学校教育では、障がい者差別解消法を軸とする合理的配慮の提供が求められています。教員を中心に、教育に携わる方はしっかりと内容を押さえなければなりません。その法的な根拠や具体的内容、現場で実際に取り組む際のポイントなどについて、学校問題に精通する弁護士が解説します。

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1.合理的配慮とは

(1)合理的配慮とは何か

合理的配慮とは、障がいのある人からの要請に従って、社会のなかの「障壁」を変更したり調整したりする取り組みのことです。ここでいう「障壁」とは、障がいのある人が日常生活を営むうえで妨げとなる事物・制度・慣行・観念などを指します。

ただし、配慮する側があまりにも負担が重いと感じる状況は望ましくありません。配慮の対象となる人の範囲や特性を理解しつつ、できることから取り組むのが重要です。

(2)合理的配慮を義務付ける条約・法律

合理的配慮は、条約(障害者の権利に関する条約)や法律(障害を理由とする差別の解消に関する法律)を根拠に行政機関で義務付けられています。

条約では「障害に基づく差別」を禁止していますが、「合理的配慮の否定」も差別に含まれるとしています(障害者権利条約第2条)。つまりこの条約では「合理的配慮を提供しないことは障害者への差別にあたる」としていると考えられます。

また、日本では条約に実効性を持たせるための国内法として「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」が2016年4月1日に施行されました。

この法律では、行政機関に対して合理的配慮の提供を義務付けています(7条2項)。事業者に対しても合理的配慮の提供を求めていますが、現時点では「努力義務」とされています(8条2項)。ただし、障害者差別解消法は2021年に改正され、事業者も合理的配慮の提供が法的に義務付けられることとなりました。この改正法は、2024年4月1日から施行されます。

2.「合理的」の意味とは

合理的配慮の「合理的」には、大きく分けて「必要かつ適当な配慮」と「負担が過重でない」の二つの意味があります。ここでは、それぞれの意味について詳しく紹介します。内容を参考にして、合理的配慮の意味を正しく捉えましょう。

(1)必要かつ適当な配慮

合理的とは、社会的障壁の除去に関する「必要かつ適当な配慮」を指します。提供する配慮の内容について「必要かつ適当」かどうかを判断するには、まず配慮を必要とする本人の意見を聞く必要があります。その人のためにおこなう配慮であるので、不要と思われる内容を押し付けることがあってはなりません。本人から、どのような配慮を必要としているのか意見を確認することが重要です。

(2)負担が過重でない

教育機関側にとって「負担が過重でない」ことも、「合理的」に含まれる要素の一つです。

文部科学省は、「過重な負担」の判断に際しては、以下の要素を考慮しつつ、具体的な場面や状況から総合的に捉えることが必要としています。

  1. 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
  2. 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
  3. 費用・負担の程度
  4. 事務・事業の規模
  5. 財政・財務状況

引用:文部科学省所管事業分野における障がいを理由とする差別の解消の推進に関する対応指針の策定について 2 合理的配慮 (2) 過重な負担の基本的な考え方|文部科学省

ただし、「前例がない」など一般的・抽象的な理由で、過重な負担があるとして合理的配慮の提供を拒むのは望ましくありません。また、「過重な負担」であると判断した場合にも、その理由を十分に説明し、代替案の検討や提案を通じて合意形成を図ることが求められます。

3.合理的配慮が重視されている背景

合理的配慮が重視されている理由を二つの点から説明します。

(1)医学モデルから社会モデルへの変容

まず、障がいの捉え方が「医学モデル」から「社会モデル」に変わった点です。「医学モデル」は、障がいのある人が日常生活で制限を受ける原因を個人の心身の機能に求める考え方を指します。このモデルでは、目が見えない、車いすがないと移動できない、といった個人の身体機能の不自由さが、日常生活の障害の原因であると考えています。この考え方によると、障がいのある人が生活のなかで受けるさまざまな制限は、治療やリハビリを通じて個人が解決するべきだとなりかねません。

これに対して、「社会モデル」という考え方が登場しました。車いすがないと移動できない人であっても、スロープやエレベーターにより段差を解消すれば、自由に移動しやすくなります。社会モデルでは、社会全体で障壁となっている要素を見直して問題を解消することが重視されます。

(2)配慮しないことが差別につながると認識され出した

条約のなかで「合理的配慮を提供しないことは差別につながる」と明記されたことも、重要な背景の一つです。

誰しも、差別はよくないとわかっています。そして「障がいのある子どもを運動会や卒業式に参加させない」などの対応が差別に当たることは、誰もが納得できるでしょう。しかし、参加自体が禁じられていなくても、段差が数多くある会場や点字の資料が用意されていないような環境で開催されれば、結果的に、障がいのある子どもは参加を諦めざるを得なくなります。これでは、排除されているのと同じ状況が生まれてしまいます。こうした事態を防ぐために、徹底した合理的配慮が求められています。

