公開日:2022/02/01
更新日:2023/02/25

「学習の転移」とは?効率よく学ぶための活用法や具体例を解説

「学習の転移」とは?効率よく学ぶための活用法や具体例を解説 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

学校教育や職場での研修など、日常生活における「学び」の場面において、ある学習が他の学習へと影響を与える現象を「学習の転移」といいます。うまく活用できれば企業での人材育成にも役立つ概念です。本記事では、学習の転移の概要や具体例、活用するためのポイントについて解説します。

 

01学習の転移とは

学習の転移とは、過去に学んだ知識や習得した技術、経験などの学習がその後の新たな学習に影響を与える現象を指します。生まれる影響の内容によってさまざまな分類がされていますので、具体例を交えながら見ていきましょう。

正の転移/負の転移

学習の転移を理解する際に基本的かつ重要な分類が、「正(=プラス)の転移か、負(=マイナス)の転移か」です。 正の転移は、先行学習が後続学習に対して良い影響を与えることを指します。例としては、大学で学んでいたマーケティング理論が就職後の営業業務に活かせたり、毛筆習字を長く習っていた人がペン習字でも早く上達したりといったケースがあります。 これに対して、先行学習が後続学習を阻んでしまう現象が負の転移です。例えば日本語話者が英語を学ぶ際、日本語の文法にひきずられて誤った構文をしてしまったり、油彩画の表現に慣れた画家が日本画に転向する際に、手法の違いに苦労したりというような現象が起きることがありますが、これは負の転移が働いてしまっているためです。 効率よく学習内容を身につけるには、正の転移を促進し負の転移を防ぐことが重要だといえるでしょう。

特殊転移/一般転移

正の転移は、先行学習のうちどのような要素が転移したかによって、特殊転移と一般転移に分けられます。 特殊転移は、先行する学習と後続の学習の内容に類似性があり、先行学習固有の知識や技術などが後続の学習に転移している状態を指します。例えば、トランペットを吹くことができる人が、トロンボーンやチューバなどの演奏についても呑み込みが早いような場合、トランペットの演奏で学んだ「金管楽器固有の音の出し方や呼吸法」が転移していると考えられます。 対して一般転移は非特殊転移とも呼ばれ、問題を解く際の思考方法や学習方法、態度など、先行学習の内容自体とは関連性の薄い一般的な要素が転移することを指します。

近転移/遠転移

学習の転移を、先行学習と後続学習の関係によって分類したのが近転移と遠転移です。 読んで字のごとく、先行学習と後続学習の間の類似性が強く「近い」関係にある場合に起こった転移のことを近転移と呼び、類似性が低く「遠い」関係にある場合に起こった転移のことを遠転移と呼びます。 例えば、中学数学の学習と高校数学の学習の間における転移は近転移、数学の学習と法律学の学習の間における転移は遠転移と呼べるでしょう。

垂直転移/側方転移

垂直転移と側方転移は学習分野に焦点を当てた分野です。垂直転移とは、同じ分野でより高いレベルに対して転移している状態を指します。一方で側方転移は違う分野で同じレベルに対して起こります。例えば、営業力がある社員が営業力をさらに伸ばしていった場合は、垂直転移です。反対に、営業力がある社員が営業力を伸ばしてきた過程をもとに、営業力と同様のレベルでWebマーケティングのスキルをつけていくことが側方転移です。垂直転移は「深めていく」、側方転移は「広げていく」と考えると良いでしょう。

 

02教育学・認知学における変遷から見る「学習の転移」が起こる条件

学習の転移は、人が学ぶ上では非常に重要な現象ですが、それが起こる条件についてははっきりとした結論が出ているわけではなく、さまざまな議論がなされています。日常生活に「学習の転移」を活かすヒントを探るために、教育学・認知学における議論の変遷について紹介します。

ソーンダイクによる提唱

学習の転移について研究を行ったのは、ソーンダイクが最初と言われています。彼は認知学的な実証実験によって、先行学習と後続学習の間に類似性がある場合、学習の転移が起こると主張しました。これは当時の教育学における「形式陶冶説」(教育は具体的な学習内容よりも、精神的な能力を磨くことを目的としているという説)に疑問を呈し、科学的根拠をもって新たな概念を提示したという点で画期的なものでした。 しかし、転移の起こる条件を限定することで人の「学び」の可能性を狭める側面もあり、課題が残る内容でした。 これに対して、ジャッドやヴェルトハイマーは、転移は学習内容における類似性ではなく、そこで学んだ一般的な原理・原則が後続学習にも適用できる場合に起こるとしました。

