不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

不動産売買契約書とは。売主が知っておきたい説明事項をポイント解説/不動産売却マニュアル#15

不動産売買契約書とは。売主が知っておきたい説明事項をポイント解説/不動産売却マニュアル#15

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買主への宅地建物取引士による重要事項説明が終了したら、いよいよ売買契約の締結だ。契約書にはどんな内容が記載されるのか、主要なポイント・注意点を確認しておこう。

不動産の売買契約書における主なポイント

マンションや土地、戸建など不動産の売買契約書については、記載事項が業界団体や不動産会社などにより定められている。その主なポイントは以下のとおりだ。

(1)契約の当事者の特定
(2)売買の目的物の表示
(3)売買の対象面積と売買代金の決定方法
(4)境界の明示
(5)代金の支払い方法
(6)手付金・手付解除
(7)所有権の移転登記・引き渡し
(8)設備・備品等
(9) 抵当権などの抹消
(10)公租公課などの精算
(11)危険負担
(12)契約違反による解除
(13)反社会的勢力排除条項
(14)ローン特約
(15)契約不適合責任

以下、順にみていこう。

当事者や物件の確定について

契約の当事者を明確にする

売主と買主の住所・氏名を表示する。法人の場合は名称(商号)、代表者氏名、事務所の所在地を表示する。

売買される物件を表示する

取引の対象物件とその範囲を表示する。原則として登記記録に記録された内容をそのまま記載する。

対象面積と売買代金の決定方法を定める

土地については売買代金を登記記録上の面積で決定する方法と、実測面積で確定させる方法がある。さらに実測面積の場合は売買契約までに確定させる方法と、契約後に実測して確定し精算する方法に分かれる。

また建物は登記記録上の面積で代金を確定する方法が一般的だ。マンションの専有面積は登記記録上は内法面積(壁の内側の線で囲まれた面積)で表示され、新築時のパンフレットなどに表示される壁芯面積(壁の厚みの中心線で囲まれた面積)より数字がやや小さくなるので、どちらの面積で表示したかを買主に明示する必要がある。

境界を明示する

売主は物件の現地で隣地との境界を買主に明示する必要がある。境界が不明な場合には土地家屋調査士や測量士などを交え、隣地所有者との間で境界を確定しなければならない。越境物がある場合、それを買主が承継するのか、引き渡しまでに売主が解消するのかを特約で明示する。

代金の支払いや引き渡し、精算について

代金の支払い時期とその方法を明記する

代金は契約締結時に買主から手付金を受け取り、引き渡し時に残代金の支払いを受ける形が一般的。場合によっては約定によって中間金を受け取ることもある。実測売買で引き渡し時に精算する場合は、その方法についてあらかじめ取り決めておくことが大切だ。

手付金と手付解除について定める

売買契約の締結と同時に買主から支払われる手付金は、最終的に売買代金に充当される。当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄し、売主は倍返しすれば契約を解除することができる(詳しくは「売買契約時の手付金とは」を参照)。

所有権の移転登記・物件の引き渡しの時期を明示する

売主による所有権の移転登記・物件の引渡しは、原則として買主による売買代金の支払いと同時とされ、契約書でもそれを前提とするのが通常だ。

設備・備品等について設備表を作成する

照明やエアコン、給湯器、門、へい、庭木などの設備・備品について、そのまま引き渡すのか、故障していないかなどについて「設備表」を作成する。なお、瞬間湯沸器や給湯器、ふろがまなど、経年劣化により生命や身体に重大な危害をおよぼす恐れが多いと消費生活用製品安全法で認められた9品目の「特定保守製品」については、その旨を設備表に記載して買主に情報が円滑に伝わるよう努力しなければならない。

抵当権などの抹消を明記する

物件に抵当権や地役権、地上権などが設定されている場合は、売主が引き渡しまでに抹消し、買主が完全な所有権を行使できる状態にする旨を明記する。

公租公課などの精算方法を定める

固定資産税や都市計画税など土地建物に課される税金や賃料収入などについて、売主と買主による精算方法について明記する。負担の区分は引き渡し日の前日までは売主、引き渡し日以降は買主とするのが一般的だ。起算日については1月1日とする方法と4月1日とする方法があり、当事者の合意により定める。

危険負担、契約違反による解除、契約不適合責任などについて

危険負担について明記する

引き渡しの前に物件が地震や火災、台風などで損害を受けた場合、当事者のどちらが損害を負担するかを定める。売買契約書では売主が物件を修復して買主に引き渡すと定めるのが業界では一般的となっている。物件の修復が著しく困難な場合などには、買主は売買代金の支払いを拒むことができ、売主または買主は契約を解除できるとしている。

契約違反による解除について定める

売主、買主のいずれかに契約上の重大な違反があったときは、相手方が契約を解除できる旨を明記する。履行遅滞の場合は相当の期間を定め、配達証明付き内容証明郵便で催告し、それでも履行されない場合に解除できる。

売主の契約違反で買主が解除したときは、売主は買主に手付金や中間金を返還したうえで、違約金を支払う。買主の契約違反で売主が解除したときは、売主は買主に手付金や中間金から違約金を差し引いた残額を買主に返還するが、違約金の額のほうが大きい場合はその差額を買主に請求できる。違約金の額は契約時にあらかじめ売買代金の10~20%と定めるのが通常だ。

反社会的勢力排除条項を設ける

売主と買主は反社会的勢力を排除するため、当事者が反社会的勢力に該当しないことをあらかじめ確約しておく。

ローン特約を付ける

買主が住宅ローンを利用して物件を購入する場合、金融機関から融資を受けられなかった場合に備えてローン特約を付けるのが一般的だ。これはローンが不成立の場合に契約を白紙に戻し、売主が受け取った手付金などは買主に無利息で返還するというもの。

ローン特約を付けるときはローンを借りる予定の金融機関名や融資予定額を明記する。また、契約が解除された場合は不動産会社は仲介手数料を請求できず、すでに受け取っているときは返還する旨も記載する必要がある。

契約不適合責任について定める

物件に契約不適合があった場合は、「引き渡し後○カ月」などと売主が契約不適合責任を負う期間を定める。期間内に契約不適合が発見されたときは買主は売主に対し修補や代金の減額、損害賠償、または解除を請求できることを明記する(詳しくは「不動産売却時の契約不適合責任」を参照)。

買い替え特約について

新居の売買契約に買い替え特約を明示する

売主が自宅を買い替える場合に、旧居の売却が成立することが、新居の売買契約の成立の条件になる場合がある。この場合には旧居の売主(つまり新居の買主)と、新居の売主(通常は不動産会社)とで取り決めた特約の内容を明示する。一定期間内に売却できなかった場合は契約を解除するという内容が一般的だ。不動産会社があらかじめ決められた価格で買い取りを保証するケースもある。

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不動産売却マニュアル

●構成・取材・文/大森広司
住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
●監修 明海大学不動産学部教授・中村喜久夫さん 宅建試験の人気テキスト「スッキリわかる宅建士」の著者。賃貸不動産経営管理士試験の5問免除講習や宅建士法定講習の講師も務める。YouTube「中村喜久夫チャンネル」で講義動画も公開中。 不動産鑑定士。(公財)日本賃貸住宅管理協会監事。
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