靴を脱着するだけの場所とされてきた玄関に、近年は土間収納を設ける人も増えてきました。玄関土間に収納スペースを設けることには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。玄関の土間収納のアイデアや広さ別収納量、間取りやおしゃれに見せる工夫などを、一級建築士事務所みゆう設計室の中川由紀子さんに聞きました。
土間収納の「土間」は、家の中で靴を履いたまま使う場所を指し、土間収納は土間に設けられた収納を意味します。
日本の住宅では、玄関は土間になっていることがほとんどです。玄関に設けられる土間収納には、次のような種類があります。
玄関に土間収納を設けるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
「玄関に土間収納を設ける一番のメリットは、玄関と収納スペースが分かれるため、玄関が片付きすっきりすることです。扉などで隠せる土間収納であれば、玄関に置きたいものをすぐに片付けられますし、玄関がいつも整って見えます」
アウトドア用品やキャンプ用品、ベビーカー、子どもの外遊びグッズなど、室内に持って入るには汚れが気になるものを収納できる点もメリットです。
「ただし、それらが本当に玄関に収納すべきものなのかを考えることも大切です。玄関に収納を設けると、それだけ建築面積が増えてコストもかかります。外に物置を設置するほうが良いのではないか?などほかの選択肢も含めて考えましょう」
「コートや帽子、ヘルメットなど、屋外で使うもの(室内に持ち込まなくても良いもの)を保管できるのも、玄関の土間収納のメリットです。ほかには家の中まで運ぶと重い買い置きの水なども、玄関に入ってそのまま置いておけます」
「玄関の土間収納は、外で使うものだけでなく、家の中に置いておきたくないものを保管するのにも役立ちます。例えば資源ゴミや灯油缶などの保管場所として活用する人も。ほかにも玄関にあると役立つ防災グッズや備蓄品などの保管場所にも適しています」
玄関に土間収納を設けるデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
「先ほどもお伝えしたとおり、玄関土間に収納を設けるとなると、それだけの面積が必要になります。一般的に住宅は延床面積の広さに応じて費用が高くなるため、建築費が高くなるのがデメリットです」
延床面積を増やせない場合、ほかの部屋の面積を削減せざるを得ないこともあります。
土間収納があることで外から持ち込むものが増えると、玄関が汚れやすくなるのもデメリットです。
「ただし汚れやすくなるかどうかは収納するものによります。例えば自転車やベビーカーなど、屋外から汚れを持ち込む可能性のあるものなどは持ち込まず、靴や帽子、コートなど通常の外出で使うものや、室内で不要なものだけを収納するのであれば、それほど汚れを気にする必要はないでしょう」
それでは具体的に、玄関の土間収納はどのように設置すると良いのか、収納例と併せて広さ別に紹介します。
「半畳の面積の土間収納といっても、幅90cm×奥行き90cm程度の正方形にして奥に棚を作ると、手前がデッドスペースになります。デッドスペースに大きめのものを置いてしまうと、棚に収納したものを取り出しにくくなってしまうのがデメリットです」
一方同じ半畳のスペースでも、幅180cm×奥行き45cm程度のオープンタイプやクローゼットタイプにすると使い勝手が良くなります。ただし奥行き45cmだと、コート類は正面を向いた掛け方になります。
1畳のスペースが取れるなら、収納するものによって幅270cm×奥行き60cm程度のオープンタイプやクローゼットタイプ、幅180cm×奥行き90cm程度のウォークインタイプなどが考えられます。
「例えばクローゼットタイプにした場合、下段をオープンスペースにして上段に棚を設けると、子ども用自転車やベビーカーなどの大物から小物まで収納できます。奥行きが60cm程度あれば、コート類も袖が見える通常の掛け方ができます。
一方、ウォークインにした場合、片面は靴やアウトドア用品の収納、片面はコートを掛けるという収納も可能です。ただし人が立つスペースが必要なので、棚の形状や収納するものによって45cm×180cmのクローゼットタイプ(半畳)と収納量がさほど変わらないこともあります。」
「広さが2畳(180cm×180cm)あると、両側を棚にしたウォークスルーにもできます。片面にオープン棚を設けて靴用の棚にし、もう片面にハンガーパイプを掛けられるようにすると、コート類も収納できます」
「3畳(270cm×180cm)以上になると、大人用の自転車を収納できるようになります。収納以外にDIYや趣味のスペースとしても使いたいなど明確な用途がある場合には、収納棚の配置を工夫して作業スペースを確保しましょう」
