ホームエレベーターは、多層階でリビングが上階にある場合、賃貸併用や店舗併用で居住スペースが上階にある場合、家族に高齢者がいる場合などに取り入れたい設備です。今回は、ホームエレベーターの価格や維持費、新築・リフォーム時に取り入れる際の注意点について、パナソニック ホームエレベーターの武藤健司さんに伺いました。
個人住宅に設置するホームエレベーターは、近年とても種類が増えています。カタログやホームページを見ても、どのように選べばよいのか分からない人も多いでしょう。
ホームエレベーターの種類は、定員と家の階数によって大きく分かれます。
定員は、3人乗り用と2人乗り用が一般的です。定員によってカゴ(ルーム内)の広さはほぼ同じなのですが、ルームの形には縦長モデルと横長モデルがあり、設置スペースの形に合わせて選ぶことができます。
また、設置する家の階数により選択できる商品が決まります。
「当社では、階数によって商品シリーズを分けています。2~4階建て用のほかにも、最近は都市部で4、5階建て住宅が増えていて、最大5カ所に停止できるエレベーターがあります。その方が下降最高速度は速いため、階数が高い家でもストレスなく利用して頂けます」(パナソニック ホームエレベーター 営業企画担当部長 武藤健司さん。以下同)
定員と家の階数の他には、どのような視点でホームエレベーターを選べばよいのでしょうか。
「重視したいのはホームエレベーターの設置目的です。目的は、車椅子を利用する家族がいる、上階のLDKへの荷物運びに使う、階段の上り下りが辛いなど必要に迫られて設置するケースと、今は必要ないけれど将来に備えて設置しておきたい、というケースに分かれます。
いずれにせよ、建築会社や設計士に、どのような目的でホームエレベーターを設置したいのかを伝え、ホームエレベーターへの動線に配慮したうえで設置スペースを確保してもらいましょう」
設置目的と設置スペースが明確になれば、それに応じたホームエレベーターを選びやすくなります。例えば、大型の車椅子を利用しているなら奥行きが深い3人乗り用を、狭小地の新築で設置スペースに余裕がないときはコンパクトタイプを選ぶとよいでしょう。
「今は必要がないけど将来に備えて設置したいという方には、3人乗り用をオススメしています。2人乗り用では大型の車椅子が対応できなかったり、車椅子の介助者が同乗できなかったりすることがあるからです」
さらに、最近のホームエレベーターはカゴ内や扉の色柄のバリエーションが増え、クラシック、モダン、フレンチシックなどさまざまなテイストを選択できます。お部屋のスタイルと近いテイストを選べば、住まい全体に統一感のあるコーディネイトが実現できます。
ちなみに、ホームエレベーターの商品カタログには、「油圧式」と「ロープ式」という記載があります。この違いはどのような点でしょうか。
「エレベーターを動かす仕組みが違いますが、乗り心地はほとんど変わらず、同等機種なら昇降スピードもほぼ一緒です。もちろん、ホームエレベーターで重要となる安全性能も同等です。唯一異なるのが扉の開閉方式で、油圧式はどちらか一方に扉が開く片開き、ロープ式は真ん中から左右に開く両開きとなります」
ホームエレベーターの価格は、定員とサイズで決まります。一般的には、定員数が多く、サイズが大きくなるほど使用する部材が増えるため価格は高くなります。
「商品価格の目安は、3人乗り用・2階建てタイプで約300万円台前半です。ただ、同じホームエレベーターでも階数が高くなると価格も高くなり、オプションを追加するとその分アップします。
オプションは安全性や快適性を高めるための機能アップが中心ですが、最近の商品は標準装備が充実しているので、オプションをつけない人が多いです。ご家庭に小さな子どもやペット、お身体が不自由で動作がゆっくりの方がいる場合、さらに安全性を高めるため、非接触センサーによる挟まれ防止機能を追加することもあります」
ホームエレベーターのランニングコストは、電気代とメンテナンス費用になります。
