まとめ
  • 伊豆シャボテン動物公園では6頭のミナミコアリクイの人工哺育に成功している
  • ミナミコアリクイにはベストのような模様がある個体とない個体がいる
  • ミナミコアリクイには歯がない
  • ミナミコアリクイは噴気音で感情を表現する
  • ミナミコアリクイは30cmもある舌を持っている

ミナミコアリクイという動物を知っていますか?

かわいい威嚇ポーズで有名になったアリクイの動画や画像を見たことがある人も多いかもしれません。

今回はアリクイの中でも、ミナミコアリクイについて、伊豆シャボテン動物公園のミナミコアリクイの飼育を担当する滝口さんに聞いてみました。

のんびりしているイメージですが、実は“人間みたい”な一面も見せてくれるミナミコアリクイに密着です!

伊豆シャボテン動物公園のミナミコアリクイ4兄弟

伊豆シャボテン動物公園は2019年から現在までに6頭のミナミコアリクイの出産と、人工哺育を行なってきました。

4頭のオスと2頭のメスが伊豆シャボテン動物公園で産まれています。2頭のメスのアンとツムはお嫁に行ったそうで、現在は4頭の兄弟と父親と母親の6頭が生活しています。

6頭家族のミナミコアリクイを紹介

長男:コン

6頭について、滝口さんに話してもらいました。

「家族の大黒柱はお父さんのドン。そのドンのことが大好きなお母さんのココアが夫婦です。

そして兄妹には厳しいけど大好きな飼育員には甘えん坊な長男のコン、体は1番小さいけれど常にやんちゃな次男のトト、おっとりマイペースな三男のケイ、1番体が大きいわりに動きがすばしっこい四男のイクの4兄弟です。

そして2022年2月22日に生まれたのが、末っ子でまったり自分のペースを乱されたくない次女のツムです。ツムは先日ほかの動物園にお嫁に行きました。

なので現在はドンとココアと4兄弟で仲良く暮らしています」

生まれて1年そこそこでお嫁に行ってしまうのはなんだか寂しい気もしますが……。

「ミナミコアリクイには体に白黒のベストのような柄がある子とない子がいるんですが、ある子のほうが珍しいんです。特に女の子でベストのある子は数がとても少なくて。すぐお嫁に行っちゃうんですよ」

そんな事情があるんですね!毛並みの美しいミナミコアリクイの女の子はモテるようです。

ミナミコアリクイってどんな動物?

次男:トト

ミナミコアリクイは南アメリカの北部から東部の森の中や草原に暮らしている有毛目の動物。有毛目の仲間はアリクイのほかにナマケモノがいます。

ミナミコアリクイは歯がないことが特徴で、以前は貧歯目という仲間に分類されていました。歯がないため、固いものや大きなものは食べられません。

前脚には爪が4本、後脚には5本の丈夫な爪があります。野生下ではこの爪でアリの巣を壊してアリを食べます。

寿命は飼育下でおおよそ8〜10年といわれており、成獣の体重は5〜7kgほど。大きいものだと8kgを超えることもあるそうです。

アリクイって本当にアリだけを食べているの?

「ミナミコアリクイは野生では持ち前の強靭な爪を使い蟻塚と呼ばれるアリの巣を壊して長い舌でアリを舐めとって食べています。

伊豆シャボテン動物公園のミナミコアリクイは主食として、果物・野菜・ヨーグルト・ハチミツなどをミキサーで混ぜてスムージーにして与えていますが、そのままフルーツを与えることもあります。

個体によって好みがありますが、ゼリー・果汁・ミルクなどの飲めるものや、アボカドや馬の肉なども小さめに切ると喜んで食べてくれます」

ちなみにどの子が何を好きというような好みははっきりあるんでしょうか?

「そうですね。お母さんのココアは馬の肉が大好きだったり、コンとケイはゼリーが好きだったりと、好みははっきりありますね。トトはアボカドが好きで、ケイとイクはミルクが好きで、それぞれ好きなものをあげると喜んでくれます」

ミナミコアリクイの好物がゼリーなんてちょっと意外でした。飼育スタッフならではの情報ありがとうございます!

生まれた時から尻尾の長いミナミコアリクイの赤ちゃん

2019年から現在までに6頭のミナミコアリクイの出産と人工哺育を経験してきた伊豆シャボテン動物公園。ミナミコアリクイの赤ちゃんについても聞いてみました。

「ミナミコアリクイは基本的には1産1子ですが、まれに双子が生まれてくることもあります。

うっすら産毛が生えていて宇宙人のような顔に長い舌、赤ちゃんですが既に爪は立派です。すぐにお母さんにしがみつかなければならないので力も強いです。ぽんぽこなお腹と長い尻尾を持って生まれてきます

これはなかなかみられないシーンですよね。飼育スタッフならではの経験でしょう。

赤ちゃんを人工哺育している時に1番大変だったことは?

6頭ものミナミコアリクイの赤ちゃんを人工哺育してきた滝口さんだから話せる、ミナミコアリクイの赤ちゃんの人工哺育についてもお話を聞いてみました。

「最初に人工哺育を始めたのは、ココアに育児経験がなかったため、ココア自身がどう赤ちゃんを世話をしていいのかわからず、世話をしたがらなかったことが1番大きな要因でした。

現在では6頭産んで、年齢も高くなってきていますので、母乳の出もよくないこともあり、人工哺育を続けています。

でも、母性は忘れてほしくないので、顔合わせなどはまめにするようにしていますね」

6頭もの子を持つ母も、最初の育児はわからないことだらけで戸惑ったのでしょうね。今では仲良し家族の立派なお母さんです。

では、実際に人工哺育に切り替えてから、どんなことに苦労しましたか?

