ドバイで起きた洪水の原因が「人工降雨」ではないと言える理由

ドバイで記録的な大雨が発生して洪水が発生した。人工降雨の手法であるクラウド・シーディング(雲の種まき)が原因とも指摘されているが、“犯人”は別にいると言えるいくつかの理由がある。
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ドバイの豪雨で冠水した道路。2024年4月17日未明に撮影。GIUSEPPE CACACE/Getty Images

ドバイが水に沈んでいる。激しい暴風雨がアラブ首長国連邦(UAE)全土で鉄砲水を引き起こしたのだ。道路沿いに放棄されたクルマや水しぶきを上げながら冠水した滑走路を移動する飛行機など、衝撃的な光景がソーシャルメディア上で広がっている。混雑したドバイ国際空港では何百もの便がキャンセルされており、近隣のオマーンでは少なくとも18人が死亡した。

ニュース報道やソーシャルメディアへの投稿では、非難の矛先がすぐさま人工降雨の手法である「クラウド・シーディング(雲の種まき)」へと向けられた。乾燥地帯にあるUAEでは、上空を通過する雲からより多くの雨をしぼりとろうとする試みが長期にわたり続けられている。流れている雲にパイロットのチームが塩の粒子(雨粒の種)を散布し、水滴の形成を促すのだ。

一部の人々は今回の洪水について、自然に干渉した結果の「訓戒」に位置づけている。ブルームバーグでさえもが、クラウド・シーディングが洪水を悪化させたと報じているのだ。

真実はもっと複雑である。この数カ月間にわたって『WIRED』の特集記事のためにUAEでのクラウド・シーディングを取材してきた。そしてUAEが今週、クラウド・シーディングを実施していたことは事実である。

しかし、クラウド・シーディングは年間300回以上も実施されており、今回それが洪水の原因になったというには無理がある(この記事を公開する準備を米国時間の4月17日午前に進めていたとき、UAEの国立気象センターは16日の嵐が発生する前にはクラウド・シーディングを実施していないとCNBCの取材に説明していた)。

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「クラウド・シーディング犯人説」の真相

それにはいくつかの理由がある。第一に、最も楽観的な評価でさえ、クラウド・シーディングが増やすことのできる降水量は年間で最大25%であるとしている。言い換えれば、いずれにせよ雨は降っていたのだ。

そしてクラウド・シーティングの影響があったのだとすれば、降水量をわずかに増やすだけのことだったであろう。温暖な気候におけるクラウド・シーディングの有効性については、いまだに明らかになっていない。仮に有効だったとしても、何もないところから雨を降らせることはできない。すでに空にあるものを強化することしかできないのだ。

第二に、シーディングの作業はドバイのような人口密集地域から遠く離れた場所、UAEの東部で実施される傾向がある。航空交通規制が主な理由だが、それはつまり嵐がドバイに到着するころには、シーディングで散布された粒子がまだ機能していた可能性が低いことを意味する。

取材した科学者のほとんどは、クラウド・シーディングの影響についてごく小さく局所的なものであり、ほかの地域で洪水を引き起こす可能性は低いと語っている。しかし、クラウド・シーディングが洪水とは関係なかったという何よりの証拠は、雨が降ったのは地域全体だったという事実かもしれない。オマーンではクラウド・シーディングを実施していないにもかかわらず、より深刻な洪水被害を被り、多くの死傷者が出たのだ。

ドバイが試みるべき都市の「スポンジ化」

恐ろしいテクノロジーを非難することを楽しく感じるかもしれない。だが、洪水の本当の原因はもっと平凡なことだろう。ドバイは滑稽なほど降雨への対応能力を欠いているのだ。

この数十年で急激な拡大を遂げたこの都市は、過去には突然の水の流入への対処を助ける雨水排水路のようなインフラにほとんど注意を払ってこなかった。街の大部分がコンクリートとガラスで覆われており、雨水を吸収するための緑地はほとんどない。

その結果、雨が降るたびに混乱が生じる。とはいえ、12時間で1年ぶんの雨が降れば、対処に苦労する都市が大半ではあるだろう。

とはいえ、気候変動も影響を及ぼしている可能性がある。地球の温暖化が進むにつれ、この地域の複雑な気象力学は変化し、より激しい嵐を引き起こす気候へと変わっている可能性があるのだ。

世界中の都市では、雨水を地面に浸透させる“スポンジ力”を強化しようと都市計画者が取り組んでいる。鉄砲水への対処と、1年のうち乾燥する時期に備えた節水を助けるためだ。ドバイはクラウド・シーディングで空をスポンジ化するよりも、都市のスポンジ化を試みるべきなのかもしれない。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による雨の関連記事はこちら


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