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インタビュー

NICO Touches the Walls 『オーロラ』

nico_特集カバー

 

空から大地へ――壮大なスケールで描き出されるサウンドスケープのなかで、力強く脈打つ生命の鼓動。〈いまを輝かせよう〉という意志を〈意味のある音〉だけで体現したというNICO Touches the Wallsのニュー・アルバム『オーロラ』について、4人に話を訊いた。

 

テーマがハッキリしたものを作ろうと

――リリースが11月25日で〈いいニコの日〉。うまいこと考えましたね。

光村龍哉(ヴォーカル/ギター)「ツアーの前ならいつでも良かったんですけど。スタッフから〈こんな日がある〉と聞いて、〈絶対出そう!〉と(笑)」

――中身もとても濃いです。前作のファースト・アルバム『Who are you?』とはかなり違って、ひとつのコンセプトでまとまった作品という感じが強くします。

光村「やっと、ちゃんと〈アルバム〉を作ったなと思います。ファーストは、結成の時からの古い曲もいっぱいあったし、そこまでの総決算みたいな作品だったので。その次は、きちんとテーマを持った作品を作りたいという気持ちがありましたからね」

――メンバーそれぞれ、アルバムが完成した時の手応えは?

古村大介(ギター)「すごい達成感というか充実感というか、ひとつ形に残せたという実感はあります。少なからず新しいことにも挑戦していて、難しいこともあったけど、いい作品にしたいという気持ちが12曲すべてに込められたと思います」

対馬祥太郎(ドラムス)「今年1年やってきたことが実って、本当に良かったです。自信はあったし、いい流れに乗って、イケイケで作れました。〈4人でこれを作ったんだ〉という実感がすごく強いですね」

坂倉心悟(ベース)「本当に達成感がありますね。今年はこのアルバムを作ることに賭けてきたので、自分が聴きたいアルバムが出来たことがすごくうれしいです。いろんな人に聴いてほしいですね」

光村「自分たちらしい作品がやっとできました。バンドを組んだ当初は、〈自分たちはどういうふうに受け入れられるんだろう?〉って窺いながらライヴをやっていたこともあったけど、去年アルバムを作ってツアーをやって、バンドとして受け入れられたという実感があったので、その次の作品を作るにあたって、曲が認められる作品を作りたいというテーマがあって。より自分たちの持ち味や、聴いてきた音楽や、やりたい音楽を惜しげもなく出せたなって、出来上がって聴いても感じますね。そういう状況にいられる喜びもすごく感じます」

――曲作りは、前のアルバムが終わってから始めたんですか。

光村「前作を作ってる途中から、〈次はテーマのハッキリしたものを作りたい〉という気持ちはあって、ツアー中もそういう気持ちでずっと沸々としていて。ツアーが終わって4日でスタジオに入りましたからね。その時にはもう、このアルバムの曲も何曲かやってました。それにしては、出来上がるまで時間がかかったなという気もしますけど(笑)。10か月ぐらいレコーディングしてましたからね。ただ、出来た曲をどんどん出すよりも、アルバムとして納得のいく作品を作りたいという気持ちが強かったので、迷いはなかったです」

 

空から始まって大地に降り立つイメージ

 

――訊きたいことがたくさんあるんですけど、まずは歌詞のテーマとして、今回は〈夢〉というキーワードを軸に、〈命〉〈生と死〉というものを深く掘り下げていると思ったんですね。こういうテーマは、最初から考えていたんですか。

光村「最初は無意識でしたね。もともと歌詞があった曲をみんなでアレンジしたのと、歌詞を後で書いた曲と半々ぐらいで、行ったり来たりしながら作っていたので。そのなかでだんだん、日常生活の一部を切り取るというよりは、〈命〉や〈生と死〉や〈夢〉や、そういうものを大きな視点で書こうという考えが、自然に出てきましたね。〈同じテーマで書き続けてるな〉ということには、書き終わってから気付きました。そういう意味では、いまの自分たちの気分だとか、ずっと思い続けてきたことが、より自分のなかにきちんと根付いたんだろうなと思うんですけどね」

――そういうことは、メンバーとも話すんですか。

光村「歌詞については、一切何も言いません。でも今回は、みんなで同じ気分になってやれていたし、歌詞とそれぞれのアレンジとの相乗効果を求めていたというのはあったと思います」

坂倉「歌詞の世界観は、曲を作っていくうえで頭の片隅にはずっとありました。曲全体でその世界を表現していきたいというのは今年のテーマでもあったし、すごく大事にしてましたね」

