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「称賛」の力で組織を強くする ─社内コミュニケーションを活性化するアプリサービス「PRAISE CARD」(後編)
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「称賛」の力で組織を強くする ─社内コミュニケーションを活性化するアプリサービス「PRAISE CARD」(後編)

コロナ禍で対面でのコミュニケーションが減り、リアルな場での会話を通じて培われていた社員同士の信頼関係や連帯感が希薄化するといった課題に直面するケースが増えています。企業のこのような課題を解決するため、BIPROGY、博報堂コンサルティング、博報堂の3社が、ブロックチェーン技術を活用し職場コミュニティを活性化するアプリサービス「PRAISE CARD(プレイズカード)」を開発、千代田化工建設のご協力のもと実証実験を重ねてきました。開発を担当したBIPROGYの小谷野さん、博報堂コンサルティングの依田・橋本、博報堂の伊藤と、実証実験にご協力いただいた千代田化工建設の林さんの座談会の内容を前後編でお届けします。
後編では、千代田化工建設での実証実験の内容やそこからみえてきた効果と課題、今後の展望などをご紹介します。

>>前編はこちら

林 千瑛氏 千代田化工建設株式会社 フロンティアビジネス本部 水素事業部 シンガポール事業セクション プロジェクトマネージャー 兼、バリューイノベーション推進部 DIGLABグループ
小谷野 圭司氏 BIPROGY株式会社 グループマーケティング部 企画推進室 室長
依田 真幸 博報堂コンサルティング プロデューサー
橋本 啓太 博報堂コンサルティング プロデューサー/デザイナー
伊藤 佑介 博報堂 ビジネス開発局/HAKUHODO Blockchain Initiative

組織を成長させる「成功循環モデル」

──「成功循環モデル」とはどのようなものでしょうか。

林(千代田化工建設)
組織の成長を4つの「質」で捉えるモデルです。組織を構成する人たちの「関係の質」が改善されると、「思考の質」が向上し、それによって「行動の質」が変化し、「結果の質」につながる。それが成功循環モデルの基本的な考え方です。ビジネスでは結果の質だけが重視される傾向がありますが、確かな結果を生み出すためには、それ以外の3つの「質」を高めていく必要がある──。その考え方は、私たちにとってとても納得できるものでした。

まず関係の質を高めるために、メンバー同士が気軽に「ありがとう」と言い合える関係がつくれないか。そう考えていたときに、たまたま博報堂コンサルティングのSNSでPRAISE CARDのことを知りました。「これだ!」と思ってさっそく連絡をとり、サービスの概要をうかがいました。そこで依田さんが口にされたのが、まさに成功循環モデルでした。関係の質を高めることで、思考や行動や結果の質を生み出すのがPRAISE CARDの機能だと。

──偶然にも共通する問題意識があったわけですね。

考えていたことが完全に一致していました。すぐにPRAISE CARDの実証実験に社内で取り組んで、成功循環モデルをつくる試みに着手することにしました。
依田(博報堂コンサルティング)
林さんとお会いする前から、私もBIPROGYの小谷野さんも成功循環モデルに着目し、それを実現するツールがPRAISE CARDであるという共通の認識がありました。本当に偶然の一致でしたね。

──実証実験の具体的な内容についてお聞かせいただけますか。

実証実験がスタートしたのは2022年4月です。世界最大級の液化天然ガスのプラントを建設するプロジェクトがあり、そのチーム内コミュニケーションを活性化させる、というのがこの実験の狙いでした。社内有志メンバーとの対話を重ね、その趣旨をプロジェクトマネージャーとプロジェクトディレクターに伝え、プロジェクトメンバーに実験に協力してもらう段取りを立てました。

カードの内容は自由にアレンジできるということだったので、成功循環モデルのそれぞれの「質」に合わせて2枚ずつ計8枚のカードを用意し、それに建設現場や社内事情を踏まえた2枚のカードを加え、計10枚での運用としました。それらのカードがやり取りされることによって、「4つの質」のサイクルが回っていくのではないかというのが私たちの仮説でした。

