「庭付き一戸建てのマイホームを建てたい」と考えたときに、予算の都合などで勤務先から離れた郊外に建築するケースは少なくありません。しかし新居が通勤に2時間かかる場所にある場合「現実的なのだろうか」と不安になる人も多いかもしれません。 そこでこの記事では、2時間の通勤時間はきついのか、勤務先から遠い場所に家を建てるメリット・デメリットなどについてSIREの木津雄二さんに伺い解説します。
まずは、片道の通勤時間を中央値で確認しましょう。
ご覧のとおり、片道の通勤時間は全国で通勤時間は約30分。それから考えると、通勤時間2時間は、全国の約4倍、関東大都市圏であっても約2.6倍にもなることがわかります。
同調査の結果を見ると、持ち家(一戸建て)がある人で通勤に片道2時間以上かけている人の割合は全国で100人中1人、首都圏では100人中1~2人程度が通勤していることがわかります。
エリア | 片道の通勤時間(中央値) | 2時間以上通勤シェア |
---|---|---|
全国 | 28.1分 | 0.9% |
関東大都市圏 (中心市:さいたま市、千葉市、東京都特別区部、横浜市、川崎市、相模原市) |
45.5分 | 1.3% |
中京大都市圏 (中心市:名古屋市) |
28.1分 | 0.5% |
近畿大都市圏 (中心市:京都市、大阪市、堺市、神戸市) |
35.5分 | 0.9% |
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→通勤時間1時間半の場所に家を建てるメリット・デメリットは?
片道の通勤時間2時間はきついように思いますが、実際は通勤手段や就業体系などによって違うようです。木津さんに具体的なお話を伺いました。
「通勤は大きく電車通勤とマイカー通勤に分かれます。電車通勤であれば電車に乗っているだけですが、マイカー通勤だと自分で運転する集中力が必要です。毎日往復4時間運転してのマイカー通勤は現実的ではないように思います。
また同じ電車通勤であっても、家から駅、駅から勤務先までの距離や乗り換えの回数によって負担感は違います。家や勤務先から駅までの距離がどちらも5分程度で、始発駅から勤務先の近くの駅までずっと座ったまま通勤できれば楽そうです。一方、家や勤務先から駅までそれぞれ15分以上歩き、乗り換え回数も多く、しかも途中から満員電車で立ったままといったケースだと、かなりきつく感じるでしょう」(木津さん/以下同)
「就業体系によっても、感じるきつさに違いがあると思います。
通勤に往復4時間かけても、朝9時に家を出て夕方17時には戻れるパート勤務なら、負担感は小さいかもしれません。
対してフルタイム勤務だと、9時出勤なら朝は7時に家を出なければなりません。残業があれば帰宅は21時、22時になることも考えられ、家で休める時間がなかなか取れない、といった状態になるかもしれません。
ただし同じフルタイムでも、基本は自宅でのリモートワークで、出社するのは週に1~2回だけというケースでは、片道2時間の通勤も負担と思わない人も多いでしょう」
通勤時間が長いことには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
「通勤時間が長いメリットは、電車内で過ごす時間を有効活用できることです。家や勤務先から駅までの距離にもよりますが、通勤時間が2時間だと電車に乗っている時間は1時間半から1時間50分ぐらいです。それだけの時間があれば、毎日1本映画を観たり、読書を楽しんだりするには十分でしょう。勉強時間に充てて資格を取ることを目指すのもよさそうです。いずれにしても『家でやることを電車内でしている』と思えば、ムダな時間には感じないように思います」
「通勤時間が長いデメリットは、疲労が蓄積しやすいことです。ただしこれは乗り換えが多い、座って通勤できないようなケースに限られ、毎日座って通勤できるなら該当しないかもしれません。
また子どもがいる場合は、保育園や学校などからの急な呼び出しへの対応が難しくなります。さらに災害時には家に戻れず、帰宅困難者となる可能性が高くなるのもデメリットです」
通勤時間が2時間の場所に家を建てることに、メリットはあるのでしょうか?
