住まいの雑学
連載江戸の知恵に学ぶ街と暮らし
やまくみさん正方形
山本 久美子
2013年6月6日 (木)

落語に多い芝居噺 江戸時代の芝居小屋の構造は?今とどう違う?

中村座内外の図 一陽斎歌川豊国(画像提供:国立国会図書館 中村座内外の図のうち内部の3点を抜粋)
「中村座内外の図」国立国会図書館所蔵

連載【落語に学ぶ住まいと街(18)】
落語好きの住宅ジャーナリストが、落語に出てくる江戸の暮らしを参考に、これからの住まい選びのヒントを見つけようという連載です。

番外編として、歌舞伎座を紹介した「いよいよオープンした新・歌舞伎座、建築物としての見どころは?」が、こけら落とし公演が続いて、連日にぎわいを見せている。江戸時代の歌舞伎は、庶民の最大の娯楽だった。落語にも、歌舞伎を題材にした「芝居噺」が多い。なかでも「七段目」はもっともよく知られている。七段目とは、忠臣蔵を描いた歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」の「祇園一力(いちりき)茶屋の場」のことだ。

落語「七段目」とは…

大店の若旦那は芝居好きで、家業そっちのけ。旦那が叱っても、芝居がかりで答えるので、2階に謹慎となる。若旦那は2階で反省するどころか、一人で芝居の真似を始める。「静かにしろ」と旦那が小僧の定吉を2階へやるが、この定吉も大の芝居好きだった。

芝居好きが2人になってしまったので、若旦那は、見てきたばかりの「仮名手本忠臣蔵」の七段目に登場する、勘平の女房お軽とその兄の平右衛門を演じようと誘う。芝居の真似に興が乗ってきて、決して抜かないと言っていた本物の刀を若旦那が抜いたからたまらない。

あわてて逃げ出す定吉は、梯子段から転げ落ちる。それに気づいた旦那が、「てっぺんから落ちたか?」と聞くと、定吉が「いいえ、七段目」と答える。

芝居小屋の構造はどうなっていた?

芝居小屋は、当初は能舞台様式の舞台を竹で組んだ囲いやむしろをかけるなどしてつくった仮設のもので、観客は地面に座って見ていたという。江戸時代には、屋根をつけた3階建ての大建築となる。能舞台の橋掛かりが客席に延びて「花道」となり、花形役者が花道を通って登場することになる。

浮世絵に描かれた芝居小屋の内部から分かるように、舞台正面の1階席が平土間(ひらどま)で、4人~6人が座れる木の仕切りで区切られた枡席(ますせき)となっていた。平土間より高い左右の位置には、2層になった桟敷(さじき)席が設けられていた。桟敷席は芝居茶屋を通して予約しなければならず、上客向けのものだった。最も安価な席は、浮世絵には描かれていないが、舞台正面の2階の桟敷で立見席となっていた。

一方浮世絵には、いまではあまり見られないが、舞台下手(左側)に下級の桟敷席が描かれている。1階を羅漢(らかん)台、2階を吉野と呼ぶ。芝居を後ろから見ることになるので、安価な席となっていた。

舞台の真ん中には「回り舞台」(円形に切った床の上に大道具を乗せて、それを回転させることで、場面転換が早くできる)がある。ほかにも、舞台の床をくりぬいて上下させる舞台装置があり、「セリ」と呼ばれている。大きさや場所によって「大ゼリ」「小ゼリ」、花道の「すっぽん」などの種類がある。舞台の床下を奈落(ならく)といい、ここでは人力で回り舞台を回したり、セリを押し上げたりしていた。

電気のなかった江戸時代は、「明かり窓」からの自然光を利用したので、興業は早朝から夕方までだった。それでも、それほど明るいわけではないので、「面明り(つらあかり)」という長い柄のついた燭台で、役者の顔を客席に見えるようにしていた。衣装や化粧が派手なのも、役柄がすぐに分かるための工夫だったようだ。

現代の劇場との違いは?

江戸時代の舞台の間口は三間(5.454m※一間=六尺=1818mm)から六間半へと広がり、明治になると十一間(約20m)へと広がっていった。第5期となる新しい歌舞伎座の舞台は、第4期を踏襲して、間口が91尺(27.573m)、回り舞台の直径 は60尺(18.18m)になっている。舞台が大きくなったのは、明治時代に海外の劇場を意識したからだという。

また、生活様式を反映して客席が椅子席になり、さまざまな照明が設置され、電気で回り舞台やセリを動かすようになっているが、舞台の構造は江戸時代のものが今も継承されている。

もちろん、現代の設計技術によって、劇場自体の耐震性や耐久性、バリアフリー性が向上し、安全に快適に観劇が楽しめるようになっている。

落語に多い芝居噺 江戸時代の芝居小屋の構造は?今とどう違う?

【図】香川県の金丸座(2009年四国こんぴら歌舞伎大芝居にて)(写真撮影:住宅ジャーナリスト・山本久美子)

江戸時代のものではないが、かつての伝統的形態を残す「芝居小屋」が、各地に現存している。香川県の金丸座や熊本県の八千代座などでは、今も歌舞伎役者による本格的な歌舞伎興行が行われている。ほかにも、地元の人たちによる素人歌舞伎が行われる芝居小屋、内部を公開している芝居小屋が各地にある。こうした芝居小屋を見て、当時の様子を思い描くのも面白いだろう。

さて、落語「七段目」のサゲの部分だが、上方の古い型では、「茶屋場をやってたんやな。七段目で落ちたんか?」「いいぇ、てっぺんから」という逆のサゲもあるそうだ。

■参考資料
「落語ハンドブック改訂版」三省堂
「落語で読み解く『お江戸』の事情」中込重明監修/青春出版社
「見取り図で読み解く江戸の暮らし」中江克己著/青春出版社
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/dc8bf0c1134dae340e61cda16d35e4fa.jpg
連載 江戸の知恵に学ぶ街と暮らし 落語・歌舞伎好きの住宅ジャーナリストが、江戸時代の知恵を参考に、現代の街や暮らしについて考えようという連載です。
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