従業員がうつ病発症|会社はどんな責任を負う?

従業員がうつ病などのメンタルヘルス疾患となり、それが安全配慮義務違反と判定された場合、会社は療養のために必要な費用や休業補償などを従業員に支払わなければなりません(※ただし、労災が認定されて労災保険で治療費が補償された場合には、その部分については補償の責めを免れます)。

また、症状の程度がひどく、長期休業や自ら命を絶つなどの重大な結果が生じた場合には、会社が賠償責任を負う可能性が高くなります。

メンタルヘルスをめぐる法律・指針

従業員のメンタルヘルス疾患における会社の責任についてご紹介する前に、まずはメンタルヘルスをめぐる規定について、どのようなものがあるか知っておきましょう。
メンタルヘルスをケアする規定には、法律から指針までさまざまなものがあります。

(1)労働基準法

メンタルヘルスに関する法律としてまず挙げられるのは、労働基準法です。
労働基準法とは、賃金・有給休暇など労働条件に関する最低基準を定めた日本の法律です。
労働時間については、1週間につき40時間・1日8時間を超えて労働させることが禁止されています。この時間を超えて労働させる場合には、労使協定(いわゆる36協定)を締結し行政官庁(労働基準監督署)に届け出た上で、割増賃金の支払いが必要です。
また、支払う賃金についても最低賃金を下回ることは許されません。休日は、原則として週に1日以上与えなければならないとされています(ただし、4週間で4日以上の休日を与えることでも可)。

このように、労働基準法は労働条件について規定しており、仮に労働基準法が定める基準を下回るような合意をしても、その部分について無効となり労働基準法で定める基準が適用されます。

不規則な勤務や労使協定で定めた時間外労働の上限を大幅に超えると過重労働となり、身体やメンタルヘルスの不調に陥る可能性が高まります。
その意味で、労働基準法は労働者が業務上の理由でメンタルヘルス不調に陥らないようにするために必要な法律であり、従業員のメンタルヘルスケアと深い関わりがあります。

(2)労働安全衛生法

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保し快適な職場環境づくりを促進するための法律です。
労働災害を防止するための最低基準や、職場における労働者の安全と健康の確保するための事項などが規定されています。
労働者が安全で衛生的な環境で仕事をできれば、労働者の心身の健康が守られることにつながるため、従業員のメンタルヘルスケアと深い関わりがある法律ということができます。

(3)労働者の心の健康の保持増進のための指針

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、厚生労働省により策定された指針です。
職場における労働者のメンタルヘルスケアの必要性が高まっていることから、
国、事業者、労働者をはじめとする関係者が一体となって労働者の安全と健康を守り、労働災害防止対策に取り組むことを目的としています。

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

(4)心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き

「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、厚生労働省が作成した指針で、この指針も労働者のメンタルヘルスケアを目的としています。
メンタルヘルス疾患に陥り休職した従業員が、職場に復帰するために会社としてなすべき措置や職場復帰支援の事例、休職から職場復帰に関わる就業規則の一例が紹介されています。

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

(5)安全配慮義務

安全配慮義務とは、会社などの使用者は労働者が職場において安全に労務に従事できるよう、必要な配慮をするもので、労働契約法5条に定められています。

労働契約法5条
使用者は、労働契約に従い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする

この安全配慮義務には、メンタルヘルス疾患を防ぐための措置も含まれます。
会社は職場環境や労働条件を整備して、従業員がメンタルヘルス疾患に陥らないように対策を講じ、安全に配慮する義務があります。

メンタルヘルス疾患の会社の責任

近年、業務によるストレスなどを原因として精神障害を発症、あるいは自殺したとして労災認定された事案が増加し、社会的にも関心を集めています。

引用: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

メンタルヘルス疾患が労働災害として認定されると、療養補償給付、休業補償給付、傷害補償給付、遺族補償給付などの給付金を交付することになっています。

また、安全配慮義務に違反している場合、罰則が科せられたり労働者やその遺族から損害賠償請求を受けたりする可能性があります。

労働災害と認定された場合の責任

労働災害とは、労働者が業務や通勤が原因となって発症したケガや病気のことで、「業務災害」と「通勤災害」に分かれます。昨今は、メンタルヘルス疾患が労働災害と認定されるケースが増えてます。

労災が発生すると、会社は労働基準法上の災害補償責任(療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、その他の給付)と、場合によっては民事上の損害賠償責任を負うことになります(※後述)。

療養(補償)給付
労働者が業務上負傷したり病気になったりした場合、使用者は療養のために必要な費用を、支払う必要があります。(労働基準法75条)

休業(補償)給付
労働者が労働災害で休業した場合、使用者が平均賃金の60%を補償しなければなりません。(労働基準法76条)

障害(補償)給付
治療を受けても完治せず症状が固定した場合に、一定の障害が残ってしまうことがあります。労働者に障害が残った場合は、使用者は、その障害の程度に応じて障害補償を行わなければなりません。(労働基準法77条)

遺族(補償)給付
労働災害で死亡した場合、使用者は遺族に対して、平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければなりません。(労働基準法79条)

なお、ここで挙げた療養補償、休業補償、傷害補償、遺族補償が、労働者災害補償保険法(労災保険)に基づいて補償がなされる場合には、使用者は労働者に対してこれらの補償は免責されます。