レイヴらによる批判

「学習の転移」という概念自体を疑問視したのが、レイヴをはじめとする状況論者です。 レイヴらは、日常生活における人々の認知活動や、学校教育によって得られた知識が日常生活にどの程度転移しているかといった研究を行いました。その結果、一般的な学習が日常生活のスキルに転移している根拠は見られず、むしろ仕事や生活といった、日常での活動によって知識やスキルは蓄積されていくものだと主張しました。学校教育の意義の否定にもつながりうる、非常にインパクトの強い考え方です。

近年の研究による新たな見解

古典的な提唱から状況論者による批判を経て、近年でもさまざまな立場から「学習の転移が起こる条件」について議論がされています。 Engleは、頭の中に知識が蓄積されているだけでは転移は起こらず、知識を活用する文脈が重要だと主張しました。例えば同程度の知識を持っている人でも、周りにその知識を持つ人がおらず、非常に頼りにされているという状況と、周囲が自分よりも高度な知識を持っているという状況においては、転移の程度も異なるという考え方です。 シュワルツは、転移の起こるスパンは長期的に見るべきだと主張しました。ある学習がそのとき最終的な成果につながらなくとも、将来的に他の学習を行い、新たな課題を解く際の準備となるという考え方です。過去に取り組んだ課題が次の課題への取り組み方に影響を与え、それがまた他の課題の解決につながるといったように、連鎖的に転移が起こるとしました。 研究者によって転移やその範囲の定義が異なるため、転移が起こる条件を一言で断言することは難しいのですが、いずれも学校教育や職場における学習に、ヒントをもたらす考え方ではないでしょうか。

 

03職場における学習の転移

日常生活のさまざまな場面で起こっている学習の転移ですが、勿論職場も例外ではありません。人が働く場においてはどのような転移が考えられるか、例をご紹介します。

業務経験と学習の転移

仕事をするうえで常に起こっていると考えられるのが、業務経験そのものによる学習の転移です。例えば、営業部門から人事部門へ異動した社員が、営業職として培った「モノを売り込む」能力を活かして、就活生へ訴求力のあるプレゼンテーションを行うことができるようなケースが挙げられます。 配置転換による人材育成も、広義ではこの業務経験による学習の転移を狙ったものであるということができるでしょう。

研修と学習の転移

研修で学んだことを実務に活かすことが出来た場合、研修による学習の転移が起きたといえます。研修内容や運用方法の工夫によって転移を促せば、研修の効果を高めることができるため、人事担当として特に注目すべき分野です。

 

04企業が「学習の転移」を促進することのメリット

教育学的文脈での言及が多い学習の転移ですが、企業内での人材育成にこの概念を取り入れれば、次のようなメリットが期待できます。

社員の成長スピードを高める

研修や業務経験による学習の転移が促進されれば、社員の成長スピードを高めることが期待できます。新たに学ぶ知識や経験に一から取り組むのではなく、過去の学習を活かして効率的に学ぶことで、より高度なスキルアップが望めるでしょう。

職場の生産性を高める

学習の転移が正方向へ働いていれば、異動などで新たに加入したメンバーが異動先の業務に習熟するスピードを高めたり、既存のメンバーが新たな業務内容へ挑戦する際の学習コストを低減したりといった効果が得られます。過去の経験をうまく次の仕事へ活かすことができる社員が多ければ、職場の生産性の向上にもつながるでしょう。

 

05研修による学習の転移を引き出すために

学習の転移を引き出し、社員のスキルアップにつなげるためには、どのような対策を取ればよいのでしょうか。ここでは、人事担当者が取り組みやすい「研修による学習の転移」に絞り、Pollock R.V.H.”The Six Disciplines of Breakthrough Learning”から得られる知見をベースにご紹介します。

研修をイベント化しない

研修による学習の転移を促進するうえで禁物なのは、「学習の転移はひとりでに起こる」という考え方です。 そもそも研修で学んだことの60%から90%は、その後の業務に活かされないとも言われていますが、その一因として組織が研修を「通常業務とは異なるイベントごと」ととらえ、研修後の業務への活用を参加者の自主性にゆだねていることが挙げられます。 人事部門として学習の転移を促すための仕組み作りを積極的に行い、研修での学びを実務へつなげていくことが重要となります。

