レギ婆って原作を読んだ時は西洋の魔女みたいな感じかなって思ったけど、アニメのレギ婆はインドとかアジア系の顔立ちだね。少なくとも西洋生まれの人狼ではなさそう。(混血の可能性はあるだろうけど)
「狼の棲家」
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— TVアニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』公式 (@undeadgirl_PR) 2023年9月13日
第11話「狼の棲家」
📣本日25:15~放送スタート(※20分押し)
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滝に落ちた静句はノラ・ヴェラ・カーヤという人狼の少女に助けられていた。一方、ロイスと共に人狼の村を目指す鴉夜と津軽だが、<夜宴>も2人の動きを探っていて――。
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11話は原作の164頁から262頁(第11節「始まり」から第19節「濃霧ときどき人造人間」)までの内容。今回は遂に人狼の村・ヴォルフィンヘーレが我々視聴者の前に現れ、ホイレンドルフと同様の事件が何と人狼の村でも起こっていたことが明らかとなった。
二ヶ所の集落で同時期に殺人が起こるというのはミステリ小説では一応前例があって、例えば有栖川有栖『双頭の悪魔』では二つの村をつなぐ橋が洪水で流され、陸の孤島と化した村とその外側にあたる村の二ヶ所で同時期に殺人事件が起こるというプロットになっている。そして二階堂黎人『人狼城の恐怖』は村ではないが独仏国境の渓谷に建てられた二つのお城で同時期に連続殺人が起こるという物語になっている。ちなみに、『人狼城の恐怖』はタイトルにもあるように人狼をテーマとしたミステリで、日本の名探偵・二階堂蘭子が謎解きのためにヨーロッパまで行くので、本作とちょっと似通った部分がある。興味のある方は是非読んでみてもらいたい。
あ、「読んでみてもらいたい」とは言ったけど、『人狼城の恐怖』は、文庫版で平均650頁弱×四冊の“世界最長の本格推理小説”と称される程の長大なボリュームの作品なのでお気軽に読めるシロモノではないし、普通に本屋に行っても置いてない入手困難な作品なのでそれだけは言っておく。私もブックオフでやっと見つけたから新品で見つけるのはほぼ無理だと思う。でも『人狼城の恐怖』は四冊のうち二冊を問題編、一冊を捜査パート、最後の一冊を解決編として書いており、長大な分量に見合った謎解きが展開されるので、アンファルが面白いと感じた人なら是非ともチャレンジしてもらいたい。
親の因果が子に報い
話をアニメ本編に戻そう。普段は鴉夜の従者として仕えている静句も、今回は単身人狼村に乗り込んでしまったので、慣れない捜査や推理をしなければならないし、窮地も一人で脱しないといけない羽目になった。
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行
そんな何もかもイレギュラーな状況下で静句が見聞きしたヴォルフィンヘーレという人狼村は霧の窪地の中の森にあり、外界との交渉をシャットアウトした人狼だけの閉鎖的な村だった。村にはブルートクラレ(赤いかぎ爪)と呼ばれる、人間の村で言う所の青年団に相当する自警団がおり、赤い刺青をした人狼がその役目を担っているようだ。村は一人暮らしでつがいが存在せず、言ってみれば村自体が一つの大きな家族のようになっている。
では人狼村は人間の村と違い平和でユートピアみたいな場所かと思いきやどうもそうではなく、13年前にローザが村から逃げようとして捕まり羊の櫓で裁きを受けたそうである。村の女性は巫女としての役目を果たさなければならないのに、それを放棄して逃げたという罪で裁かれたようだが、結局ローザはホイレンドルフまで逃げてユッテを出産、その後人狼だとバレて焼き討ちに遭って死ぬ。それが8年前ホイレンドルフで起こった騒動の顛末ということになる。
この辺りの内容については前回の感想記事でも言及したように、災いの原因は必ずしも村の外部からもたらされるのではなく、内部にこそ重大な問題が孕んでいるということを示唆しているが、今回も同じことを言っても仕方ないので因縁という点から今回の話を眺めることにしよう。
ミステリ小説は原因と結果、つまり事件の動機や切っ掛けとなる原因とそれによって生じる殺人事件という結果によって成立する。言うなればミステリ小説はすべからく因縁話であると言って良いだろう。今回の「人狼」編もその例に漏れず過去の出来事が現在の連続殺人(殺狼)事件という形で結実しているのだが、被害者たちは人間村も人狼村も同じ10代前半の少女が犠牲となっており、これが過去の因果に対する報いだとしたらそれは被害者たちにとっては余りにも理不尽な報いだと言えないだろうか?