玄関に土間収納を設けるときに間取りを工夫することで、動線が良くなったり、さまざまな空間利用ができるようになったりします。ここでは具体的にできる間取りのアイデアを紹介します。
「玄関の土間収納をウォークスルーにすると、靴やコートを脱いだらそのまま家に上がれるので動線が良くなります。玄関と収納空間が分離されるため、玄関がすっきり片付きます。さらに洗面所を隣接させると、帰宅してすぐに手洗いやうがいができて便利です。
なおウォークスルーの土間収納の出口にドアを設けない場合は、中を見られないようにお客様の動線と分けると良いでしょう」
ウォークスルーの土間収納で、買ったものをそのままパントリーに収納してキッチンに向かう動線にしておくと、重いものを持ち運ばなくてよくなります。
「玄関と隣接する階段がある場合、階段下を玄関土間の収納にすると、デッドスペースを有効活用できます」
土間収納のある玄関をインナーテラスや土間リビングと接続させると、おしゃれな土間空間を楽しめます。
工房やアトリエ、DIY、ワークスペースなどを、玄関土間に近接させて土間空間とし、その中に収納を設けるという活用方法も考えられます。例えば陶芸や絵画などは、土間収納に道具を収納しておけば、汚れを気にせずそのまま作業できます。
工房やアトリエ、DIYスペースとしても活用するなら3畳以上あると良いでしょう。利用目的に応じて広さを考えましょう。
玄関に土間収納を設けて「こんなはずじゃなかった」と後悔しないためにできることを紹介します。
「漠然と『このくらいの広さがあればいいだろう』と土間収納を設けると、収納したいものが入りきらなかったり、反対に広すぎて使い道に困ったりすることがあります。そうならないよう、収納するものを想定しておくことは重要です。収納したいものが明確な場合には、実際の出し入れの動作を考え、空間に余裕を持たせましょう」
「ライフスタイルの変化に合わせて段数や高さを調整できる可動式の棚が便利です。固定棚だとレイアウトの変更ができませんが、可動棚だとロングブーツを収納するときは棚数を減らして、子ども用の靴を収納するときは棚数を増やしたり、靴の数が少ない場合は棚を外してコート掛けに変えることも可能です」
「玄関の土間収納は、ドアがないほうが開閉の手間が省けて日常生活には便利です。ただし収納の中は雑然としていて人に見られたくないケースも多いでしょう。来客時には視線を遮られるよう、引き戸やロールスクリーンを付けておくと安心できます」
「クローゼットタイプやウォークインタイプの土間収納は空気が動きにくく、湿気とニオイがこもることも。窓や換気扇を設置したり、消臭・脱臭効果のある建材や設備を使ったりしても良いでしょう」
ただしニオイがどの程度気になるのかは、収納するものや家族構成によっても違います。例えば野球やサッカーなどスポーツをする子どもが多ければニオイが気になるかもしれませんが、そうでなければさほど気にならないかもしれません。
土間収納内にコンセントがあると、電動自転車のバッテリー充電や、靴の乾燥機などに使えます。使うとわかっている場合には、あらかじめ設置しておきましょう。
「コンセントを設置したほうがいいのかどうかは、収納するものによって異なります。例えば電動自転車を使うなら、バッテリー充電用のコンセントが棚の上にあると良いでしょう。一方靴やコートなどを収納するだけであれば、コンセントは不要かもしれません」
玄関に設置した扉を付けないオープンタイプに、お気に入りのアイテムをディスプレイ感覚で収納すると、手軽におしゃれな空間を演出できます。
アウトドアが好きな人なら、スノーボードや自転車を玄関土間でお手入れし、そのままラックに掛けて「見せる収納」を楽しむのもおすすめです。
土間収納部分も含め、玄関の床に使われる素材は、タイルやコンクリート、洗い出しなどさまざまです。おしゃれな玄関収納にするなら、家全体の雰囲気に合った床材や壁材を選ぶと統一感が出ます。
メインの照明はダウンライトが採用されることが増えていますが、足元や棚に間接照明を設置するとおしゃれ度がアップします。特に夜、外から帰ってきたときに眩しすぎないのもメリットです。
最後に改めて中川さんに、玄関に土間収納を設ける際のポイントを聞きました。
「玄関の土間収納は、入れるものを想定して広さを決めることが一番のポイントです。その際、自分がどのような生活をするかを想像することが大切です。
例えば一戸建てで車移動が中心の生活になる場合、ベビーカーは車に積んだままにするかもしれません。今マンションに住んでいる人は、一戸建てに移り住んでからのライフスタイルの変化や、今後子どもがどんなスポーツをするのかなど、将来のことをイメージして広さやタイプを選びましょう」
玄関に土間収納を設けると、玄関がすっきり見える、汚れがちなものを部屋に持ち込まずに済むなどのメリットを得られる
同じ設置面積でも、幅と奥行きによって収納量や使い勝手が異なる
玄関の土間収納は、将来のライフスタイルの変化まで考慮して可変性を持たせておく