職場での活用までを見越して研修をデザインする

研修による転移を促すためには、学んだことを実際に職場で活用することを見越して研修の企画と運用を行うことが必要となります。ステップごとに見ていきましょう。

①研修成果の定義

最初に必要なのは、「その研修はどのような成果を得ることを目的としているのか」という点に対する定義付けです。それも、漫然と社員の能力向上を目標として挙げるのではなく、事業戦略に対応した具体的なパフォーマンスまで落とし込んで設定することで、実務との結びつきを高めることができます。

②受講前後を含めた学習経験のデザイン

具体的な研修内容を企画するフェーズで重要なのが、研修を受けている時間だけでなく、その前後も含めて学習の経験を組み立てることです。研修に臨む際の事前準備から、終了後の振り返りまでの一連の流れで、求めるパフォーマンスの向上につなげるための仕組みをデザインすることで、研修をその場限りのイベントではなく、実務と地続きのものとして位置づけることができます。

③実務との関連性を明確にした研修の実施

研修の実施においては、受講者がその場で学んだことを職場での課題解決に応用できるよう、実務との関連性や活かせる場面などについても具体的に伝えるよう工夫しましょう。なぜその研修を受けるべきなのか、そこで学ぶ内容が自身の業務改善にどうつながるのかということを、受講者が明確に思い描けることが大切です。

④実務での活用の促進

学習内容を実務に活かすためには、研修受講者だけでなくその職場への働きかけも重要です。受講者の上司が学習の転移を社員の成長のために重要なプロセスと理解し、学んだことを活かす場を積極的に受講者へ与えることができれば、研修による転移が適切に起こる可能性は高まります。

⑤職場での活用促進のためのツールの提供

研修終了後における人事部門の効果的な取り組みとして、学習の転移を職場任せにするのではなく、実務での活用を促進するために有用なツールを職場へ提供することが挙げられます。人事担当者によるコーチングなどのサポートや、学んだことが実行できているかのチェックシートなど、マンパワーに応じて対応を工夫しましょう。

⑥研修成果の測定

研修を行った際は、最終的な効果測定が必要です。その研修が提供できる価値を明確にしたうえで、継続の有無や内容の変更を検討し、さらなる質の向上を目指しましょう。

 

06人材育成ならSchooのオンライン学習サービス

Schoo for Businessは、国内最大級8,000本以上の講座から、自由に研修カリキュラムを組むことができるオンライン研修サービスです。導入企業数は2,700社以上、新入社員研修や管理職研修はもちろん、DX研修から自律学習促進まで幅広くご支援させていただいております。

Schoo for Businessの資料をもらう

Schoo for Businessの特長

Schoo for Businessには主に3つの特長があります。

【1】国内最大級8,000本以上の講座数
【2】研修設定・管理が簡単
【3】カスタマーサクセスのサポートが充実

Schooの講座を紹介

Schooは汎用的なビジネススキルからDXやAIのような最先端のスキルまで、8,000本以上の講座を取り揃えております。この章では、Schooの授業を一部紹介いたします。

これだけは押さえたい社会人マナー

コミュニケーションを取る上での心構えとマナーから学んでいきましょう。 当たり前に行っている挨拶や敬語ですが、きちんと基礎を押さえられているでしょうか。 実践パートではみなさんも是非動画を見ながら一緒にお試しください。

 
  • コミュニケーションアドバイザー/大学講師

    大学講師、コミュニケーションアドバイザー。大手出版社で営業、編集経験を経て、2000年から大学で敬語、面接、マナー、コミュニケーション、就職講座の講師を担当。国際基督教大学、日本大学芸術学部、明治学院大学、東洋大学、上智大学、東北医科薬科大学など、全国の大学生に楽しくて分かりやすい熱血講義を展開中。 また、社会人研修やコミュニケーション講師として【オーダーメイドの伝え方】をアドバイス。 実務教育学会所属。イノベーションコンテストでビジネス企画賞を受賞。著書に10万部突破ベストセラー『さすがと言われる話し方・聞き方のビジネスマナー』、『敬語すらすらBOOK』など90冊。 近著に『大学生からはじめる社会人基礎トレーニング』、『きちんと伝える全技術』がある。またTBSテレビ『クイズ日本語王』『マツコの知らない世界』『王様のブランチ』、フジテレビ『ノンストップ』、テレビ朝日『SMAPがんばります』など多くのテレビ番組にも出演。