依田
博報堂コンサルティングとBIPROGY側のメンバーは、実験に伴走しながら、定例ミーティングで困りごとをお聞きして、一つ一つ改善策をご提案しました。林さんたちの方針が非常に明確だったので、カードの文言などはすべて千代田化工建設側でつくっていただきました。
小谷野(BIPROGY)
実際にPRAISE CARDを利用していただく過程で出てきた課題は、非常に重要な気づきでしたね。林さんと私たちの間でキャッチボールをしながら、機能などをどんどんブラッシュしていきました。素晴らしいと思ったのは、「サービスを提供する側と提供される側」という関係ではなく、千代田化工建設の皆さんと私たちが1つのチームになって、サービスをより良くしていく関係がつくれたことです。私自身、これまでいろいろなソリューション開発に携わってきましたが、ここまでまとまりのあるチームは初めてでした。
橋本(博報堂コンサルティング)
林さんから困りごとのリストをいただけたのは、PRAISE CARDのリニューアルにとても役立ちました。困りごとだけでなく、頻繁にやり取りされているカードが何かを明らかにして、その要因を分析するといったことにも取り組みました。まさに開発側とユーザー側が一体となってツールを成長させることができたと感じています。

カード授受のデータからみえてくる組織の現状

──実証実験の成果はどのようなものでしたか。

プロジェクト内で半年ほどPRAISE CARDを使ってみての大きな気づきは、カードの授受の動きを見ることによって、メンバーの感情、思い、行動などを把握できることでした。これまでは、プロジェクトの進捗状況は見えても、その中でそれぞれのメンバーがどんなことを考え、どんな動きをしているかを把握することはほとんどできませんでした。とくに大規模プロジェクトになると、働いている場所も属している部門もばらばらなので、把握はさらに難しくなります。しかし、誰がどのようなカードを授受しているかを見れば、プロジェクト内の日々の動きを知ることができるし、問題がある場合はそれに対処することも可能になります。
依田
実際に、思考の質や行動の質にも変化が見られましたよね。林さんの同僚の女性で、最初は「おもしろそう」という感じでこの実証実験に関わっていらした方が、徐々にPRAISE CARDによるコミュニケーションの可能性に気づいて、どんどん前向きな提案をしてくださるようになりました。実証実験を運用する側のメンバーの思考や行動が変わったことも大きな成果だと思います。
自分で新しいカードを設計したり、週単位で配ることができるカードをつくってキャンペーンを仕掛けたりするなど、とても積極的に動いてくれるようになりました。近くにいて日に日に目の輝きが増してくるのがわかりました。「私はこのサービスに関わって人生が変わりました」とまで言っていましたね(笑)。成功循環モデルは、そのモデルをつくり出そうとしている人自身も大きく変えるということがよくわかりました。
小谷野
カードの授受の記録からいろいろな分析ができたことも成果の一つと言えると思います。例えば、プロジェクト内の組織やチームごとにカードの授受の動きを見ることで、それぞれのチームが何を大切にしているかがわかります。また、その組織内だけでカードが流通しているのか、組織を超えたカードのやり取りがあるのかといったことも把握できます。もちろん、組織の中でカードが活発に授受されること自体は悪いことではありません、しかし、その組織のミッションが他の組織との連携にあるとすれば、閉じたコミュニケーションを改善する必要があります。以前はそういったデータがなかったので、インターナルコミュニケーションの施策はどうしても手さぐりにならざるを得ませんでした。データがあることによって、ピンポイントでアクションを起こすことが可能になることも実証実験から見えてきました。
伊藤(博報堂)
データがあることで、ネットワーク分析もできるようになりましたよね。カードのやり取りをネットワーク図にすると、どの領域でのコミュニケーションが密で、どの部分でのコミュニケーションが足りないかがはっきりとわかります。さらにそれを時系列で追っていくと、組織の変化や成長を確認することができます。これを成功循環モデルと組み合わせて、どの部門のどの人材に働きかければ、関係の質が高まり、それが思考の質、行動の質につながっていくかという道筋もつくることができるようになるかもしれません。