4.合理的配慮を提供するプロセス

合理的配慮を適切に提供するには、次のプロセスを意識することが大切です。

  1. 当事者からの意思の表明
  2. 合理的配慮の検討および調整
  3. 合理的配慮の提供
  4. 合理的配慮の評価・改善

各手順で意識したいポイントを詳しく解説します。

(1)当事者からの意思の表明

合理的配慮の実施にあたっては、障がいのある当事者からの社会的障壁の除去を求める意思表明を出発点として、どのような配慮を実施するべきかを当事者間で協議します。

障がいがある人にとって何が具体的な障壁となっているのか、行政機関や事業者にはわからない場合もあるでしょう。合理的配慮は、その人にとって必要なものを本人から伝えてもらうのを狙いとします。

しかし、すべての当事者が明確に自分の意見をいえるとは限りません。特に、子どもであればなおさら意思表明が難しくなります。障がいのある子どもたちの権利を確保するにあたって、学校側から積極的に合理的配慮について提案しましょう。ただし、その場合にも本人の意向を聴取しながら進めることが大切です。

(2)合意形成(合理的配慮の検討・調整)

当事者からの意見表明を受けて、行政機関や事業者は要請された措置や対応を具体的に検討し回答します。もし、過重な負担であると考えた場合には、その理由を説明しなければなりません。加えて、ほかにできることを提案しながら当事者間でさらに協議・調整します。

学校であれば、特別支援教育コーディネーターが話し合いの中心に立ちます。加えて、校長などの管理職や担任も交えながら、合理的配慮の内容や方法について決めましょう。

(3)合理的配慮の提供

当事者間で合理的配慮にかかる措置・対応が合意されたら、行政機関や事業者は提供するための準備に移ります。

学校では、主に児童生徒の個別の指導計画に合理的配慮の内容を記載します。指導の充実を図ったり、いつでもお互いに内容の確認や見直しをしたりすることが重要です。

(4)合理的配慮の評価、改善

一度、合理的配慮の具体的内容について合意した場合にも、その後の経過をモニタリングして変更や改善を加えることが大切です。

定期的に保護者や児童生徒と一緒に内容を評価し、課題や改善点を探します。そのうえで、改めてどのような合理的配慮を提供すればよいか検討し、必要に応じて改善をおこないましょう。

5.教育における合理的配慮の具体的な事例

合理的配慮を提供するには、事前に環境を整備しておくことも重要です。例えば、文部科学省のホームページでは、以下のような取り組みが紹介されています。

  • さまざまな障がいに対応できる、バリアフリー・ユニバーサルデザインの観点を踏まえた施設の整備
  • 障がいの状態に応じた専門性を有する教員・人材の確保
  • 点字・手話・デジタル教材などのコミュニケーション手段・教材の確保

(参照:別紙2 「合理的配慮」の例|文部科学省

ここでは、各障がいの種類に分けて具体例を詳しく取り上げます。

(1)視覚・聴覚障がいの合理的配慮の例

障害の内容に応じた合理的配慮の提供としては、以下のような取り組みが紹介されています。

視覚障害がある場合

  • 視覚障害に対応した教材(拡大版や点字版など)の確保
  • 教室での拡大読書器や書見台の利用、十分な光源の確保と調整(弱視)
  • 音声信号・点字ブロックなどの安全設備の敷設や障害物を取り除いた安全な環境の整備(例えば、廊下に物を置かないなど)

聴覚障害がある場合

  • FM式補聴器などの補聴環境の整備
  • 教材用ビデオなどへの字幕挿入

知的障害がある場合

  • 生活能力や職業能力を育むための生活訓練室や日常生活用具、作業室などの確保
  • 漢字の読みなどに対する補完的な対応

肢体不自由がある場合や医療的ケアを要する子どもたち

  • 医療的ケアが必要な児童生徒のための部屋や設備の確保
  • 医療的支援体制(医療機関との連携、指導医・看護師の配置など)の整備
  • 障害の状態に応じた給食の提供
  • 入院、定期受診などにより授業に参加できなかった期間の学習内容の補完

発達障害がある場合

  • 個別指導のためのコンピュータ・デジタル教材・小部屋などの確保
  • クールダウンするための小部屋などの確保
  • 口頭による指導だけでなく、板書やメモなどによる多角的な情報掲示

そのほか、例えば読み書きが難しい子どもへの板書の撮影許可も有効と考えられます。

6.合理的配慮に向けた学校と保護者のコミュニケーション

合理的配慮を確実に提供するには、学校側と保護者とのコミュニケーションが大切です。ここでは、保護者が相談するときに何を伝えるべきかを紹介します。また学校側の望ましい受け止め方にも触れているため、内容をしっかりと押さえてください。