これだけは押さえたい社会人マナーを無料視聴する

※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。

「人材マネジメント」について -理論と実践のツボ-

本授業では、「人材マネジメント」について解説します。 いまさら聞けない「人材マネジメント」の言葉の意味や目的、効果的な方法、今後のマネジメントを皆さんで学んでいきましょう。

 
  • 株式会社壺中天 代表取締役

    1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルート社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、急成長中のアカツキ社で人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志を形にする」ことを目的として壺中天を設立。 20年間、人事領域を専門分野としてきた実践経験を活かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、人材マネジメント講座などによって、企業の人材マネジメントを支援している。 主な著作『人材マネジメントの壺』(2018)、『図解 人材マネジメント入門』(2020)など。

「人材マネジメント」について -理論と実践のツボ-を無料視聴する

※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。

論理的に聞く力〜「論理的に話す」前に大切なこと

本授業は、普段「わかりやすく説明ができない」「相手に意図がちゃんと伝わっている気がしない」など、コミュニケーションに課題意識を持つ方に向け、論理的に話す以前に意識しておきたい「論理的に聞く力」について学んでいきます。

 
  • コミュニケーション・スピーチコンサルタント、CCO代行

    福岡のTV局・ラジオ局で年間300日以上の生放送に出演。その経験を元に独立し、現在は企業向けの人材育成研修や人材育成コンサルティング、経営者や元アスリートなどのスピーチコンサルティングを行う。組織活性、営業成績4倍UP、スピーチ力向上による顧客獲得率UPなど成果を上げるためにとことんクライアントに寄り添う。 企業研修:200社以上、個別コンサルティング:300名以上の実績あり。 趣味は読書と音楽鑑賞と筋トレ。無類のチョコレート好き。

論理的に聞く力〜「論理的に話す」前に大切なことを無料視聴する

※研修・人材育成担当者限定 10日間の無料デモアカウント配布中。対象は研修・人材育成のご担当者に限ります。


 

研修をしてもその場限り」「社員が受け身で学ばない」を解決!
研修と自己啓発で学び続ける組織を作るスクーの資料をダウンロードする


■資料内容抜粋
・大人たちが学び続ける「Schoo for Business」とは?
・研修への活用方法
・自己啓発への活用方法 など

Schoo_banner
 

07まとめ

学習の転移は、人材育成においては非常に重要な意義を持つ概念です。学術的には未だ明らかになっていない曖昧な部分も多くありますが、概略を理解しその考え方を取り入れることで、より効果的な育成施策を検討することができるでしょう。

【無料】働き方改革から学び方改革へ~学ぶ時間の創出で離職率が低下した事例~|ウェビナー見逃し配信中

働き方改革から学び方改革へ~学ぶ時間の創出で離職率が低下した事例~
 

働き方に関する制度改善を多数行ってこられた株式会社クロスリバー 代表取締役 越川慎司氏をお招きし、「残業削減ではない方法で働き方改革を行い、社員の自発性と意欲を著しく向上させ、離職率を低下させるための自律学習の制度設計」について語っていただいたウェビナーのアーカイブです。同社の調査・分析内容と自律学習の制度設計を深堀ります。

  • 登壇者:越川 慎司様
    株式会社クロスリバー 代表取締役

    ITベンチャーの起業などを経て2005年に米マイクロソフト本社に入社。業務執行役員としてパワポなどの責任者を経て独立。全メンバーが週休3日・リモートワーク・複業の株式会社クロスリバーを2017年に創業し、815社17万人の働き方と成果を調査・分析。各社の人事評価上位5%の行動をまとめた書籍『トップ5%社員の習慣』は国内外で出版されベストセラーに。

アーカイブを無料視聴する

  • Twitter
  • Facebook
  • はてなブックマーク
  • LINE
この記事を書いた人
Schoo編集部
Editor
Schooの「世の中から卒業をなくす」というミッションのもと活動。人事担当や人材育成担当の方にとって必要な情報を、わかりやすくご提供することを心がけ記事執筆・編集を行っている。研修ノウハウだけでなく、人的資本経営やDXなど幅広いテーマを取り扱う。
執筆した記事一覧へ

20万人のビジネスマンに支持された楽しく学べるeラーニングSchoo(スクー)
資料では管理機能や動画コンテンツ一覧、導入事例、ご利用料金などをご紹介しております。
デモアカウントの発行も行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

お電話でもお気軽にお問い合わせください受付時間:平日10:00〜19:00

03-6416-1614

03-6416-1614

法人向けサービストップ