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行
今はあまり使わないが「親の因果が子に報いる」という言葉がある。親の犯した悪行の結果が、なんの罪科もない子孫に及ぶことを意味することわざで、昔の見世物小屋では蛇女を紹介する時に「親の因果が子に報い、生まれいでたるこの姿」と言って、人間の親に殺された蛇がその娘に蛇女という形で報いたのだと紹介したそうである。このように、理不尽な因果応報というのは現実にも創作の世界にもあることで、本作でも「親の因果が子に報いる」状況になったことがわかる。
ただここで注目すべきは、人狼村における報いは13年前のローザの一件だけではないのだ。
失念している人もいると思うので改めて説明するが、そもそも〈鳥籠使い〉一行や〈夜宴〉がこの場所まで辿り着けたのは、あのブラックダイヤモンド〈最後から二番目の夜〉があったからであり、それを作ったのは人狼に滅ぼされたドワーフ族である。14世紀にドワーフ族が復讐のため人狼の村の場所をダイヤに刻み込んだことで、こうして19世紀末の今、人狼村に外部から様々な勢力が侵入しようとする状況になっている訳だ。これも先祖の行いが後の子孫に理不尽な影響を及ぼすという点で「親の因果が子に報いる」ケースに当てはまるだろう。
今回の時点では人狼村における災いにローザの一件が関わっているというのは何となくわかるだろうが、これから先人狼村にはローザの件に加えて数世代も前の先祖の人狼がしでかしたドワーフ族壊滅に対する報いも降りかかる。ヴォルフィンヘーレは次回から二重の報いを受けることになると思われるが、先祖の人狼がドワーフ族と仲良くしていたら一重の報いで済んだだろうし、ドワーフ族壊滅から現在までの約500年もの間、外界との交渉を断ち異種族を拒み続けたツケを払うことになるのだ。
さいごに
ということで11話、「人狼」編も後半へと移っていくがミステリとしては、
・二つの村で同時期に起こった事件は単独犯の仕業か或いは複数犯の仕業か?
・五感が鋭い人狼が何故これまで銃声の音を聞いていないのか?
・人狼村の事件の犯人が人間だと仮定すると、どうやって人狼村に辿り着いたのか?
・人狼村の事件で、何故被害者たちは犯人を警戒せず正面から撃たれたのか?
・人狼の少女が殺害直前に様子がおかしかったのは何故か?
・ルイーゼとノラの事件だけ、これまでの殺害・犯行状況と違うのは何故か?
といった具合にいくつもの疑問点が列挙される。他にも事件に直接関係しないが、ローザが勤めを放棄したという巫女の役目とは何かというのも気になるポイントだ。これに関しては9話から今回にかけて既にヒントは提示されているので原作未読の方は考えてみると良いだろう。
それにしても、アニメで見るとレギ婆の偏屈さというか非論理的な部分がよりハッキリと映し出されて、そりゃローザも逃げるわなと思わざるを得なかった。とはいえキャラデザを見る感じ、記事冒頭で言ったように恐らくレギ婆はアジアから大陸を横断してはるばるドイツの人狼村に辿り着いた人狼の一体だと思われるし、その間の艱難辛苦を経てもうこの土地でしか生き延びられる余地はないと判断したのだと思うと、今回の冒頭で「私らにはこの村しかない!」というあの一言にも重みがあるというか、彼女自身の経験が多分に反映された一言なのだなと思った。これは原作を読んだ時には抱かなかった印象なので、今回のアニメでレギ婆をアジア系のキャラデザにした人は流石だなと思うし、見た目で登場人物の過去や歴史的背景を仄めかすというのはアニメならではの手法として実に巧いやり方だと、静句が鳥籠の中に入る演出も含めて評価したい。