私は変わったのか、変わってしまったのか 松たか子さんの堂々巡り

写真・図版
[PR]

松たか子 彼方のわたし

松たか子さんが撮りおろしの写真とともに、心のうちをつづる連載フォトエッセーです。

 自分が変わった、というのは、自身ではなかなか気づけないものだ。人に指摘されたとしても、それを受け止めて認められなかったり、つくづく「自分」というのはわがままだなぁと思う。

 去年、取材中に、「デビュー30周年を迎えられていかがですか?」と言われて、(うわぁ そうなんだ)とそこで気がついた。こんなとき湧き上がるのが、捻(ひね)くれ者のわたし、である。(いや、待てよ。妊娠中や出産後、活動していない時間もあったよな。コロナ禍だってあったじゃない?んー、でもまぁ、30年経った……、そうか)なんというか、とてもウジウジ、ちまちまと考える。「謙虚になれ、自分!」と叱りたくなる。そして、これらのことを頭の中で一周して、「そうですね。ありがたいことですね」なんて、フツーのことを答える。

 自分がどんな風に、お芝居をやっていくのか、もっと言えば、やっていけるのか。全く先が見えないまま、ただただ舞台に立っていた頃。同時期にいただいた舞台と映像のお仕事で、一方を選んで、もしかしたら何かが変わったのかもしれないあのとき。声が枯れて、(これはお腹〈なか〉が痛いよりも、熱が出るよりも辛いな)と確信したあのとき。ちょっとした怪我(けが)をして、(あ。やっちまった)と思ったが、なんとか最後までやった舞台。出産後、授乳中に出演した舞台もあった。

 振り返ると、(何でできたんだろう。あのとき、どうやっていたんだろう)と思うことがいくつかある。それは、デビュー時からあまり変わらない、私の、「今まで」に対する印象である。色々と振り返ることができるものが30年分。結局それか!?と言われそうだが、「ありがたい」限りである。

 変わった、とすれば。

 子の誕生は大きい。しかし…

この記事は有料記事です。残り546文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

  • commentatorHeader
    長野智子
    (キャスター・ジャーナリスト)
    2024年2月25日11時10分 投稿
    【視点】

    「変わらないということは、変わっているということなんですよ」と以前、生物学者の福岡伸一さんに教えていただいたことがあります。 福岡さんは生命とは何かという思考において、「動的平衡」という概念を提唱しています。生物は大きく変わらないために、

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2024年2月25日10時0分 投稿
    【視点】

    「今まで通りの自分のまま、いかに今の自分であり続け、これからの自分をイメージできるか」。このフレーズ、胸に刺さりました。とりわけ、「いかに今の自分であり続けるか」って一節が。果たして、今の自分って、何なのだろうかと。 松たか子さん、お子さ

    …続きを読む