「通勤時間が2時間かかるような場所は、郊外になるケースが多くなりますが、そのようなエリアは都市部と比べると土地代が安い傾向があるため、同じ広さの家を建てる場合はトータルコストを安く抑えられる可能性が高くなります。住宅ローンの負担が少なくなり、生活にゆとりをもちやすくなるでしょう」
「都市部だと、駅の周辺は商業施設やマンションが建てられることが多く、一戸建てが並ぶ住宅地は駅から離れた場所になるのが一般的です。
その点通勤に2時間かかるような郊外は、駅のすぐ前が住宅地、といったケースも多くあります。駅まで徒歩5分圏内といった駅近に一戸建てをもてるなら通勤2時間の場所を選ぶメリットになると思います」
「通勤2時間の場所を検討する人には、そのエリアで実現したい暮らしが明確な人が多いように思います。自然に囲まれたエリアでのびのびと子育てしたい、趣味のサーフィンやキャンプを存分に楽しみたいなど、理想の暮らしを実現できることが、通勤に2時間かけてでもその場所に家を建てるもっとも大きなメリットではないでしょうか」
通勤時間が2時間の場所に家を建てることには、デメリットもあります。
「勤務時間に加え通勤に片道2時間、往復4時間かかるとなると、それだけ家で家族と過ごす時間が減ります。かといって家で過ごす時間を長くしようとすると、それだけ労働時間を減らすことになってしまいます」
例えば同じワーママ(ワーキングママ、ワーキングマザーの略)であっても、場合によってはフルタイムではなく、パート勤務とせざるを得ないこともあるでしょう。
「郊外は、商業施設や医療施設の数が都市部と比べると少ない傾向があります。
また地方ではショッピングモールや家電量販店などの大型の商業施設は、国道沿いなど駅から離れた場所にあるケースが少なくありません。
利便性を高めようとすると車が必要になり、車の維持・管理費がかかることもデメリットと言えそうです」
フルタイムの共働きで、夫婦2人とも通勤に片道2時間かかる場合は、子育てとの両立が難しいこともデメリットです。女性の場合、妊娠中に2時間の通勤はつらいものとなりそうです。
「また子どもが小さいうちは、熱を出したなど保育園から呼び出しがあることも少なくありません。そのようなときにも、家の近くに実家があるなどサポートしてくれる人がいなければ、対応は難しくなるでしょう」
通勤時間が長いことから受けるストレスには、どう対処すればよいのでしょうか。
「片道2時間の通勤時間のほとんどを座って過ごせるのなら、睡眠時間に充てたりゲームや好きな音楽を聴いたりして過ごせば、あまりストレスはないかもしれません。しかし乗り換えが頻繁だったり、立っている時間が多かったりするようだと、ストレスは蓄積されていきそうです。
『ストレスや疲れがたまっている』と感じたときには、グリーン車を利用するなど、ゆっくり座って通勤することも考えるとよいのではないでしょうか。多少のコストはかかりますが、それでストレスや疲れが取れるのなら、がんばった自分へのご褒美としてもよさそうです」
東京だと、片道の通勤時間2時間はどのあたりになるのでしょうか? 乗車時間1時間30分(90分)~1時間50分(110分)程度の場所にある駅を、以下の条件で調べてみました。
路線(下りの始発駅) | 列車の種類 | 駅名(所在地・所要時間) |
---|---|---|
小田急小田原線(新宿駅) | 快速急行 | 小田原駅(神奈川県小田原市・90分) |
JR東海道本線(東京駅) | 普通 | 熱海駅(静岡県熱海市・101分) |
JR横須賀線(東京駅) | 普通 | 久里浜駅(神奈川県横須賀市・85分) |
JR総武本線(東京駅) | 快速 | 成田空港駅(千葉県成田市・85分) |
JR中央線(東京駅) | 快速 | 大月駅(山梨県大月市・108分) |
なお西武新宿線や池袋線、京王線、東武東上線などは、快速などを使うと終着駅まで80分以上かかりません。
片道の通勤に2時間かかる場所にマイホームを検討するときには、どのような点をチェックすればよいのでしょうか。
「通勤に2時間かかる場所に家を建てるかどうかを検討するときには、将来どうライフスタイルが変化するのかを予測することが大切です。
例えば今ほとんどがリモートワークだとしても、勤務先の事情によっては通勤に戻ることも考えられます。子どもが都心の学校に通いたいと希望したときに、1人で通学させられるのか、また両親が年老いてきたときにはどう対応するのかなど、10年、20年先のことまで考えてみるようにしてください」
「これから家を建てようという人は、子育て世代が多いと思います。子育て支援制度は自治体によって内容や力の入れ具合が大きく違うので、検討している自治体がどのような支援制度を用意しているのかを調べましょう。特に一駅違うだけで自治体が変わるような場合は、ホームページなどで内容を確認し、比較することをおすすめします。」
家を建てるときは若くても、これから歳を取っていくことを考えると、医療施設や福祉施設の充実度も重要なチェックポイントです。総合病院や専門病院は近くにあるのか、介護施設の数などは、事前に調べておくと安心です。
「最近は通勤手段や通勤手当に制限を設けず、新幹線通勤や飛行機での通勤を認めるような企業もあります。しかし多くの企業では、支給限度額が決められているのが一般的です。支給限度額を超えた分は自己負担となるので、勤務先の通勤手当の支給限度額がいくらなのかは必ず調べておきましょう」
最後にあらためて木津さんに、通勤時間2時間の場所に家を建てるときのポイントを伺いました。
「通勤に2時間かかる場所に家を建てることを考える人は、『土地が安いから』といった理由ではなく、両親が住んでいる、趣味を楽しみたい、理想の子育てがしたいなど、明確な『目的』があるケースがほとんどだと思います。通勤に2時間かかってでも、どうしてもそこに住みたいと思う理由があるかどうかで決めればよいのではないでしょうか。
そのときには、今の理想の姿だけでなく、10年、20年後にそこで暮らしている自分たち家族の姿も想像することが大切です」
首都圏では通勤に2時間かかる場所に持ち家(一戸建て)がある人は100人中1~2人程度
家や勤務先から駅までの距離や乗り換え回数などによって、2時間の通勤時間をきついと思うかどうかは変わる
通勤に2時間かかったとしても、どうしてもそこに住みたい理由があるかを判断ポイントにしよう