レバノン内戦によって失われた家族を捉えた、「喪失」のポートレイト

誰も座っていない椅子と並んで立っている家族。彼らはシリア内戦からレバノンの難民キャンプへ逃れてきた難民で、空いている椅子には離ればなれになってしまった家族が座るはずだった。写真家ダリオ・ミティディエリが撮影した「喪失」のポートレイトは、わたしたちの知らない世界の姿を教えてくれる。
レバノン内戦によって失われた家族を捉えた、「喪失」のポートレイト

荒れた大地の上に黒幕を張ってつくられた簡易的な撮影セットに、家族とおぼしき人々が立っている写真。人々はカメラをじっと見据えているが、誰も座っていない椅子が置かれていたり、人と人の間にスペースが空けられていたりする。なかにはいくつも椅子が置かれているのに、ひとりしか男性が座っていない写真もある。

写真家ダリオ・ミティディエリの作品『Lost Family Portraits』は、「失われた家族」のポートレイトだ。被写体となっているのは、シリア内戦から逃れてベッカー高原の難民キャンプで過ごす人々。彼らの多くは、さまざまな事情で家族と離ればなれになりながら、この難民キャンプへやってきた。空いている椅子は、離ればなれになった家族のための椅子だ。

この作品は英国の広告代理店M&C Saatchi Londonからの依頼によってつくられたもので、カトリック海外開発機関(CAFOD)への支援を行う募金活動のためのものだったという。「恐ろしいトラウマがあったにもかかわらず、多くの家族が撮影に協力してくれたんです。彼らはわたしたちに『忘れられたくない』と語ってくれました」とミティディエリは語る。

セットの周りに残された「余白」の意味

撮影においては人々の「信頼」が肝心だったとミティディエリは語るが、CAFODのパートナーであるCARITAS Lebanonが撮影に協力してくれたおかげで準備はスムーズに進んだのだという。ミティディエリは椅子やセットを現地に送り、ふたつのキャンプで撮影を行った。

「セットの周りに余白を残すことで、写真がもつ情報量を増やしました。背後にいる人々にはいつもの生活を続けてもらうようお願いしています」。そうミティディエリは語る。撮影セットの背後には難民キャンプの風景が広がっており、彼らが普段生活している場所の様子を伝えてくれる。

シリア内戦による難民は130万人おり、彼らの多くはシリアに戻ることもヨーロッパへ向かうこともできない。被写体となった家族が写真のキャプションに寄せたコメントからは、爆撃や誘拐などさまざまな惨劇によって彼らが引き裂かれてしまったことがわかる。

「写真家はどこにいても、出来事を記録するうえで重要な役割を果たしています。わたしたちは自分たちが見たものを写真を通じて表現する責任があるんです。このプロジェクトでは家族に対する責任も感じていました」とミティディエリは言う。世界にとって写真家が果たせる役割は大きい。ミティディエリは、写真家が「世界の目」なのだと語った。


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TEXT BY WIRED.jp_IS