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キリンジ

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セルフ・プロデュース、カヴァー、短期間でのレコーディング――キリンジの維新作『OMNIBUS』


 それにしても“陽の当たる大通り”(ピチカート・ファイヴのカヴァー盤に収録)にはほとほと鳥肌を立たされたものだ。ピアノと声のみでモノラル録音されたこのシンプルなトラックは、キリンジという音楽者(おんがくもの)の特異性が十分に匂い立つ、カヴァー以上のなにかであった。そしてリミックス集第2弾『RMX II』とはっぴいえんどのトリビュート盤(“夏なんです”で参加)――今年のキリンジはそういうことか!と思い至って約半年、このたびのアルバム『OMNIBUS』は想像以上のイレギュラーな作品であった。なにしろ(セルフも含めて)カヴァー曲が数曲収録されているうえに、匠の技をキリンジ・サウンドに注入してきた3人目のメンバーともいえるプロデューサー、冨田恵一が不在なのだから。

「冨田さんなしでお互い自分たちでやってみて、発見はあった。リラックスしたいい雰囲気だったら、多少うつな演奏でもそのまま使っちゃうとか、そういうのがいままではなかったんで。それでいて、これまでのようなポップスをちゃんと作り上げていくと、またおもろいかなという気がしてて。そういう意味では作り終わったあとに〈これからの期待〉がありましたね」(堀込泰行)。

「『Fine』(2001年リリース。力作&良作!!)の次を作んなきゃいけないっていう感じではないですね。別のベクトルに向いてるかな、気持ち的には」(堀込高樹)。

 そう語るように、これからも更新されるキリンジのディスコグラフィーの充実を、より鮮明に期待させるこの作品。言ってみれば彼らがこれまで使ったことのない筋肉で作り上げたようなアルバムだからこそ、いままで表立っては見えなかったキリンジ特有のチャームが、そこかしこで発見できるのだ。たとえば、これまで以上に聴ける、高樹ヴォーカルのムーディーな響きときたら!!

「〈企画〉っぽい側面があるから歌ったっていうのもありましたけどね。オリジナル・アルバムとして、という感じじゃなくて」(高樹)。

「体が大きいから、単純によく鳴るというかね(笑)……楽器として考えたときに。音色としてすごくいいなと思います」(泰行)。

 ほかにも、埃っぽいバンド・サウンドをイキイキと揺らす泰行独特の肉体性がふんだんに聴けるのも嬉しいこの作品は、入念に構築されたこれまでのアルバムとはまた違ったチャーミングさに溢れている。それこそ、カヴァー曲中心に構成されていながらも、なにかと寵愛を受けるビートルズ『For Sale』のように!

▼ キリンジの関連盤を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年11月28日 10:00

更新: 2003年02月07日 15:17

ソース: 『bounce』 238号(2002/11/25)

文/フミ・ヤマウチ