仕事によるストレスが関係した精神障害が労災に該当するか否かは、厚生労働省が発表している「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて判定されます。

「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、労働者の心理に負担がかかる場面が類型化され、さらに心理的負荷の程度に応じて「強」「中」「弱」に分類し具体例が提示されています。
そして、労働者にかかる心理的負荷の程度が「強」と評価され、精神障害の既往歴やアルコール依存状況など個体側に要因がないと評価されると、原則としてメンタルヘルス疾患が業務災害であると認定されます(「中」や「弱」でも、状況によっては業務災害と認定されることもあります)。

令和2年には、この心理的負荷による精神障害の労災認定基準が改正され、「パワーハラスメント」の出来事を「心理的負荷評価表」に追加するなどの見直しが行われました。

厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」

損害賠償責任

前述した労災保険給付は、会社に過失がなくても従業員に給付が行われます。
しかし、労災が発生したことについて会社に過失があると認められた場合、会社は労災保険給付に加えてその損害に対し金銭で賠償する責任を負うことになります。(民法415条・709条)。

なお、労災保険法に基づく給付がされた場合には、すでに給付された金額は損益相殺(利益の額を損害額から控除すること)の対象となり、損害額から除外されます。

解雇の制限

補償以外に会社に課される義務として、「解雇の制限」があります。
従業員が業務災害に遭った場合には、療養のために休業する期間は解雇することができません。また、その後30日間は、従業員を解雇することは禁止されています(労働基準法19条)。

職場のメンタルヘルスを防ぐためには

職場のメンタルヘルス疾患が社会問題として注目されているものの、未だに「本人が弱いだけ」「性格の問題」などの声があるのも事実です。
しかし、メンタルヘルス不調に陥る原因は個人の問題だけでなく、職場の環境や仕事の質なども少なくありません。もしその状況を放置すれば、次々と同じような不調を訴える人が出てきてしまいます。
そうなれば、既述したような従業員に対する補償や賠償の問題だけでなく、職場の労働生産性の低下、貴重な人材の流出、企業イメージの悪化などの問題を抱えることになってしまいます。

そのような意味でも、企業は従業員に対する責任としてメンタルヘルス対策に積極的に取り組むことが必要です。

ストレスチェックの活用

ストレスチェックとは、従業員自身が自分のメンタルの状態に気づいてセルフケアにつなげることを目的とした制度です。

仕事や職場の人間関係等に対する強い不安やストレスを感じている労働者が増加したことが問題視されたことから、労働安全衛生法が改正され、平成27年(2015年)から50人以上の事業場に義務づけられました。

ストレスチェックを活用することで、従業員自身が自分のストレス状況を見直すことができるという効果があります。

また、ストレスチェックの結果を分析することで職場の問題点を把握し、従業員のストレス減少や職場環境改善を目的として、メンタルヘルス対策を講じることができます。

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産業医等の活用

産業医とは労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導やアドバイスなどを行う医師のことです。
ストレスチェックを受けた結果、高ストレスと判定された人が希望した場合は医師との面接を受けることができます。
会社は面接した医師や産業医からの意見を反映し、必要に応じた就業上の措置を講じます。

産業医と連携するだけでなく、産業カウンセラーを活用するのもひとつの方策です。
産業カウンセラーとは、職場で働く人たちが抱える問題を自らの力で解決できるようにサポートし、企業のメンタルヘルス対策への援助も行うなど、産業社会の発展に寄与する有資格者です。

ストレスチェックの結果を確認した従業員からの相談に対応したり、会社側からストレスチェック結果の集団分析に基づく職場環境の改善について、アドバイスをしたりすることができます。

健康経営の推進

健康経営とは「企業が従業員の健康に配慮することは、経営面でも大きな成果が期待できる」という考えのもとで、健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践することを意味します。従業員の健康管理は、単に医療費などの削減だけでなく、生産性を向上させ、企業イメージがアップし、かつリスクマネジメントとしても重要です。
企業が、積極的に従業員の生活習慣に関与して生活習慣病の予防を促したり、メンタルヘルス不調予備軍に対して対策を講じたりすることで、組織の活性化や生産性の向上が期待できます。

たとえば、丸井グループは中長期な観点から企業価値の向上を目的として、「健康推進部」を設置し、生活習慣病やメンタルヘルス不調などの疾患に陥らないことを目指してさまざまな活動を行っています。

丸井グループ「人と社会のしあわせを共に創る「ウェルネス経営」」

まとめ

職場のメンタルヘルスケアは、決して個人の課題ではありません。
職場全体での取り組みやサポートによって初めて、職場の活性化や効率化、生産性の向上などの効果を期待できます。

会社には、従業員が働きやすい環境をつくる義務があります。効果的な対策を検討し、ぜひ積極的に実施していきたいものです。

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    【監修】
    公認心理師 山本 久美(株式会社HRデ―タラボ)

    大手技術者派遣グループの人事部門でマネジメントに携わるなかで、職場のメンタルヘルス体制の構築をはじめ復職支援やセクハラ相談窓口としての実務を永年経験。
    現在は公認心理師として、ストレスチェックのコンサルタントを中心に、働く人を対象とした対面・Webやメールなどによるカウンセリングを行っている。産業保健領域が専門。

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