「暖かいデジタル」の力で日本を元気に

──現在はどのような課題を持つ企業からのご相談が多いのでしょうか。

依田
博報堂コンサルティングでは、さまざまな企業の方から経営課題や人事課題のご相談を日々いただくのですが、その解決策の一つとしてPRAISE CARDをご提案してお使いいただいているケースがいくつかあります。また、パーパスの理解と浸透を進める実証実験にご協力いただいたケースもあります。その実験では、PRAISE CARDの活用がパーパスの理解につながったという社員の皆さんが4割を超えました。説明会も定期的に開催していて、これまで400名を超える方々にご参加いただいています。

私たちが現在考えているのは、PRAISE CARDを「課題発見ツール」として活用していただくという方向性です。インターナルコミュニケーションの課題に関する仮説があったときに、PRAISE CARDを導入することによって、課題が人材にあるのか、組織構成にあるのか、あるいは仕組みにあるのかといったことを明らかにする使い方です。まずはPRAISE CARDをご利用いただいて、課題を明らかにし、その課題解決をお手伝いしていく。そんなモデルをつくってクライアントに貢献していきたいと考えています。

──今後、このソリューションの価値をどう広げていきたいとお考えでしょうか。それぞれの思いをお聞かせください。

小谷野
企業や組織で働いている皆さんの中には、大きなポテンシャルがあってもそれを活かしきれていないと感じておられる方が少なくないと思います。むしろ、組織の枠組みに自分のポテンシャルを無理矢理あてはめているケースが多いのではないでしょうか。それはとてももったいないことだと思います。

PRAISE CARDは一人ひとりの「自分らしさ」を肯定して、ポテンシャルを十分に発揮することを後押しするツールです。自分らしくあろうとしている人が称賛され、勇気づけられ、自信をもって活躍して、仕事の成果を出していく。そんな動きが活発になれば、組織全体が成長していくし、何より一人ひとりが楽しく働けるようになりますよね。

企業にも社会にもいろいろな課題がありますが、一人ひとりが自分のポテンシャルをフルに発揮できれば、その多くは意外と簡単に解決できるのではないかと私は思っています。PRAISE CARDにはそれを実現できる可能性がある。そのことを多くの方にお伝えしていきたいですね。

橋本
PRAISE CARDは、「誰かを称賛する」というとてもシンプルな機能に特化したサービスです。シンプルであるがゆえに、あらゆる業種、業態、規模の企業にお使いいただけると考えています。多くの企業がインターナルコミュニケーションのツールとして当たり前に活用できるサービスにしていくために、デザイナーとしてこれからも機能性やデザインに磨きをかけてきたいと思います。
伊藤
私たちは、PRAISE CARDは自己分析のツールにもなると考えています。もらったカードを分析することで、自分のどのような行動が称賛に結びついているかがわかるし、逆に自分に足りないところも見えてきます。また、どのような人が自分に近い考え方をもっていて、どのような人が自分に欠けているところを補完してくれる存在なのかといったことを把握することも可能です。PRAISE CARDは、企業や組織で働く方々が自分の力を再発見したり再認識したりできるツールでもあるということを広めていきたいですね。
まずは、これまで実証実験を行ってきたプロジェクトでPRAISE CARDを継続して活用し、プロジェクトの成功に寄与したいと思っています。重要なのは、一人ひとりがワクワクしながら仕事に前向きに取り組めるようになることです。その結果として、プロジェクトが成功し、会社の文化も変わっていく。そのような流れをPRAISE CARDでつくっていければいいですよね。

