矢井田 瞳インタビュー。デビューから23年、音楽への変わらぬ愛と、完璧を求めない自然体な仕事と子育て
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矢井田 瞳インタビュー。デビューから23年、音楽への変わらぬ愛と、完璧を求めない自然体な仕事と子育て

デビューから23年を迎えた矢井田 瞳さん。2000年のデビュー後、「B’coz I Love You」「My Sweet Darlin’」や「Look Back Again」などの大ヒットで一気にブレイクを果たした後、結婚、出産を経て、今も変わらず多くの人に愛され続けています。矢井田さんがそんな人生のターニングポイントとどう対峙していたのか、さらに、大きなきっかけからどんな歌が生まれていったのか、じっくりとお聞きしました。

結婚、出産を経て、温かい言葉が生まれやすくなった

——矢井田さんはこれまで、様々な楽曲でその時々の心境を歌っていますが、結婚、出産を経て、楽曲にはどんな変化がありましたか?

矢井田:デビュー当時は若かったこともあり、“どうして自分のことをわかってくれないの”ということや、社会に対する不満などが歌詞のテーマになりやすかったんです。でも、自分が母親になり、自分より大切な存在ができたことによって、“生きていくってそういうことじゃないんだな”って思ったんです。それが新たな発見だったんですよね。さらに、アーティストでいることも、結婚も出産も、すべてのことが地続きだからこそ、いろんな経験が感覚になり、温かい言葉が生まれやすくなりました。目線が変わったというよりも、増えた感じですね。

——となると、書きたいテーマも増えていきそうですね。

矢井田:そうですね。自分の新たな気づきが曲のヒントになることが多いんですが、結婚や出産だけでなく、大人になるにつれ、いろんなことを経験して、新たに見つけた気づきが、大きな曲作りのきっかけになっていると思います。

——子育てをして、赤ちゃんだった子がどんどん成長していく姿を間近にするとその時々の大変さや心境の変化もあると思うのですが、いかがでしょうか。

矢井田:もちろん、変化はあると思うのですが、私の家の廊下に、子どもが赤ちゃんのだった頃の写真を飾っているんです。実際に隣にいるのは中2の娘なんですが、ほっぺたがぷにぷにの赤ちゃんの頃のことが3日前くらいにも感じていて(笑)。例えば、赤ちゃんが歩くまではただひたすらお世話という意味で大変な部分はありましたし、次は歩きだしたら怪我の心配をして、つぎは喋りだして…と月齢に合わせた大変さがありますが、それがグラデーションのように続いているだけの感覚なんです。今は娘も私も一人の時間が大切なタイプなので、お互いの時間を楽しんだと思いきや、たまに合流してまた離れて…という感じなので、良い距離感だと私は思っています。


——娘さんはお母さんがアーティストだということをどう感じているのでしょうか。

矢井田:彼女からすると、幼い頃からリビングにギターが転がっていたり、鍵盤やドラムがある環境で育っているので、特別なことではなく、それが普通だと感じていると思います。私が家で悩みながら曲を書いたり、出来上がっていく過程を知っているので、それが母の仕事だと認識していると思います。

——子育てとアーティスト業をする上での両立で悩むことはありましたか?

矢井田:悩むというより、子育て優先で、自分の時間の中でできることをやるしかない、という感じでしたね。娘がある程度お留守番ができるようになるまでは、ライブも控えたり、家で出来る作詞作曲作業をしていました。時には母に助けに来てもらったりしながら、のんびりペースで活動させてもらっていました。

——そこに対して、焦りや葛藤はありませんでしたか?

矢井田:娘が赤ちゃんのうちは、“もっと働きたいな”と思うこともありました。その時は、娘の世話をしていても、娘は話せないからずっと独り言のように感じてしまうんですよね。それを続けていると、社会と孤立しているような感覚になるんです。それと同時に“どんどん忘れられていくのかな”と不安に感じることもありましたが、その反面、“今しか味わえない幸せもたくさんあるはずだ”と思ったんです。その時に、いま、目の前にいる家族や、この時間を大切にしていれば、また音楽に戻れると思っていたんです。

——すごくポジティブですね!

矢井田:たしかに、ポジティブでした(笑)。母になって一つ強くなった感じです。どんなに大変な時でも、鼻歌は出てくるし、それが新しいメロディだったら、何に使うかわからなくても曲を書いていて…。そこで私にとって本当に必要なもの、そして社会と繋がることのできるツールは音楽なんだなって再認識したんです。

——そういった環境下で生まれる言葉やメロディは違ってくると思うのですが、どんな変化がありましたか?

矢井田:いっぱいありますね。娘が生まれたときに「Simple is Best」という曲を書いたんですが、彼女が迷ったり失敗しながら大きくなったときや、うまくいかなくてつらい時に聴いて元気になれるような道しるべになったらいいなと思って作ったんです。この曲は、自分が母にならなければ生まれなかったですね。

——実際に娘さんはこの曲を聴いていますか?

矢井田:特に聴いていないと思います(笑)。私から聴いてとも言わないですしね。見返りを求めていませんしね。

——娘さんはどんな音楽を聴くのでしょうか。

矢井田:それが、音楽よりも、お笑いが大好きなんです。テレビでお笑い番組を見るだけでなく、気になる芸人さんがいたらその方の本を買って読んだり、劇場に行ったりしていて。その劇場でまた知らない芸人さんと出会い、ネタが好きだったら、「このネタの順番はこっちの方がよかったよね」と話したり…。その探求心は私譲りなのかもしれないです(笑)。

——すごく素敵な話ですね!