「電気代はホームエレベーターのサイズにより変わりますが、1カ月600円程度(※)が目安です。メンテナンス費用は、当社の場合、商品シリーズと使用頻度によって変わります(下図参照)。使用頻度は普通のご家庭なら1日10回程度なので、年1回の定期点検のプランで年額一括払いを選択されるお客様が多いです。
なお、ホームエレベーターの所有者には、建築基準法により維持保全する義務があります。ホームエレベーターの耐用年数の目安は約20年ですが(※2)、この期間中安全にご利用頂くためにも、定期的な点検とメンテナンスを受けることをオススメします」
※算出基準:2階建て10往復の場合、新電力料金目安単価27円/kWh(税込)とした場合の試算(社団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会)
※2:ご利用程度により変わります
子どもの独立を機に日当たりのよい2階を有効活用したい、病気や事故により車椅子での生活になった、二世帯暮らしを始めるので階段の昇り降りをもっとラクにしたいなどのライフスタイルの変化に対応するために、今の家にホームエレベーターを設置したいというニーズが増えています。
「リフォームでホームエレベーターを設置するには、家の中に設置する改築と、家の外に設置する増築の2通りの方法があります。
改築の場合、押入れやクロゼット、吹抜けを活用することが多く、約1畳あれば設置可能な機種もあります。増築は、敷地に余裕があったり、今の間取りを変えたくない場合に選択しますが、外壁を新たにつくる必要があるためリフォーム費用は高くなりがちのため、費用面から改築を選択されるケースが多いですね」
注意したいのは、ホームエレベーターは建築基準法を満たした住宅でなければ設置できない点。リフォームする家の建築確認検査済証が手元にあれば問題ありませんが、手元に無い場合はリフォーム会社の担当者と一緒に、役所へ確認・相談に行くとよいでしょう。
リフォームでホームエレベーターを設置するための費用は、エレベーターの商品・工事価格と、建物側の工事費となります。
「建物側の工事費は、改築か増築かだけでなく、建物の状態で大きく変わります。例えば、解体する場所やその量により解体工事費が変わりますし、建物の強度が足りない場合には補強工事が必要になります。
リフォーム費用の一例として、木造2階建ての屋内に3人乗り用・2階建て商品を設置する場合で400万円台、軽鉄骨造3階建てに増築して2人乗り用・3階建て商品を設ける場合で600万円台というケースがありました」
各自治体では、独自の住宅改修支援対策を実施しています。自宅の改修でホームエレベーターを設置するときの補助金や助成金を用意している自治体も多数あるため、住んでいる自治体の住宅改修支援制度を確認してみましょう。
ホームエレベーターの設置には、建築基準法により「昇降機確認申請」が義務付けられています。新築の場合、建物の建築確認申請のタイミングと一緒に行います。リフォームの場合、10m2以上の増築を伴う場合等、建築確認申請と併せて申請しますが、建築確認申請が不要の場合はエレベーター単独で申請を行います。
いずれの場合も確認申請費が発生し、申請費は検査を行う指定確認検査機関によって異なります。申請手続きは建築会社やリフォーム会社が代行するのが一般的で、その場合、申請費はこれらの会社から請求されます。
ホームエレベーターを設置すると建物の資産価値が上がるため、固定資産税が年にいくらか高くなります。減価償却期間は17年で、耐用年数の目安とほぼ同じになっています。
ホームエレベーターは、間取りやライフスタイルによっては必要性があまり高くない設備かもしれません。しかし、導入者に聞いたアンケート調査を見ると、大きな荷物や買い物の手荷物、ふとんや洗濯物の上げ下ろしのときなど、日常のさまざまなシーンで便利に使われていることがわかります。
暮らしを安全で快適に、そして長く住める家を建てたいなら、ホームエレベーターは設置を検討したい設備といえそうです。将来のライフスタイルの見通しを立て、どのようなシーンで必要になりそうかをイメージしながら選ぶとよいでしょう。
この記事は、2022年3月9日現在の情報です