米軍、世界に駐留する歴史的な理由 各国の経費負担は?

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 米国のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は今月、在日米軍の駐留経費の大幅負担増を求めていたことが分かりました。背景にはトランプ大統領の「日米同盟は不公平」という根強い考え方があるようです。

 そもそもなぜ、米国は軍を外国に駐留させているのでしょうか。また各国は駐留経費の負担をどのよう受け止めているのでしょうか。米国の安全保障に詳しい笹川平和財団上席研究員の渡部恒雄さんに話を聞きました。

 ――米国防総省の2018米会計年度の「基地構造報告書(Base Structure Report)」によると、米国が海外に展開する基地は45カ国、計514にのぼります。基地の内訳でみると、ドイツが194と最も多く、日本が121、韓国が83と続きます。なぜ米国は世界に兵力を展開しているのでしょうか。

 一言でいうと、米国は第2次世界大戦で欧州戦線と太平洋戦線に参戦し、欧州ではドイツとイタリア、アジアでは日本という枢軸国に対し、イギリスやフランスなどとともに連合国として戦いました。終戦後、ソ連と共産主義陣営の対立による冷戦構造に突入してしまったため、駐留せざるをえなかったのです。

 しかも、大戦で米本土は無傷でしたし、戦時中の工業生産の拡大もあり、軍事力と経済力で圧倒的な強さをみせ、世界の覇権国になりました。

 冷戦中、欧州ではソ連と同盟を結んだポーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、東ドイツなどが加盟するワルシャワ条約機構(WTO)と、米国を中心とする英仏、西ドイツなどの西欧の自由主義陣営とが、イデオロギーと軍事において対立します。欧州に派遣されていた米国軍は、自国に帰還するどころか、旧枢軸国の西ドイツ、イタリアなどに駐留したまま、北大西洋条約機構NATO)により西欧諸国と同盟関係を結び、ソ連を中心とするワルシャワ条約機構軍と対峙(たいじ)することになったのです。

 アジアにおいても、米国と、ソ連及び中華人民共和国との対立が激しくなり、日本を軍事占領していた米軍は、日本と相互安全保障条約を結び、日本の独立後も長期的に駐留する合意をしました。日本にとっても、終戦間際に日ソ不可侵条約を一方的に破棄して日本領だった南樺太や北方領土に侵攻してきたソ連の脅威は深刻であり、米軍の駐留は望むところでした。

 冷戦が終結し、ドイツやイタリアの米軍は縮小が図られたものの、ウクライナ内戦への介入やクリミア半島併合などでロシアへの脅威が改めて認識されたため、欧州に駐留し続けています。アジアでは、孤立した北朝鮮が挑発的な態度を維持したため、冷戦終結による米軍の縮小という現象は起こりませんでした。中国の台頭もあり、在韓米軍、在日米軍の軍事的な存在意義は継続したのです。

 ――米軍の駐留経費の国別負担については、米国防総省の2004年の「同盟国による共同防衛の貢献に関する統計概要(Statistical Compendium on Allied Contributions to the Common Defense)」があります。それによると、日本の負担額44億1100万ドル、米国との負担割合は74・5%。次いでドイツが15億6400万ドル(32・6%)、韓国が8億4300万ドル(40%)と続きます。なぜ日本が突出して高いのでしょうか。

 日本には憲法9条があり、軍事力の行使が限定されているため米国に依存しています。韓国の場合はベトナム戦争にも従軍していますが、日本はそういうことがない分、「片務性の代わりとして負担しましょう、配慮しましょう」という流れの中で負担をしてきました。正しくは「接受国支援(ホスト・ネーション・サポート)」という駐留経費を、「思いやり予算」と呼ぶのも、そのようないきさつがあるからです。また、ほかの国に比べると、日本が経済的に圧倒的に強かったということも理由に挙げられます。

 ――ボルトン氏は、韓国に対しても駐留経費の負担増を求めました。各国はトランプ政権の姿勢をどのように受け止めているのでしょうか。

 ボルトン氏はトランプ氏が言っているから仕方なく言っているだけです。トランプ氏は同盟の歴史や長期的な戦略はわからず、短期的な損得の計算しかできない人です。政権内だけでなく、世界でもそのような人物だと受け止められています。

 だからこそ、マティス前国防長官は初来日の際に、あえて日本を「ほかの国のお手本だ」といってトランプ氏の議論を封じ込めたわけです。しかし、マティス氏が政権を去り、トランプ氏にアドバイスできる人がいなくなって元の状態に戻ってしまったのです。

 負担増についてまじめに反応したり、検討したりしている国はありません。北大西洋条約機構(NATO)の加盟国も、国防費を24年までに国内総生産(GDP)比2%に引き上げることを目標にしていますが、これはオバマ前政権のころから出ていた話であり、NATO側もある程度、やるべきだと思っていることです。

 ――5年間の負担額を定めた協定は21年3月末で期限を迎えるため、来年から日米の駆け引きは本格化します。日本の負担額は16年~20年度の5年間で計9465億円になります。今年5月、河野太郎外相は、ポンペオ国務長官に対し「マッカーサーが決めた枠組みだ。これ以上は(駐留経費は)払えない」と説明していますが、日本は今後、どのような交渉をすべきでしょうか。

 「米国にとって日米同盟は得がありますよね」という確認をきちんとすることが大事だと思います。米国は中国の挑戦を受けているし、北朝鮮に圧力をかけることも米国の安全保障上、必要なわけです。米国自身が相応の負担をすることは当たり前だということも、再認識してもらうことが大切です。(梶原みずほ)(今さら聞けない世界)

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 <訂正して、おわびします>

 ▼2019年8月2日配信の記事「米軍、世界に駐留する歴史的な理由 各国の経費負担は? 今さら聞けない世界」で、最初の段落の「『5倍』の要求をしたともいわれています」と、最後の段落の「すでに7割以上を負担しているにもかかわらず、どうしたら『5倍』などという数字が米国側から出てくるのか。理解できません」の記述を削除します。米国のボルトン大統領補佐官(当時)は昨年7月の訪日時に日本側と会談し、在日米軍駐留経費の大幅な負担増を求める可能性を伝えたものの、その後の取材で、具体的な数値への言及は確認できませんでした。当初の取材が不十分でした。(2020年2月22日)

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