押入れのサイズってどれも同じように見えるけど、実際のところはどうなの?
布団を収納するだけでなく、スペースを有効に活かして衣類なども収納したい。
押入れをリフォームして別の用途に使うには、どんな方法がある?
知っているようで知らない昔ながらの押入れのこと、その利用法や可能性について、収納やリフォームに詳しい一級建築士のYuuさんにお話をうかがいました。
「押入れは布団をしまうことが第一の目的なのですが、奥行きが深く容量もたっぷりあることから、衣類や扇風機など季節ものをしまっておく納戸のような役割があり、昔から収納スペースとして重宝されてきました」(一級建築士事務所OfficeYuu代表 Yuuさん。以下同)
最近は住宅のつくりや間取りによって押入れのサイズもまちまちだといいますが、
「一般的に多いのは、間口が1間(いっけん、約182cm、柱や仕上材の厚みを除いて実質168cm程度)、奥行きが半間(はんげん、約91cm、実質は78cm程度)、高さは230cm程度です。
押入れは、中段(なかだん)があって、上下に仕切られていますが、そのサイズは下が高さ約70cm~80cm、上が90cm~100cm、さらにその上に枕棚(まくらだな)がつくか、あるいは外側からも使える天袋がつきます」
つまり押入れは、畳と同じように、1間や半間など家を建てる際の日本の伝統的な尺モジュール(モジュールは基本寸法のこと)に基づいてできています。
かつて江戸間や京間などと言われたように、地方によるモジュールの違いは明確にありましたが、現在では江戸間をベースとした尺モジュールが多くなっているようです。
「マンションは一戸建て以上に畳や押入れのサイズはまちまちで、団地サイズと言われた尺モジュールより小さい畳が普及した時期もありましたが、現在では少なくなりました」
押入れのサイズは、尺モジュールを基本としているものの明確に決まっているものではありません。したがって、押入れに入れる収納ケースの購入などの際に自分の家の押入れのサイズを正確に知りたい場合は、メジャーで測ってみるのがよいでしょう。
日本人の暮らしに密接に関係してきた押入れですが、近年、とくにマンションでは和室や押入れのある間取りが減少し、一戸建てでも和室のない家が増えています。
「最近はふとんで寝る人が減り、寝室は洋室にベッドが主流になりました。ふとんもウォークインクローゼットなどにしまっておくケースが見られるんですよ」
和室をつくるかどうか、新築の際には、自分の生活をよく考えて検討する必要があるそう。
「昔のようにお客様を招くことが減ったかもしれませんが、例えば親や親せき、友人が泊まりにくるような場合、押入れのある和室が一つあると、とても重宝します」
ただ、和室や押入れを設けるスペース的な余裕がないという場合もあるでしょう。その場合は、「狭小住宅やマンションの場合、つり押入れという方法が。
押入れの下端を床から浮かせて設けるもので、その床を板張りにすれば、床の間としたり、小物を飾ったりでき、地窓(じまど、床面に接した小さな窓)を設ければ明かりも入ります」
狭い和室でも押入れの下が空いていることで、視覚的に広がりを得られるでしょう。
「床から押入れまでの間は60cm程度空けておくとよいでしょう。これぐらいの高さがあれば、一層、部屋の広がりを感じることができます」
4畳半程度しかスペースをとれない場合でも、押入れの下に足を伸ばすことができれば、スペースを有効に使うことが可能です。
一般的なサイズの押入れは、ふとん専用とするには大きいので、結局さまざまなものを詰め込んで、使いづらくなってしまう場合も。
押入れがふとん以外の収納にとって使いづらいのは、奥行きの深さによるものです。しかし奥行きが深いということはそれだけ収納量があるということなので、工夫することで使いやすくたっぷり収納できるスペースになります。
「押入れの奥行きの深さを活かすには、キャスター付きの収納ケースがオススメです。