古村「特に今回のアルバムは、言葉とメロディーを大事にしていて、必然的にそれを前提にしたアレンジになっていって。全部が関係しているということをすごく実感しました。歌詞もメロディーもみんなの楽器も、今回はすごくいっぱい聴いたなという感じです」

対馬「基本的に歌詞は、みっちゃん(光村)が思うがままに書けばいいと思っているので。でも今回はみんなが見てるものがいっしょだったから、〈僕たちの歌です〉という気持ちが僕のなかではすごく強いんですよ。言い換えると(曲に対する)〈愛情〉だと思うんですけど、〈これ、いいだろ?〉って言いたい気持ちになれる歌詞ですね」

 

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――アルバム・タイトルが『オーロラ』で、1曲目も“Aurora”。この曲がアルバムの鍵になっているようですね。

光村「“ビッグフット”“ホログラム”“かけら-総べての想いたちへ-”と、アルバムの前にシングルになった曲を作っている段階で、今年自分がどういう気持ちで音楽を作っているのかが、だんだんわかってきたんですよ。“ホログラム”の録音が終わったあたりで、今回のアルバム・タイトルは『オーロラ』にしようと決めたんですけど、まず“Aurora”という曲があって、歌詞は元々出来ていて。その世界観が、きっと今年のモードのいちばん芯になっている部分なんだな、と思ってこの曲をみんなに聴かせた時に、アルバムの世界観が定まった感じがあったんですね。歌詞もメロディーも、まさしく今年の僕らを言い表してる曲だと思います。さっき坂倉が〈頭の片隅にはずっとあった〉と言ったのも、“Aurora”という曲が持つ〈夢を見よう〉というキーワードだったり、この曲のサウンドが持つ輝いた世界観だったり、そういうものだったと思うので。僕にもそれはあったし、その世界観に呼ばれて“芽”という曲が出来て、そうやって全部が繋がっていったんですよね」

――結果的に、アルバム全体に時間の流れと、意識の流れがあって。

光村「“Aurora” が出来た時に思ったのは、空から始まって大地に降り立つイメージを、アルバムのなかで作りたいということだったんですよね。それが“Aurora”から始まって“トマト”で終わるということでもあるんですけど、実はアルバムの大筋の流れというのは、アタマの3曲で一度集約されているんですよ。 “Aurora”“ホログラム”“芽”の3曲で」

――ああ、なるほど。確かにそうですね。

光村「〈空から大地へ〉というテーマのなかで、今回はどの曲でもどの歌詞でも、自分たちの人間臭い部分を出したかったんですよ。アルバムの最後に“トマト”を選んだのもそういうことで、この曲が切り取っているのは空であり大地であり……という〈景色〉なんですけど、その景色のなかには必ず人間がいるんです。〈人間がその景色を見ている〉ということをどの曲でも大事にしていて、すごく意識しました。実際にアルバムのなかで並べてみるまでは、〈本当に描きたいものを描けるのか?〉って心配だったんですけど。でも1曲1曲きちんと描き切ったからこそ、こういうふうにうまく並べることができたんだなと思います」

――〈限りある命だからこそ根を張っていたい、思い通りの日々を咲かせたい〉という、“芽”で歌われるメッセージは素晴らしいと思います。

光村「やっぱり、常にあるんですね。音楽をやりたいということの裏に〈自分がどういう人生を送りたいのか?〉ということが。メジャー・デビューして少しずつ夢が叶っているところもあるし、だからこそ余計に考えるというか、〈一体どこで満足したらいいのか?〉っていう気持ちが常にあるからこそ、歌詞になった時の重さみたいなものが、どの曲にもあるんだと思います。僕はフィクションとして歌詞を書くのが自分のスタイルだと思ってるんですけど、でも今回選んだ歌詞のシーンは、いまの気持ちにすごく近いものを必然的に選んでいて。いま歌うからこそ説得力が生まれるものを作りたかったんですよね。“芽”の歌詞は、ひとつも無駄な言葉を使いたくなかったし、サビで言ってるように〈今を照らしてほしい〉ということですね。この“芽”の歌詞は、いちばん最後に書いたんですよ。今回のアルバムの総括みたいなものが、この曲の歌詞にはあると思います。いまだからこそ貪欲になって、自分が描きたいもの、自分がなりたいものを、ガムシャラに追求していいんじゃないかという思いが、このアルバムではすごく強いです」

 

意味のある音だけを残していった

 

――いきなり歌詞のことばかり訊いちゃいましたけど、ここからはサウンドの話に移ります。プレイヤーとして、今回特に意識したことというと?

