老後の一人暮らし、生活はどうする? 介護や孤独のリスクに備える方法を解説
人生100年時代を生きるキーワード:老後の一人暮らし
老後を1人で迎えることに不安を感じていませんか? 老後を1人で過ごす人々は近年増加傾向にあり、誰にとっても他人事(ひとごと)ではない問題となっています。
今回は、実際に筆者がカウンセラーとして高齢者の方の相談に乗ってきた経験も踏まえつつ、老後を幸せに生きるために若いうちから準備しておくべきポイントを解説します。
<目次>
知っておきたい! 老後の一人暮らしの現状
老後に一人暮らしをする高齢者はどのくらいいる?
厚生労働省『2019年国民生活基礎調査の概況』によると、2019年現在、高齢者がいる世帯のうち28.8%が高齢者1人の単独世帯。
高齢者の4人に1人以上が一人暮らしをしており、その数は増加傾向にあります。誰もが「いかに1人で幸せな老後を過ごすか」という問題に向き合う必要があると言えるでしょう。
高齢者(65歳以上)がいる世帯数 | 高齢者単独世帯数 | 高齢者単独世帯割合 | |
2016年 | 24,165 | 6,559 | 27.1% |
2017年 | 23,787 | 6,274 | 26.4% |
2018年 | 24,927 | 6,830 | 27.4% |
2019年 | 25,584 | 7,369 | 28.8% |
※厚生労働省『2019年 国民生活基礎調査の概況』より作成
老後の一人暮らしにおける意識について
老後、一人暮らしをすることに対して不安を抱く人も増えています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが出したリポートによると、40代以上の約8割が、老後の一人暮らしに対して『やや不安』または『大いに不安』と回答。とりわけ、今後老後を迎える40代や50代が、より強い不安を覚えていることがわかります。
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング『平成27年度少子高齢社会等調査検討事業報告書』より作成
不安を感じている内容としては、「病気になったときのこと」「寝たきりや身体が不自由になり、介護が必要になったときのこと」が特に多い結果に。
背景には、40代や50代の方々が、日々親の介護や支援に心を砕いている事実があるのかもしれません。終わりの見えない親の介護。1人で親の介護に向き合う日々の中で「将来いざ自分が老後を迎えたら、誰が自分の介護をしてくれるんだろうか…」と不安になってしまうという声もあります。
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング『平成27年度少子高齢社会等調査検討事業報告書』より作成
カウンセラーとして高齢の親御さんを持つ方のお話をお聴きしている中でも、親の介護を行う中で「話を聴いてほしくても自分の素直な気持ちを打ち明けられる人がいない」と感じる方もたくさんいらっしゃいます。現在抱いている孤独感が、老後の孤独に対する不安を増大させてしまうのかもしれません。
不安でいっぱいの老後の一人暮らし。幸せに暮らすためには、どのような準備をしておくべきでしょうか。ここからは、老後の一人暮らしの実情と今のうちに準備しておくべきことを掘り下げていきます。
老後の一人暮らし、生活費はいくらかかる?
まずは、金銭面に関する現状です。「将来自分にどのような医療・介護が必要になるのかわからない」…という、不確定要素の多い老後だからこそ、実情を把握しておくことが重要となります。
政府の統計をみながら、老後の一人暮らしにかかる生活費についてみていきましょう。
高齢者の一人暮らしにかかる生活費の内訳
総務省が実施する『家計調査』(2021年10月~12月期)によると、65歳以上で一人暮らしの場合にかかる平均的な生活費は月15万1,024円で、その内訳は下記の通りとなっています。
品目 | 出費(円) |
住居費 | 17,927 |
水道光熱費 | 12,953 |
交通・通信費 | 15,395 |
保健医療費 | 9,370 |
食費 | 39,534 |
被服および履物費 | 3,236 |
家具・家事用品費 | 6,608 |
教養娯楽費 | 13,719 |
その他(身の回り用品、たばこ、美容等) | 32,283 |
合計 | 151,024 |
※総務省「家計調査結果」(2021年10~12月期)より作成
一方、生活費に対する所得はどうでしょうか。
厚生労働省『令和元年国民生活基礎調査』によれば、高齢者世帯の平均所得は年間312.6万円。月額になおすと約26万円であることから、前述の平均支出と比較して、十分な所得があるように見えます。
しかし、平均所得は300万円を超えているものの、厚生労働省『令和3年版高齢社会白書』によれば、年間所得150万円~200万円未満の高齢者世帯が最も多いのです。
厚生労働省『令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金と厚生年金を合わせた老齢年金の平均受給額は月14万6,145円であり、年間所得に換算すると約175万円。
年間所得150万円~200万円未満の層が最も多いことを踏まえると、年金を主な収入源としながら生活している世帯が多いことがうかがえます。
国民年金だけの場合は平均支給額が5万6,358円となってしまうこともあり、老後を年金だけで乗り切ることは厳しいと言えるでしょう。娯楽や万一の備えに回すお金がなくなってしまうばかりか、食費なども切り詰める必要が出てくる可能性があります。
