農家版ホームステイ「農泊」のブームは農村復興のカギになるか

インバウンド(海外からの観光客)需要の高まりに伴い「民泊」が話題となる昨今だが、農山漁村に宿泊する「農泊」もまた、注目が集まっている。

日本人のみならず訪日外国人からも評価の高い、農泊で味わえるひと味違った観光とはどのようなものだろうか。農泊ならではの魅力について紹介する。



リピーターも続出する農泊の4つの魅力

農泊とは、日本ならではの伝統的な暮らしを味わえる農山漁村に滞在する宿泊体験のこと。全国各地の農山漁村で提供されており、利用者はもちろん、農泊に参加する地域も増加傾向にある。その背景には、地域創生のために政府が特に力を入れている施策のひとつが農泊である、ということが挙げられる。

農泊は、ただ宿泊するだけではない。農泊で楽しめることとして農林水産省が挙げていることは、次の4つだ。

宿泊施設に「泊まる」

宿泊先は、農家を営んでいる民家をはじめ、空き家となった古民家や廃校舎などを改修した施設までさまざま。農泊の目的のひとつは、こうした眠ったままになっている地域資源を掘り起こす点にもある。それら施設では、地域の人々と語らったり、郷土料理づくりや工芸品づくりなどを体験できる。

農家レストランで「味わう」

地産地消」をテーマに、地域でとれた食材を使った料理を提供する飲食店は、主に家族連れに人気だ。

農林水産物直売所で「買う」

地域で生産した農産物や水揚げされた海産物を並べた直売所で、とれたての新鮮な食材、あるいはジャムや漬物といった加工品を購入することができる。

アクティビティを「楽しむ」

田植えや稲刈り、山菜狩りといった農林業体験や、そば打ちや和紙づくりといった手づくり体験、カヌーやボートを使った川下りなど、それぞれの地域の魅力を堪能できる。

いずれも豊かな自然に囲まれた人々の暮らしをそのまま体験するというもので、都市部に生活する人や、海外からの観光客に人気が高まっており、リピーターも多いという。


政府が掲げる農泊の目標

政府としては、農泊を農山漁村の所得向上の目玉とし、地域創生の重要な柱としたいという狙いがある。そのため、日本人はもちろんのこと、日本の伝統的な暮らしに興味をもつ外国人にも関心をもってもらえるよう、国内外に農泊の魅力を発信する事業にも力を入れている。PR動画を作成したり、実際に農泊を利用した外国人観光客によるブログや動画サイト「YouTube」などでの情報発信を支援したりしているのは、その一環だ。

農泊が注目を集めるようになったのは、2016年3月30日、観光先進国への新たな国づくりとして、政府が「明日の日本を支える観光ビジョン」を発表したことがきっかけだ。このなかで、政府は農泊を積極的に推進していくことを宣言。2020年までに全国の農山漁村で50地域を創出することを目標に掲げている。また、農泊推進対策として、農山漁村振興交付金という補助金もスタートしている。

これまでの農山漁村には、日本ならではの暮らしや風景があっても、それらを伝える情報は少なく、どの地域でどのような体験ができるのかといった情報を集めることが難しかった。そのため、各地域では観光客を呼ぶどころか、少子高齢化による人口減少で過疎化が進む一方であった。

そんななか、観光庁によれば、2017年の訪日外国人数は年間2,869万人に達し、彼らの多くは自然・景勝地観光を楽しんでいたことが分かった。彼らはさらに、自然体験ツアーや農山漁村体験をしてみたいという希望をもっていることも判明。現状ではこうした潜在的なニーズに応えられるだけのインフラが十分に整っていないことが、政府が農泊を推進する原動力となった。

農泊を行う目標としてひとまず掲げられているのは、地域に住まう人々の生きがいづくり。年々住民や農家、観光客が減り続ける地域で、いかに住民に張り合いのある日々を送ってもらえるかに重点を置くという。それを踏まえた上で、やがて持続可能な産業へと農泊を育てていくためには、運営組織を構築するなど、受け入れる側の体制を整えていく必要がある。このように農泊の準備をする過程で、雇用が生まれたり、眠っていた休耕田や空き家を活用したり、あるいは定住する人を増やすことにつなげていくのだ。


各地域が実施する農泊のプラン

例えば、市の総生産の約30%を観光産業が占めている岐阜県高山市では、野菜の生産が盛んな地域色を活かし、小中学校の農作業や伝統食づくりなどを企画。小学生の田植え体験や、五平餅づくり、外国人によるそば打ち体験などを盛り込み、2013年には約22万5,000人もの外国人宿泊客を獲得している。

限界集落といわれ過疎化に悩んでいた石川県能登町では、集落内の廃校を活用した宿泊施設を開業。日本で初めて世界農業遺産に認定された美しい自然の景観が話題をよび、中国や韓国、台湾といったアジア圏をはじめ、イスラエルや欧米など、幅広い国々からのインバウンド受け入れに成功している。同地域での宿泊客は、2007年度と2014年度を比較すると5倍以上に推移している。

い草栽培を伝統産業としていた岡山県早島町では、い草の栽培や手編みなどの体験を積極的に取り入れることにより、廃れてしまった「い草栽培の復活」を目指している。海外の旅行者向けの宿泊情報サイトなどを活用したことでインバウンドが増え、日本人はもとより外国人観光客の宿泊が急増している。


農泊は、古き良き日本の暮らしを私たちに教えてくれる

国内では、外国人観光客の増加に伴い、従来の宿泊施設のみでは需要をまかなうことが難しくなってきており、民泊の存在感が増してきている。そんな中で、農泊で味わえる豊かな自然のなかでの体験は、かつて多くの日本人が過ごしてきた暮らしぶりを再発見することのできる貴重な機会だ。

外国人のみならず、日本に暮らす人々にとっても農業を見直すきっかけになる農泊。UターンIターンへのきっかけづくりや、子どもへの食育、新規就農に向けて農業を知る機会とするなど、一過性のブームではなく、長く続くトレンドになっていってほしい。

<参考URL>
「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定しました! | 2016年 | トピックス | 報道・会見 | 観光庁
http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics01_000205.html
【コラム】これだけは知っておきたい農業用語
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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