古村「景色が見えやすいように、ちょっとしたフレーズや裏でずっと鳴り続けている音とか、そういうものをたくさん入れた感じはありますね。ひと通りベーシックを録ってアレンジをし終わった後に、ここに何をプラスαしたら曲がより良くなるのか、奥行きが出るのか、ヒリヒリするのかとか、そういうことは前作よりたくさん考えました」

――かなり微妙な世界ですよね。正解があるようでないような。

古村「そうですね。イメージはあるんだけど具体的にはどうしたらいいんだろう?って、手探りで考えることも多かったです。わかりやすいもので言うと、“レオ”ですね。あの曲は、僕はほとんどベーシックは弾いてないんですよ。だからスタジオで4人で合わせる時も、僕だけ実感がないみたいな(笑)」

光村「決定的な役割がないことが、決定的な役割だったからね。そのへんは難しかったね、確かに」

古村「“レオ”はレコーディング当日に、テイクを重ねることで完成形が見えてきた曲ですね。ギターなんだけど、ギターの枠を超えたところで、ニュアンスだったり、不確かな部分だったり……うまく説明しづらいんですけど。音の波のような感じですかね。あと、エフェクトの選び方もすごく考えました。“Lonesome Ghost”のギターは、当初はもっときれいに録る予定だったんですけど、フレーズ的にはエレキじゃないと弾けないフレーズをアコースティックで無理矢理弾いて、エフェクトをかけて、違う表現にしたりとか」

光村「きれいに録ったら、曲の淀みがなくなったんですよね。楽器が曲を作るというよりも、曲の持っているイメージやシーンに合わせて楽器を使っていくというのは、この曲ではけっこういろいろやったよね」

坂倉「現場作業の感覚がいちばんあった曲かもしれないですね」

――ドラマーとして、演奏で特に気に入っているとか、聴いてほしいところは?

対馬「全部気に入ってるんですけど、今回の個人的なテーマとして、手癖と戦うということがあって。衝動も大事ですけど、計算されたバランスで曲の雰囲気を作ることはすごく考えたし、楽ではなかったですね。あと、やっぱりビートっていちばん聴こえてくるものだから……例えば“Lonesome Ghost”はいちばんわかりやすいと思うんですけど、バスドラが〈ドンドンドン〉って鳴ればなんとなく〈ラテンだな〉みたいに、曲の方向性を認知させる力がドラムにはあるんですよね。だからこそ、より素直に叩いたというか……手数を増やせばいいというものではないし、かといってシンプルにすればいいというものでもないな、って。そこらへんは感覚としか言いようがないんですけど、頭で考えつつも感覚を大事にして、すべての音を聴きながら、みんなにとっていちばんいいなと思える場所を探りながら叩きました。難しかったですけど、結果的にいいものが出来たので良かったと思ってます」

坂倉「どの曲においても、一個一個の景色とかテーマがみんなのなかでしっかりしていたので、サウンドがその景色をちゃんと描くというか、世界観をより大きなものにするためのオケ作りだったと思います。そのためにベーシストとしては、ベースがどうというよりも、全体の雰囲気をどう支えるか。フルくんのギターとか、景色を作るものをちゃんと支えて、CDとして迫力のあるものにするために、全体をすごく意識しましたね」

光村「坂倉は、けっこう手数が多いんですよ。全部を担当したがるというか、ギターやドラムがいるところにも平気でズケズケ入ってくる感じがあるので(笑)」

坂倉「そうかもしれない(笑)」

光村「〈なぜそうしたのか?〉とか、〈どうしていまそれが必要なのか?〉とか、そういうことを徹底的に詰めたところはありますね。〈やっちゃった〉みたいなところは絶対になくしたかったので。やってて物足りなく思えるかもしれないけど、曲の景色に対してだけきちんとプレイしてほしいし、そのうえで坂倉なりの景色の作り方をしてほしいし。プロデューサーの亀田誠治さんも、日に日に坂倉のベースのメロディックな部分が強くなっていくので、〈気合入ってるな~〉みたいなことを言ってましたけどね(笑)。必ず意味のあるものだけを残すということは、それぞれのパートについてありましたし、バンドとしてそこがいちばん進化したかなと思います」

――ツアーで生で聴くのを楽しみにしてます。特に古村くんのプレイを(笑)。

光村「映像にできないですからね、フルくんのプレイは(笑)」

坂倉「レコーディング中も、〈この音、どうやって出してるんだ?〉というのがけっこうありましたからね」

古村「……がんばります(笑)」

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2009年11月25日 18:00

更新: 2010年02月10日 19:05

インタヴュー・文/宮本英夫

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