老後の人生をより良いものとするためには、老後に自分の地域で暮らしていくための生活費や収入の見込みを整理し、元気なうちから資金計画を立てておくことが必要です。
老後の一人暮らしの家はどうすればよいか
老後の生活を考える際に核となるのが、住居の問題です。
賃貸住宅と持ち家、1人で老後を迎えるにあたって適しているのはどちらなのでしょうか。
それぞれのメリット・デメリットについて、比較してみましょう。
賃貸住宅 | 持ち家 | |
人との交流 (孤独対策) |
×隣人との交流が生まれにくい | 〇庭で道行く人との交流が生まれることもある |
住宅管理・居住のコスト (お金対策) |
〇住宅の修繕を行う必要なし 〇引っ越しすれば居住費を下げられる |
×住宅の修繕に加え、相続も考える必要がある ×居住費を下げられない |
身体的な過ごしやすさ (介護対策) |
〇庭の掃除の手間がない ×介護設備が設置できない場合もある ×階段の上り下りが負担となる |
×庭の掃除の手間がある 〇介護設備の設置やリフォームが自由にできる |
賃貸を選ぶメリットデメリット
賃貸の場合、管理の手間やコストの少なさが主なメリットとなります。
引っ越しが容易にできる点もメリットですが、大きな環境の変化が負担となり心のバランスを崩してしまうこともあるため、注意が必要です。老後に自分の住みたい街に引っ越したものの、環境の変化になじむことができず心の調子を崩してしまう方もいらっしゃいます。たとえ前向きな気持ちで起こす変化だとしても、変化は人間の心にとって負担となってしまうことは心に留めておくべきです。身体が元気で余裕のあるうちに老後の生活プランを立て、自分に合った環境に身を置いておくことが望ましいでしょう。
賃貸の主なデメリットとしては、隣人との関わりが生まれにくい点、自由に介護設備を取り入れられない点が挙げられます。
持ち家のメリットデメリット
持ち家の場合、自由に介護設備を取り入れることができる点が主なメリットとなります。介護が必要になった際、介護保険内で住宅改修費の支給を受けるなどして、自由にリフォームを行うことが可能です。また、賃貸と比べて人との交流が生まれやすい点もメリットとなります。実際に1人で持ち家に暮らす高齢の方で、家の小さな庭でくつろぎながら道行く近所の人たちと話すことを楽しみにしている方がいらっしゃいました。
一方、主なデメリットとしては固定資産税などの面で居住費を下げることが難しいことが挙げられます。
なお、持ち家に住み続けたくても生活費が足りないのであれば、「リバースモーゲージ」と呼ばれる仕組みを利用する方法もあります。これは、持ち家を担保にお金を借り入れ、亡くなった後に持ち家を売り払って借入金を返済するという方法です。
賃貸と持ち家、それぞれにメリット・デメリットがあり、一概にどちらが良いと言い切ることはできません。「親から受け継いだ今の家に住み続けたい」「もう少し落ち着いた場所に引っ越したい」など、自分の素直な気持ちを尊重しながら自分に合った老後の住まいを選択することが大切です。
老後の一人暮らしをする際に三つの準備しておくべきこと
①孤独を感じないためにすること
こころに優しい習慣を持つ
孤独を感じずに過ごすためには趣味を持つことも有効ですが、趣味を持てと言われても難しいと感じる方もいるのではないでしょうか。その場合、習慣を持つことがおすすめです。
例えば、決まった時間に公園に散歩に出かける、行きつけの喫茶店を持つなど、心安らぐことを習慣化してみてはどうでしょうか。外出して自然に触れることで気分転換できるだけでなく、毎日あいさつをする人と出会ったり、生活リズムが整ったりするというメリットもあります。
実際に高齢期を迎えた方の中には、毎週買い物帰りに喫茶店に訪れることを習慣化したことで、いつも顔を合わせる別のお客さんと会話をするようになり、孤独感が軽減したという方もいらっしゃいます。
老齢になっても人とのつながりや健康的な生活リズムを築くことが精神面に良い影響をもたらし、孤独の解消に役立ちます。
人との縁を大切にする
人とのつながりは、心に安らぎをもたらします。外出することが億劫(おっくう)という場合は、オンラインツールを使って人と交流してみてはいかがでしょうか。
人との縁を大切にしておくことが、いつかあなたが困ったときに役立つかもしれません。実際に高齢期にさしかかった人たちの中には、身寄りがいなくても、地域のコミュニティーや趣味のサークルで知り合った人たちに助けられている例がたくさんあります。
心置きなく手助けをお願いできるよう、自分の死後に一定の財産を譲ることを条件に、同じ地域に住む人に送迎などのサポートをお願いしている人もいます。
人とのつながりは、精神面の安定だけでなく、困ったときに助けを受けられるかどうかにも関わる重要なポイントです。
孤独を解消できる民間サービスを見つける
老後に孤独を感じないために、高齢期の孤独を解消する民間サービスに目星をつけておくことも有効です。高齢者を支援するサービスは、介護保険内のサービスだけではなく、介護保険外で家事を代行しながら話し相手になってくれるサービス、訪問美容室など多岐にわたります。
あなたの親のケアをする場面でこういったサービスを利用し、信頼できそうな事業者に目星をつけ、自分が必要になった際にお願いすることも孤独対策として有効です。
②老後の生活費のためにすること
老後どこでどんな生活を送りたいのか考える
今住んでいる地域で暮らし続けるのか? もっと住みやすい地域へ引っ越すのか?