これまで、私たちの現場での取り組みをBIPROGY、博報堂コンサルティング、博報堂の皆さんにお伝えし、それに対する意見をお聞きする中から次々に新しい気づきが生まれてきました。今後も、このチームでの活動と皆さんとの対話を大切にしてきたいと思っています。

依田
これまでの実証実験やクライアントの活用事例を通じて、企業活動にPRAISE CARDが浸透していくことによって、社員の皆さんの創造性が育まれるという確かな実感を私は得ています。創造力を持った人たちが集まった組織は創造的な組織になるし、創造的な組織同士の共創が進むことによって、新しい価値が創造されることになります。そのような動きがあちこちで起これば、日本全体の創造力も向上していくのではないでしょうか。PRAISE CARDは、デジタルの力で小さな称賛の集積を大きな創造性につなげるソリューションです。人間味のある「暖かいデジタル技術」と言ってもいいかもしれません。暖かいデジタルの力で日本を元気にしていく。そんな大きな夢に向けて、チームの仲間やクライアントの皆さんと共にPRAISE CARDを育んでいきたいと考えています。

▼「PRAISE CARD」サイト
 https://praise-card.com/

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  • 林 千瑛氏
    林 千瑛氏
    千代田化工建設株式会社 フロンティアビジネス本部 水素事業部 シンガポール事業セクション プロジェクトマネージャー 兼、バリューイノベーション推進部 DIGLABグループ
    大学卒業後、2010年に千代田化工建設へ入社し、石油・化学関連工場の設計、調達、国内外の建設現場赴任経験を積み、多数の関係者が関与するプロジェクトマネジメント業務に従事。2020年社内有志活動である「次世代DIGGING LAB.(通称:DIGLAB)」に参加。また、大企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」の一企業である千代田化工建設代表者として活動中。有志活動による社内風土変革の取り組みが評価され、2022年心理的安全性Award受賞、同年HRアワード入賞。
  • 小谷野 圭司氏
    小谷野 圭司氏
    BIPROGY株式会社 グループマーケティング部 企画推進室 室長
    大学卒業後、日本ユニシスに入社し、社員教育、業務/ITコンサルティング、新規事業開発などに従事。
    現在はマーケティング組織に在席し、現場と一体となった顧客DXや新規事業開発支援などに携わる。
    社会人としてのキャリアを教育からスタートしたため、コンサルタント時代はBPRだけでなく人事制度策定も担当するなど、人材にフォーカスしたアプローチを得意とする。
    ※2022年4月1日に日本ユニシス株式会社からBIPROGY株式会社へ商号変更しました。
  • 博報堂コンサルティング プロデューサー
    大学卒業後、アーティストマネジメント、イベントディレクターとして現場を経験し、広告プランナーへ転身。飲料ブランド、大型商業施設、旅客サービス、シューズブランド、化粧品ブランド、官公庁などの多岐に渡る広告コミュニケーションに関する企画立案から実施までを一貫して担当。
    現在は、企業の組織改革やパーパス・バリュー浸透プロジェクトの伴走として各プロジェクトに従事。
  • 博報堂コンサルティング プロデューサー/デザイナー
    美術大学を卒業後、広告制作会社を経て、博報堂コンサルティングにプロデューサー/デザイナーとして参画。CI/VI策定をはじめとしたブランドマネジメントやツール開発、新事業のPoCにおけるデザインドリブンなプロトタイプ設計、インターナルブランディングにおけるコミュニケーション戦略の推進に従事。
  • 博報堂 ビジネス開発局/HAKUHODO Blockchain Initiative
    2002年に東京工業大学理学部情報科学卒業後、システムインテグレーション企業を経て、08年博報堂に入社。16年からメディア、コンテンツ、コミュニケーション領域のブロックチェーン活用の研究に取り組み、18年にブロックチェーン技術を活用したビジネスやサービスを開発する社内プロジェクト「HAKUHODO Blockchain Initiative(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)」を発足。20年より一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブにて代表理事も務める。