衣類を夏物と冬物に分けて収納し、夏は夏物のケースを手前に、冬場になったら、前後を入れ替えるだけで簡単に衣替えができます」
一つの収納ケースに入れておくと、奥のほうにしまったものを取り出すのは大変で、結局しまいっぱなしになりがちですが、この方法なら無駄なく、押入れのスペースを活かせます。
押入れにハンガーパイプをつけて、クローゼット代わりに使うのもよくある手。
しかし、ハンガーパイプに衣類をつるす場合は奥行き60cmもあれば十分なので、スペースが余ってしまいます。そんなときは、
「ハンガーパイプにかけておきたい衣類は、前後の2列型にするとよいでしょう。無駄なくスペースが使え、2倍近くの衣類をかけられるんです」
手前のハンガーと奥のハンガーで、かけておく衣類を区別しておけば、お出かけ前のチョイスも簡単でしょう。
キャスター付きの収納ケースや2列型のハンガーパイプは、通販などでも売られていて、すぐに手に入ります。これらを上手に組み合わせて、押入れを有効に活用した大容量で使いやすい収納を確保しましょう。
「ふとんは幅1mあれば収納できます。扉を折り戸や観音開きにすれば、コンパクトな押入れに。そうして空いた隣のスペースは、子どもの勉強コーナーやテレワークのスペースにすることが可能です」
ふとんをしまうという必要な機能は残し、幅60cmほどの空いたスペースにデスクや棚を造作するというもの。最小限のスペースを活用したワークコーナーができます。
押入れの奥行きを活かし、押入れを前後に分けて隣り合った部屋と使い分けるという方法もあります。
「押入れのあった和室を洋室にして、押入れをクローゼットにした場合。クローゼットは奥行き60cmくらいがちょうどよいサイズなので、残りの30cmを隣り合った部屋の収納にすることができます」
奥行き30cmなら、書棚や飾り棚として最適。隣室が玄関なら靴箱にするのもオススメです。
「押入れは先に述べたように、尺モジュールでできているのが基本です。日本の設備機器も尺モジュールを基本にサイズが考えられていることが多いので、例えば間口1間にすっぽり入るミニキッチンもあります」
2世帯住宅にリフォームする際に、キッチンをもう一つといったときに役立つアイデアです。
そのほか洗濯機も半間のモジュールに合うものが多いため、洗濯機置場としても活用できます。
「トイレも押入れのサイズくらいが一般的なので、場所によってはトイレに転用する手もあります。既存の押入れはいろいろなアイデアによって、リフォーム時に魅力的なスペースとして活かせそうです」
押入れで注意したいのは内部に湿気が溜まりやすいこと。
そもそも中にしまうふとんは夜中に人体からの湿気を吸って、押入れにしまってから放出します。
放っておくと押入れ内部に湿気が充満し、カビの原因になります。外出時に着ていた衣類も同様です。
「湿気は困った問題ですが、ふとんをよく干す、扉を開けておく、乾燥剤や湿気取りシートを入れておくなど、こまめに対応するしかありません。衣類は外から帰ったら、すぐにしまわずにいったん部屋にかけて湿気を放出してから、押入れやクローゼットにしまう習慣をつけるといいですね。
一戸建ての1階にある押入れは、床下からの湿気の影響を受ける場合もあるので、断熱をするなどの対策をするといいでしょう」
ともあれ湿気に特効薬はないそうなので、ふだんから気をつけるようにしましょう。
これまで暮らしにすっかり馴染んでいたと思っていた押入れも、こうしてあらためて考察してみると、さまざまな可能性が見えてきました。この記事を参考に、あなたも新しい押入れの活用法を考えてみませんか。
押入れのサイズは1間×半間が基本だが、実際は設計によって変わるので、正確なサイズは測って確認しよう
押入れ収納は、キャスター付きのケースや2列のハンガーパイプを用いて、使い勝手をよくするのがポイント
押入れリフォームは、奥行きの深さを活かして、隣り合った部屋同士でスペースを使い分けると用途が広がる