自宅で介護を受けたいのか? 施設で介護を受けたいのか?
まずは老後の生活スタイルを「自分はどうしたいのか」を軸に具体的な計画に落とし込んでみましょう。独身であれば、思い切って地方へ引っ越してみるというのも手です。例えば、定年を機に残りの人生を過ごしたい場所へと移住し、シニア起業を成し遂げる方もいらっしゃいます。
コロナ禍を機に都市部から地方への移住が盛んになりましたが、老後を考えた際にも地方ならではの強みがあります。それは、介護サービスの受けやすさです。東京では2025年度の時点で約3万5,000人の介護人材が不足すると言われています。その点、地方の場合は都市部と比べて人材不足が深刻化しないため、介護サービスを受けやすいと言えるでしょう。
希望する生活を実現するための資金計画を立てる
希望する生活が具体的になったら、実際にその生活を実現するための資金計画を立ててみましょう。まずは上記で紹介した高齢者の平均的な出費や自分が希望する場所の目安家賃をもとに、老後にかかる費用を割り出します。その上で、年金額のシミュレーションなどを用い、年金だけではどのくらいの金額が不足しそうなのかを割り出してみましょう。
計画を立てる際は、100歳まで生きることを目安として計画を立てることをおすすめします。寿命を短く見積もってしまうと貯蓄が足りなくなることにもなりかねず、注意が必要です。
資産運用など、不足する資金を補う手段を考える
計画ができたら、不足する資金をどのように補うのか考えていきましょう。大きく分けて、①若いうちから資金を用意しておく方法、②老後に資金を稼ぐ方法の二つの方法があります。
若いうちから資金を用意する場合、貯蓄の他に、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など資産運用を行う手もあります。初心者の場合、資産運用の無料相談窓口などを検討しながら、まずは信頼できると判断した人に相談してみてはいかがでしょうか。
老後に資金を稼ぐ場合、定年後にシニア向けの求人に応募するほかに、シニア起業をする手もあります。高齢になると身体が衰えてしまいますが、各種相談サービスや家事代行など、経験を生かすことができる分野で就職や起業をしてみても良いでしょう。
③健康リスクのためにすること
自分の住む地域の介護サービスを確認
自分が老後を過ごしたい場所の地域包括支援センターにあらかじめ相談し、老後に利用できる制度の情報収集をしておくことがおすすめです。身体の変化を感じたら、早めに地域包括支援センターに相談に行きましょう。
介護認定に至らなかったとしても、各種制度や介護予防プログラム、地域のコミュニティーなどを紹介してもらうことができます。早い段階から介護を意識することで、介護度の進行を遅らせたり、要介護状態になることを予防したりすることが可能になります。
かかりつけ医を持つ
将来的に介護申請をする際、介護認定が下りるかどうかがひとつのハードルとなります。日頃の状態や症状をしっかりと把握している医者の意見書は介護認定の際に役立つため、老後を迎える前にかかりつけ医を見つけておくことが有効です。
成年後見制度の検討
成年後見制度とは、将来認知症などであなたの判断能力が低下した際に、成年後見人があなたに代わって財産管理や介護サービスなどの契約を行う制度です。後見人を誰にするか、どのような内容を委任するかということに関して、判断能力があるうちに決めておくことができます。将来認知症になった場合に財産を守りながら生きる術として、検討しておくと良いでしょう。
(高齢者見守り&人生プラン作成事業運営・西分静香)
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