不登校の子どもの数が増え続けるなか、2016年に教育機会確保法が成立しました。この記事では、教育機会確保法が成立した背景や理念、そしてそれにもとづく施策について解説します。また、法律が成立してから5年以上が経過した現在の状況や課題などについて、子どもの教育に詳しい弁護士が紹介します。

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1.教育機会確保法とは

教育機会確保法とは、不登校などさまざまな理由で十分な義務教育を受けられなかった子どもたちに、教育機会を確保するための法律です。正式には「義務教育の段階における普通教育に相当する機会の確保等に関する法律」といい、2016年に成立し、2017年に施行されました。

また、法律の施行にともない、2017年に文部科学省が「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」を策定しています。そのなかでは、不登校の子どもに対する教育機会の確保に関する事項や、夜間そのほか特別な時間において授業をおこなう学校における就学の機会の提供に関することなどが定められています(以下、「基本方針」といいます)。

2.教育機会確保法が制定された背景

教育機会確保法がつくられた背景には、従来の法制度では十分に教育の機会が保障されていない状況がありました。

そもそも憲法第26条では、すべての国民がその能力に応じて、等しく教育を受けられる権利が定められています。この権利を保障するために、教育基本法をはじめとした義務教育に関するさまざまな法律が整備されているのです。

しかし、教育機会確保法が制定される前年度の2015年度には、義務教育段階の不登校の子どもの数は12万6000人ほどいるとされ、2012年度から3年連続の増加となりました(参照:平成27年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果 p.62|文部科学省)。

また、戦後の混乱期のなかで、生活困窮などの理由から昼間に就労または家事手伝いなどを余儀なくされた人や外国籍の人など、義務教育未修了者も以前から一定数存在しています。
このように、従来の法整備では十分に教育機会が確保されているとはいえない状況に対応するため、2016年に教育機会確保法が制定されました。

3.教育機会確保法の五つの基本理念

教育機会確保法の第3条では五つの理念が掲げられています。それを受けて基本方針では、教育機会確保のためのさまざまな施策を推進しています。

ここでは、教育機会確保法の基本理念を紹介するとともに、基本方針で定める各理念にもとづいた具体的な施策についても解説します。

なお、以下に出てくる「不登校の子ども」は、原則として教育機会確保法で定義されている「不登校児童生徒」の意味で用いています。

不登校児童生徒 相当の期間学校を欠席する児童生徒であって、学校における集団の生活に関する心理的な負担その他の事由のために就学が困難である状況として文部科学大臣が定める状況にあると認められるものをいう。教育機会確保法 第2条3号|e-Gov法令検索

(1)すべての子どもが安心して教育を受けられる学校環境の確保

一つ目の理念には「全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保が図られるようにすること」が挙げられています(参照:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針 p.1|文部科学省)。

不登校かどうかにかかわらず、「全ての」児童生徒が豊かな学校生活を送ること、そして安心して教育を受けられるような学校環境を確保することがうたわれています。

基本方針では、この理念にもとづく施策として、魅力あるよりよい学校づくりおよびいじめ・暴力行為・体罰などを許さない学校づくりが挙げられています。

また、学業の不振が不登校のきっかけとなる場合もあり、子どもの学習状況に応じた指導や配慮も必要であるとされています。 

(2)不登校の子どもそれぞれの状況に応じた支援

次に「不登校児童が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること」が理念として挙げられています(参照:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針 p.2|文部科学省)。

不登校は、その要因や背景が多様かつ複雑であることから、学校や教育委員会による状況把握が必要とされます。また、不登校の子どもに対しては、学校全体での支援・福祉や医療および民間団体などの関係機関との情報共有、学校間の引継ぎなどの、継続的かつ組織的・計画的な支援を推進しています。

基本方針では、不登校の子どもに対して多様で適切な教育機会を確保するための施策についても定められています。

具体的には、不登校特例校や教育支援センターの設置の促進のほか、教育委員会や学校とフリースクール※などの民間の団体の連携による支援が挙げられています。(※フリースクールとは、不登校の子どもに対して学習活動や体験活動などをおこなっている民間の施設のこと)