矢井田:ありがとうございます。今の多様性の時代に、いい大学を出たら幸せになれるとか、キャリアを積んだら幸せとか、すべてがイコールにならないからこそ、好きなことはとことん掘り下げたり、自分の直感を信じて突き進んでほしいというようなことは話していますね。

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何度歌っても自然と心が明るくなる『My Sweet Darlin’』

——さて、そんな心境の変化の中、ずっと歌ってきた『My Sweet Darlin’』は、矢井田さんにとって、どんな存在ですか?

矢井田:親友のような存在、妹のような感覚もあるんです。さらに、すごく不思議な存在で、何千回と歌っている私でも、毎回歌うたびに楽しくなるんです。この曲は、本当に悲しい気持ちで歌ったことが1度もないんですよ。歌い始めると、自動的に心がパッと明るくなるんです。

——矢井田さんの曲は、この曲のようにすごく明るくなる曲もあれば、どこか心を締め付けるような切ない曲も多く存在します。矢井田さんが作りやすい、自然と作ってしまうのはどんな音楽なのでしょうか。

矢井田:小学生のころに、フォークソングをよく聞いていたんです。最初に歌詞の世界観に驚いたのが、井上陽水さんだったんですね。その世界観にかなりの影響を受けたので、どちらかというと、歌詞にはヒリヒリしたような言葉を選ぶ傾向にはあると思います。

——たしかに、サラッというよりも、ザラッとした印象があります。

矢井田:そこは好きなところですね。自分が作るのにも、触れる作品としても、そういった作品が好きなように思います。

——矢井田さんがいま、娘さんが生まれてからのことを振り返り、より感じたことを教えてください。

矢井田:う~ん…。私は、欲張りかもしれないけれど、育児も仕事も、どちらもやりたかったことなんですよね。きっとどちらかに集中している時、どちらかは欠けていると思います。でも、どちらも完璧にやろうなんて、もともと無理だと思っていて(笑)。基本的に、自分の幸せに対する目標設定が低いのかも知れません。私は今、音楽と子育ての両方ができていてとても幸せに感じます。

——それはすごく大事なことかもしれないですね。

矢井田:そうですね。それに、周りからどう見られているか、社会的にどう思われているかということを気にしすぎないようにしています。そこに確かめ合える愛があるかどうかが大切で。お仕事に関しては、スタッフさんが関わっていますし、チームワークでのことなのでちゃんと上昇志向を持ってやっています。他と比べて落ち込むこともありますが、何もかも完璧主義でいたら、身体が持たないなって思うんです。そこで、母親や近所の人など、頼れる時は頼ろうと思ったんですよね。あとは、わからないことは、恥じずに聞く、ということも学びました。

——頼ることに、戸惑う人も多いと思うのですが…。

矢井田:そうですよね。でも、子育てって、いくら自分が計画を立てても、その通りにはまったく進まないことだらけなので、時間にも心にも余白をもって過ごすようにしています。自分の予定も、いっぱいにすることなく、いつでも育児に身体が振れるように生活するくらいが、今の私にはちょうどいいです。その点、当時から協力してくださった今のスタッフさんたちには本当に感謝しています。

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心の底から生きてる!と感じられる全国ツアーがまもなく開催

——娘さんも中学生となり、これからさらに大人になっていきます。だからこそ、矢井田さんがやっていきたいことはどんなことですか?

矢井田:これから自分の時間も増えると思いますし、何歳になっても新しいことに挑戦したいですね。それに、今年の夏からは、久しぶりに弾き語りではない、ピアノとハーモニカと私という編成での全国ツアーを開催するんです。ステージ上では、心の底から、“音楽をしている!”“生きてる!”と感じることが出来るので、すごく楽しみです。

「矢井田 瞳 Acoustic Tour 2023 〜ピアノとハーモニカと〜」

——声出しもOKになりましたね。

矢井田:コール&レスポンスもとても楽しみです。出来なかった時期があるからこそ、来てくれたみなさんと沢山のパワーを交換できたらと思います。これまでは当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃないことに気づいてからのツアーなので、1本1本、これまで以上に愛おしいライブになるんじゃないかなと思っています。

——U-NEXTでは過去のライブ映像もあるので、予習にとても良さそうですね。ちなみに矢井田さんはご自身の過去のライブ映像は見られますか?

矢井田:実は自分のライブ映像を見るのは昔から恥ずかしくて苦手なんです…。ただ、ライブ映像を撮ってもらう際にいつもお願いしているのは、私の人物像ではなく、バンドが放っている音楽や会場の空気感を映像に収めて欲しいと。なので、すごく臨場感があって素敵な映像だと思うので、ぜひ見てもらえたら嬉しいです。

矢井田 瞳さん出演作はこちら

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プロフィール

矢井田瞳

1978年大阪生まれ大阪育ちのシンガー・ソングライター。19歳でギターと出会い曲作りを始める。2000年5月3日にレーベル「青空レコード」より関西限定シングル「Howling」でインディーズデビュー。同年7月12日に1stシングル「B'coz I Love You」でメジャーデビューを果たし、2ndシングル「My Sweet dalin'」が大ヒット、サビのフレーズから”ダリダリ旋風”を巻き起こす。その後も数々のヒット曲を世に送りだし、結婚、出産を経てもなお、全国ツアーの開催やイベント出演等、精力的なライブ活動を行っている。


■Official Web Site:yaiko.jp

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