「ミナミコアリクイは代謝がいい動物ではありませんので、便秘にも苦労しました。何より、完全な人工哺育をした例がほとんどなかったので、何から何まで手探りだったことが大変でしたね。

どのミルクを使ったらいいか、授乳間隔はどのくらいなのかなど、基本的なことから手探りな状態。

離乳食には柑橘系の果汁を使うとよく飲んでくれたり、試行錯誤をして現在に至ります」

たしかに、アリクイ用ミルクなんて販売されてないですよね……。

試行錯誤の結果、今の哺育方法が確立されたということなんですね。

ちなみに柑橘系の果汁は、アリの蟻酸の酸味に味が似ているせいか、ミナミコアリクイの赤ちゃんがよく飲んでくれるのだそうです。

アリクイと人はどのくらい仲良くなれる?

あまり身近な動物ではないので、ミナミコアリクイは人にどう接してくれるのか、気になるところです。日頃からミナミコアリクイと接している滝口さんに対して、ミナミコアリクイはどんな姿を見せてくれているのでしょうか?

「実際には、だんだん慣れてくれるという表現が正しいと思います。

ミナミコアリクイは頭がいいので担当でも好きな人嫌いな人で反応が違います。

ミナミコアリクイは声は出さないんですが「ゴーッ!」っていう噴気音(鼻息)を出すんです。好きじゃない人には噴気音で攻撃してきたりしますよ」

嫌われちゃうと「ゴーッ」って言われちゃうんですね……。

日頃のミナミコアリクイの姿が垣間見える気がします。

「動物園ではいい所を多く見せているので、印象は『かわいい』だけになるかもしれません。

でもその動物の生態などを知って、かわいい以外にも危険な部分があったり、本来は野生動物であることを知っていただきたいですね」

ちょっとまじめな面持ちで、滝口さんは話してくれました。

可愛すぎる!ミナミコアリクイの威嚇のポーズ

アリクイの威嚇ポーズを知っていますか?

両手を広げて仁王立ちする姿は、威嚇というよりも「ハグしたいの?」というくらいかわいくて愛らしいポーズです。

アリクイ本人にとっては真剣なのでしょうけれど、あまりにもかわい過ぎて見ている方は思わず力が抜けてしまうようなそのポーズについて、滝口さんに聞いてみました。

威嚇のポーズはどんな時にみられるの?

このポーズ、どんな時にみられるのでしょうか?

いつみられるのか、どんなタイミングでみられるのか、聞いてみました。

「子どものころは、驚いたり遊びたくてじゃれている時によく見ましたが、大人になってくるとケンカをする前やケンカ中にすることが多くなりましたね。4兄弟が子どもだった時期に比べると大人になってケンカの回数も増えたので、ポーズをみられる機会も増えたと思います」

ケンカが増えるとケガをしたりなど心配になりますが、ケガなどは大丈夫なのでしょうか?

「ヒートアップしなければ、ちょっとしたレスリングをしているみたいで微笑ましい感じなので放っておきます。ヒートアップしそうな場合は見極めも大事なので、様子を見ながら仲裁にはいります。こちらももちろん注意が必要です」

なるほど……。兄弟でもケンカになると激しくなるんですね。ちょっとそれは大変そうです。

三男:ケイ

ミナミコアリクイのなかなかみられない「レア仕草」とは?

実際にミナミコアリクイを見る際に気をつけで見たい、なかなかみられない「レア仕草」について聞いてみました。

「アリクイといえば長い舌です。ミナミコアリクイは約30cmの舌を持っているので、あくびをするタイミングをみられるとレアな場面かもしれません」

アリクイは長い舌を持っていることはなんとなく知っていても、その舌を実際に見ることはなかなかないですよね。ミナミコアリクイのあくび、ぜひ見てみたいシーンです。

ゼリーが大好きなミナミコアリクイにちょっと親近感

「ミナミコアリクイを飼育してみて、それぞれに性格があって好きな食べ物も違い、個性豊かな動物ということが分かりました。

まだまだ知らないところが動物たちにはあるので、動物に興味がない方にも、いろんなことを知っていただきたいです」

滝口さんは最後にそう話してくれました。

滝口さんにお話を聞いて、嫌いな人には噴気音で感情を伝えてきたり、ゼリーが大好きだったり、ちょっと人間みたいなミナミコアリクイに親近感を感じました。

どこかで姿をみることがあったら、個性豊かでどこか人間っぽいミナミコアリクイの一面を探してみるのも楽しそうですね。

 

◆今回インタビューに答えてくれたのは

ミナミコアリクイの飼育スタッフ 滝口さん

ミナミコアリクイの飼育担当になって7年。最初にミナミコアリクイの人工哺育に成功した際にも、哺育に携わってミナミコアリクイの人工哺育を成功させたスタッフのひとり。「最初の人工哺育の際にはいろいろな試行錯誤があったんです」と楽しそうに話すベテラン飼育スタッフ。

伊豆シャボテン動物公園

園内には放し飼いにされている動物が多数いて、30ヶ所以上で動物にエサやり体験ができる来園者参加型の動物公園。1500種類以上のシャボテンを展示している国内でも有数の植物園でもある。

所在地静岡県伊東市富戸1317-13

料金

大人・平日(中学生以上)2,700円 土日祝および繁忙期 2,800円

小学生・平日 1,300円 土日祝および繁忙期 1,400円

幼児・平日 700円 土日祝および繁忙期 700円

営業時間:9:30〜17:00 ※季節により変動あり

 

伊豆シャボテン動物公園で大人気のカピバラについてもお聞きしています!あわせてチェックしてみてください。

【あわせて読む】

カピバラののんびりした外見に隠された“意外な一面”とは!?【飼育スタッフの内緒話】