また、家庭で多くの時間を過ごしている不登校の子どもに対して、ICTなどを通じた支援や家庭訪問による支援を充実させることも基本方針にて挙げられています。

(3)不登校の子どもが安心して十分に教育を受けられる学校環境の整備

三つ目の理念として「不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境の整備が図られるようにすること」が挙げられています(参照:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針 p.2|文部科学省)。

不登校の子どもが自らの意思で登校してきた場合は、温かい雰囲気で迎え入れられるよう配慮するようにと基本方針にて示されています。また、保健室・相談室・学校図書館なども活用しつつ、安心して学校生活を送れるように子どもそれぞれの状況に応じた支援が推進されています。

(4)年齢・国籍を問わず能力に応じた教育の確保

四つ目の理念として「義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること」を掲げています(参照:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針 p.2|文部科学省)。

この理念にもとづいて、夜間中学などの設置や多様な生徒の受け入れといった施策が基本方針にて推進されています。

(5)国・地方公共団体・民間団体などの密接な連携

最後に、「国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること」を定めています(参照:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針 p.2|文部科学省)。

基本方針では、これに関連して教育機会の確保などに関する施策を総合的に推進するために必要な施策として、調査研究・国民の理解の増進・人材の確保・教材の提供や、そのほかの学習支援・相談体制の整備を挙げています。

4.教育機会確保法で重要視されているポイント

教育機会確保法では、不登校をどの子どもにも起こり得るものとして捉え、不登校が問題行動であると受け取られないよう配慮することとしています(参照:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針 p.2|文部科学省)。そして、子どもの最善の利益を最優先に支援することを改めて確認しているところは大切な視点です。

また、教育機会確保法は不登校の子どもの支援に際して、登校という結果のみを目標にするのではなく、子どもが自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを重視しています。

つまり、不登校の子どもに対して、学校以外にも居場所を広げると同時に、「安心感、充実感が得られる活動の場」となるような学校づくりを推進していくことが求められているといえます。また、基本方針では「ICTを活用した学習支援」にも言及されている点が重要だといえます(参照:田中博之 編著『図解でマスター!実践教育法規2023年度版』p.16、17 小学館 2023年)。

5.教育機会確保法の現状と課題

教育機会の確保に向けて2017年に法律が施行されましたが、不登校の子どもの数は減少するどころか増加の一途をたどっています。そのほかにも教育機会が十分に確保されているとはいえない現状があり、さらなる課題も見えてきました。

文部科学省がおこなった「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査 p.66」によれば、小・中学校における不登校の子どもの数は24万4940人となり、その数は9年連続で増加しています。上述した2015年度の不登校の子どもの人数12万6000人と比べて倍になっています。この結果から、すべての子どもにとって安心して教育を受けられる学校環境が未だ十分に確保されていないことがわかります。

また、教育機会確保法で推進されている不登校特例校については、法律の施行後新たに設置されたのは2校のみで、全国でも12校にとどまっているのが現状です。このことから、不登校の子どもの受け入れが十分にできていない恐れがあります。一方、不登校の子どもの学び直しの場となることが期待されている夜間中学の新設は2校あり、全部で33校になりました。しかし、不登校の子どもの数が増加していることを考えると、やはり受け皿としては足りていないことがうかがえます。

そのほかにも、フリースクールなどの民間施設は子どもの居場所として昨今注目されていますが、運営形態もさまざまで、教育の質が一定の水準を満たしていない施設があることが問題視されています。また、自治体とフリースクールの連携が十分にとれていないことも課題の一つです(参照:義務教育段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律の施行状況に関する議論のとりまとめ|文部科学省、弁護士石坂浩・弁護士鬼澤秀昌 編著『【改訂版】実践事例からみるスクールロイヤーの実務』p.293~295 2023年)。

6.教育機会確保法に則り不登校支援をおこなった場合の出欠扱い