1医者を目指したきっかけは?
井たくまさんが医者を目指したきっかけは何ですか?
正直、きちんとした理由があったわけではありません。
地方の公立小学校から街中の国立中学校に進学したところ、医者の親を持つ子どもが多い学校だったため、その環境に影響を受けて医師を目指そうかなと思ったくらいの気持ちでした。
稼げそうだし、安定もしている仕事だろう、と安易に考えていました。
医者を志望するようになった背景には母親の影響も少しはあったのかなと思います。
水泳や野球など、いろいろなことをやらせてもらってきたのですが、どれも芽が出ず、唯一可能性があったのが勉強で、自分の力試しもかねて受験をしました。
途中で親に反抗することはなかったのですか?
勉強に関しては、特にそうしたことはありませんでした。
勉強を続けることができた背景には「都市部に住む優秀な同級生にナメられちゃいけない」という気持ちがありました。
毎日19時くらいまで部活動をして、家に帰って21時くらいから深夜1時、2時まで勉強するような生活を送っていました。
その無理がたたったのか、中2の終わりごろに無気力状態になってしまい、メンタルクリニックに通うことに。
同じころ、お笑いラジオもかなり聞いていまして、これも今思えば人生に影響があったんだと思います。
通院やお笑いのおかげで無気力状態から脱することができ、何となく医者への道を歩み続けました。
2医者になるまでの勉強量、大変だったことや難しさを感じた勉強内容は?
医者になるための必要なプロセスを教えてください。
医者になるには医師国家試験に合格する必要があり、その受験資格を得るために、まずは6年制の医学部医学科を卒業しなければなりません。
医師免許を取得したあとは、2年以上現場で臨床研修医として経験を積みます。
この2年間で、ほぼすべての科を回りながら医者としての最低限の実力をつけていきます。
最短でも8年かかることになります。
医者になるまでに大変だったことは何でしょうか。
大変だったのは在学中に経験した留年危機です。
大学3年生に上がる前のことです。
ジャズ研究会の活動に精を出していた結果、2年生の終わりに受けたテストの結果が散々でした。
この時期のテストは量が多く、医学の基礎である基礎医学のテストが20くらいあり、すべてをパスしなければ進級できませんが、ほとんどのテストを落としてしまい、再試験に。
1、2月には2日に1回ぐらいのペースで再試験を受けなければならなくなり、泣きながら勉強しました。
友達にも泣きついて教えてもらいながら、なんとか留年を免れました。
座学以外の大変さはありましたか?
ありました。
とくに大変だったのは実習です。
実習は2、3週間ごとに科を移っていくのですが、ある科で非常に厳しい先生にあたってしまったのです。
先生の質問にもきちんと答えられない。
患者さんから「先生、怒られ過ぎてない?大丈夫?」と聞かれてしまうほど叱られてばかりでした。
このときは本当に中断しようかなと思いました。
結局、中断されたのですか?
いえ、そのまま続けました。
たまたま私が同じ科のメンバーの前で発表する機会があり、その内容をみて、厳しかった先生が褒めてくれたのです。
そのときは「褒められたくらいで、これまでされてきたことを忘れないぞ!」と思い、踏ん張りながら、なんとか実習をやり遂げることができました。
3医者としての仕事内容とやりがいは?
医者になられてからの仕事について教えてください。
医者専用の非常勤バイトがあるので、そこに応募してさまざまな場所で働いてきました。
一般的には、初期研修後から各自が何らかの専門を選んで進んでいくのですが、私の場合はそこでお笑いの道に入ってしまったのですよね。
医者として働きながら、お笑い芸人養成所に通い始めたのです。
せっかく医者になれたのに、なぜお笑い芸人に?
中学時代にお笑いラジオを聞いていた当時からいいなと思っていたのもあり、前から挑戦したいと思っていたのです。
でも、一度決めたことはやり切らないとダサいという価値観があるので、医師免許を取る前に大学を辞めて芸人の道に進むのも嫌でした。
慎重な性格をしているので、芸人になったあとのセーフティーネットのために医者になっておきたかった気持ちもあります。
だから、医者として働ける資格を得る初期研修までは踏ん張りました。
専門医になってから他の好きなことを始める人もいます。
ですから、あと数年医者として経験を積んでから芸人に挑戦する道もなくはなかった。
でも、お笑い芸人を目指すなら少しでも若い方がいいと思ったのですよね。
医者の仕事には芸人を目指したあとで戻ることもできますし。
今はお笑い芸人をライフワーク、医者を”ライス”ワークとして切り分けています。
生活のために医者の仕事をしている感じです。
今、医者としては週にどれくらい、どのようなお仕事をされているのですか?
健診の仕事や、コロナ禍以後はワクチンに関する仕事など、専門性が高くなくてもできる仕事を、月に15、6日程度しています。
どんなときにやりがいを感じられますか?
正直、今は生活のためという意識が強めですが、初期研修時代には患者さんとのやり取りにやりがいを感じることが多かったです。
退院した患者さんが再入院になったときに顔を覚えていてくれたり、いろいろ話してくれたりするのがうれしかったです。
あと、今は医者あるあるをネタにしているのですが、公演後のアンケートで「勉強になりました」と書いていただけたり、SNSでのやり取りで安心してもらえたりするときには、医者をやっててよかったと思います。
主治医ではないので、治療に値することをやれるわけではありませんが。
4医者に向いている人の特徴は?
医者に向いている人の特徴を教えてください。
真面目で要領がいい人ですかね。
真面目過ぎて要領が悪いと、たぶん潰れてしまうと思うので、ある程度の折り合いを付けられる人がいいと思います。
誰かに何かを与えることで自分も満たされる人も向いているのではないでしょうか。
あと、チーム医療の現場で仕事をするにはコミュニケーション力が重要です。
プライドに左右されず、気軽に誰かに頼れることも大切な素養でしょう。
<後編はこちら>
※掲載している情報は、記事執筆時点(2022年8月)のものです