた。相手は前回準優勝のイングランド代表だった。

 ライリーが出たのは後半10分から。WTBに入った。グラウンドに入ってまもなく、中盤左端で味方のキックを追いかけた。相手側の、エスコートと呼ばれる捕球役を保護する選手の群れをかいくぐった。球の落下地点に迫った。球を手にした選手へ刺さった。押し返した。

 続く18分には、攻撃でも魅する。中盤右のラインで球をもらうと、一瞬、右へ膨らむようなコースをとり、一転、左前方へ切れ込む。防御網を破る。敵陣22メートルラインを越え、チャンスを作った。

 結局は、その折に得点できなかった。12-34と敗れた。

「求めた結果ではなかった。ただ、この試合から学べたことはあった」

 鮮烈な印象を残したうえで、チームの収穫と課題を語る。

「相手がしてくるキッキングゲーム、モールやスクラムをある程度は止められた。ただ、こういう試合で勝つには80分間すべきことをし続けなければいけません。そして、目の前のチャンスをものにしなければ…」

 さかのぼって10日。スタジアム・ド・トゥールーズでの初戦では、アウトサイドCTBで先発していた。

 しかしタックルミスで失点を招き、反則でイエローカードをもらうなど、本来の力を発揮できなかった。初体験のワールドカップは、異空間だったか。

 スターターから外れて臨んだこの一戦は、リベンジの機会でもあった。

「去年の自分が一番よかった状態に戻したいと思っていました。大きなプレッシャーのかかる舞台で、強気で自分のプレーがしたい。強みを出したい。今日は幸運にも、少しはそういう部分が見せられた」

 身長187センチ、体重102キロの26歳。南アフリカ生まれだ。育ったオーストラリアでラグビー選手として評価され、20歳以下オーストラリア代表に選ばれた。

 来日は2017年。現所属先の埼玉パナソニックワイルドナイツの前身クラブへ、練習生として入った。もともとオーストラリア国内で評価が高く、周りにはライリーの海外流出を防ぐ動きもあったと言われる。

 しかし本人は、プロ契約のチャンスが大きかった日本を選んだ。結果として新天地で頭角を現し、2021年には日本代表へ初選出。その後もオーストラリア代表から食指が伸びたとされる時期もあったが、本人は赤と白のジャージィを選んだ。

 初めてオーストラリアを離れる時の思いを、こう振り返ったことがある。

「さまざまな対立する意見があったとは思いますが、最終的には自分がどうすべきかを決断する時がきたのです。日本に来る、という決断です。結果的にうまくいきました。これからも一生懸命、頑張りたいと思っています」

 日本代表は、ハードワークと緻密な組織プレーの徹底を長所に強豪国へ挑む。

 6月中旬からの浦安合宿では、オーストラリアのラグビーリーグ界(13人制)で知られるジョー・ドネヒュー氏を客員コーチに招いた。約1時間、休まずにおこなう格闘技風のセッションを実施。身体衝突への耐性を磨いた。

 その初日、あまりの厳しさにライリーは脱水症状を起こした。

 それでも這い上がり、ワールドカップの舞台までたどり着いた。

「いままで経験してきたなかで、もっともタフな合宿でした。ただ、いま思えば、それが強化に必要でした。例のセッションでは、疲れて手を膝に置いたりしたら『やり直し!』と言われていました。さまざまなメンタリティーを持っている選手同士で、互いに助け合わなければいけませんでした。疲れた時に働き続けるべきと思えた。また、強みにしていきたいタックルのテクニックを磨けたのです。その成果が(本番で)表れることを、願っています」

 地元を離れ、異国のナショナルチームで過酷なトレーニングに耐え、ラグビー選手にとっての夢舞台に立っている。勝利を楽しむのがゴールだ。

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