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第14回――すかんち

連載
その時 歴史は動いた
公開
2010/06/17   19:54
更新
2010/06/17   19:55
ソース
bounce 321号 (2010年5月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/岡村詩野

 

すかんち_A

いまやすっかりタレントとして活動しているかのように見えるROLLYだが、彼が80年代前半から90年代半ばにかけて組んでいたすかんちは、歌謡グラム・ロックとでもいうような音楽性を確立させた功労者的バンド。もしくは、ロックをお茶の間でわかりやすくデフォルメして提示した立役者でもある。

すかんちは80年代前半、京都生まれのローリー寺西(現在はROLLY、ヴォーカル/ギター)を中心に結成。幾度かのメンバー・チェンジを繰り返した後の90年、ついに彼とshima-chang(ベース)、ドクター田中(ベース)、小畑ポンプ(ドラムス)というラインナップでメジャー・デビューを果たした。パンクを基調としたバンドが席巻していたバンド・ブーム期にあって、すかんちの音楽性はあくまでオールド・スタイルのロックに根差したもの。派手なファッションゆえ当初は何かと色眼鏡で見られていたが、60年代~70年代のブリティッシュ・ロックを知り尽くしたような演奏やパロディーさながらのユーモラスなアレンジはその筋の熱心なリスナーをも魅了した。さらにはデビュー・シングル“恋のT.K.O.”をはじめ、多くの曲に〈恋の~〉とタイトルが付けらていたように、GSを含む歌謡曲へのシンパシーを早くから見せていたのも彼らの特徴。日本人らしい皮膚感覚とメンタリティー(何しろバンド名は、〈ちんかす〉を逆さ読みしたもの!)、洋楽をただ翻訳することを嫌うかのような強気な姿勢でたちまち一大ブームを巻き起こした。“恋のマジックポーション”“恋のミラクルサマー”が人気ヴァラエティー番組のテーマ曲となったのも、デビューからわずか1、2年後のことだ。

そして、そんな独自のセンスがひとつの完成型を見る〈その時〉がやってくる。93年2月1日に発表されたアルバム『OPERA』は、クイーンやレッド・ツェッペリンなどルーツとなる音楽をまるで万華鏡のように入り組ませてひとつのショウに仕立てた一種のサイケデリア的作品だ。曲ごとにキャッチーさを持ち合わせつつ、大いなる野望とドラマティックな妄想によってすかんちがとうとう桃源郷へと辿り着いたような印象を与えてくれた。

結局、バンドは96年に解散。ローリーはソロへと転身し(THE COLLECTORSの加藤ひさしとのユニット=21ST CENTURY STARSでも作品を発表)、他のメンバーは新たなバンドで活動を始めた。しかし2006年と2007年には再結成され、コンプレックスの裏返しとも言える闇雲な華やかさとスター性を纏っていたあの時代のすかんちの魅力を、若い世代にいま一度伝えている。

 

すかんちのその時々

 

すかんち 『CD&DVD THE BEST SCANCH 軌跡の詩』 ソニー

DVD付きの2枚組ベスト。すべてのシングル曲をあえて入れず、そのぶんバンドの持ち味が感じられる壮大なテーマ性を持ったナンバーが満遍なくチョイスされている。“ウルトラロケットマン”の完全版や“うそつき天国”のレアな映像満載のDVDにはこのバンドの毒々しいまでの華やかさがたっぷり。

THE YELLOW MONKEY 『THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE』 コロムビア(1992)

ROLLYと吉井和哉は3歳離れているが、すかんちと2年遅れで発表されたこのメジャー・デビュー作を改めて聴いて、ほとんど同志・従兄弟のような関係にあることに気付かされた。色気、妖艶さでは吉井に軍配が上がりそうだが、同じく歌謡性を重視したグラマラスな演奏が堪能できる。

毛皮のマリーズ 『毛皮のマリーズ』 コロムビア(2010)

歌謡曲へのシンパシーとルーツ・ロックへの真摯なリスペクト、またベースが女性という点からも後継者と言えそう。とはいえ、批評性に富んだ志磨遼平のリリックはガールズ&ボーイズ的な詞世界にはない社会性を帯びたものだし、怪奇系文学とのシンクロもある。ラフなガレージ・パンク風の演奏にはオルタナ通過世代らしさも。

ROLLY 『GOLDEN☆BEST ROLLY』 ソニー

すかんちのデビュー20周年記念で編まれたベスト。すかんち時代の楽曲、新曲を含むROLLY名義のナンバー、本名の寺西一雄名義で発表された“Name of Love”(ROLLYの従兄弟でもある槇原敬之作)まで全17曲、いずれも要所要所に散りばめられたオペラ趣味などニヤリもののアレンジと、泣き笑いのような歌声がユーモアを通り越して物悲しさを醸し出しているのが良い。あくまで道化的な目線で活動するROLLYの真骨頂に気付かされる。