親と同居…する? しない? 生活費の分け方やメリット・デメリットなどを解説
人生100年時代を生きるキーワード:親と同居
現在日本では高齢化が急速に進んでおり、一人暮らしとなる高齢者も増えています。
子の立場としては「同居するべきか?」と悩む方もいるのではないでしょうか。
しかし、同居することで思わぬトラブルが発生したり、認知症やうつ病のきっかけになったりすることもあるため注意が必要です。
そこで今回は、ケアマネジャーや介護事業経営者として多くの高齢者と関わってきた筆者の知見も踏まえつつ、親と同居するメリットやデメリット、生活費や介護などリアルな現状を含めてさまざまな角度から解説します。
<目次>
一人暮らしをする高齢者が増えてきている?
内閣府が発表した「令和3年版高齢社会白書」によると、2020年の65歳以上の人口は3,619万人となり、日本人の3割近くを占める割合となっています。
団塊の世代が75歳以上を迎える「2025年問題」も間近に迫り、今後2065年までは高齢化率が高まり続け、最終的には人口の4割近くが高齢者になる予想です。
また、地方では地元を離れる若者も多いほか、急速な人口減少により、高齢者を支える現役世代の割合も減り続けるといわれています。
年代別の推移を見ると、1980年と比べて男女とも大幅に増加しているのが分かります。
下記の通り、人口だけではなく、65歳以上のうち一人暮らしをする割合も同じく増加傾向にあります。
筆者はケアマネジャーとして働く中で多くの高齢者と関わってきましたが、その中では子どもの世話になるのは申し訳ないと考えている方もおり、生活に多少の不安や不便があっても相談しないことが多いようです。
近年は65歳以上でも元気に仕事をする方も増え、「高齢者」という言葉がふさわしくないといわれることもあります。
しかし、元気な状態がいつまでも続くわけではありません。
加齢とともにあらゆるリスクが高まり、何かあれば最終的には子が対応しなければならないため、事前に対策を考えておくことが大切です。
「まだ大丈夫」という考えは「まさか」につながります。後悔しないためにどうすべきか早めに考えておきましょう。
親と同居する理由
一人暮らしの高齢者が増える一方で、親との同居を考える方もいます。
理由としては、脳卒中やけが、認知症など老後が心配という方や、親が病気をしたことがきっかけというケースも多くあります。
実際に、親が脳卒中で倒れたことで同居を決めたという話や、何かあったときに対応できないから実家に戻ったという話はよく耳にします。
一般的には、ライフステージの変化によって、子育てが落ち着いた時期などに同居を考えやすいようです。親の年齢としても、心配になる時期と重なることが要因でもあるでしょう。
また、親と同居することで家賃や生活費が節約できる点も理由に挙げられます。
特に近年は新型コロナウイルスの影響で収入が減る方もおり、将来の資金などを考えて同居を決めるケースが増えているようです。
1.親と同居する際の世帯主や生活費、住民税はどうする?
世帯主には明確な規定はありませんが、収入の多さで決めるのが一般的です。
しかし、同居して介護保険サービスを利用する際は、世帯主を別々にする「世帯分離」を行った方がよい場合もあります。
介護保険のサービスとして「高額介護サービス費支給制度」というものがあり、世帯収入に応じた限度額を超えた費用については、払い戻しを受けることができます。
この上限額は収入が少ない方が低く設定されているため、親の収入が低い状態で介護保険サービスを多用する場合は、世帯主を分けた方が得する可能性があるのです。
ただし、市町村によっては世帯分離を認めない場合もあるため、確認するようにしましょう。子が世帯主となって親を扶養する方が得になる場合もあるため、総合的に考えて判断することが大切です。
次に、同居スタイルの違いごとに、生活費などの分担についてみていきましょう。
①子世帯に同居する場合
自身の住まいに親を招いて同居するスタイルで、仕事や付き合いなどを変えずに済むため、マイホームを購入している方にも多い選択肢です。
一般的には親が子に生活費の一部を渡し、病院代や介護費用などは親自身で支払うことが多いでしょう。
総務省によると、平均的な65歳以上の単身無職世帯の食費は36,581円、光熱費水道代は12,957円、合計49,538円になります。
親の経済状況や健康状態、自身の生活状況などと照らし合わせて考える必要はありますが、5万円前後を支払ってもらえば同居しても家計を十分補える、という目安にはなるでしょう。
実例として
● 親からは固定の生活費をもらわず、外食時や買い物時に支払いを頼む
● 親に家事全般を頼む代わり、もらう生活費は1万円だけにする
といった形があります。
参考:総務省統計局「家計調査報告」2020年(令和2年)
国税庁「扶養控除」
福岡市「高齢者または高齢者を扶養している人が受ける所得控除など」
②親世帯に同居する場合
親世帯に同居する場合は、一般的に子の側から生活費を支払います。
総務省による単身世帯の平均的な消費支出としては、食費41,373円、光熱費水道代11,687円、合計53,060円でこちらの場合も1人5万円前後渡せば問題ないでしょう。
例としては、
● 食事などは各自で支払い準備し、光熱費や家賃などを折半
● 子がすべての費用を支払い、親が食事も含めて家事全般を担当
● 親が子に通帳を預けてすべての管理を任せる
といったパターンがあります。
親と同居する場合、子と同居する場合、いずれの場合にしても、お互いが納得できる形とするのが一番です。
また、どちらに同居する場合でも、親を扶養することで住民税の控除が受けられます。
親が70歳未満では33万円、70歳以上で別に暮らすと38万円、同居だと45万円の控除があるため経済的な負担も軽くなるでしょう。
さらに所得税も58万円の控除が受けられるため、節税という点では70歳を節目に同居を考えてもよいかもしれません。
扶養は、生計を一にして、親の前年所得が48万円以下(給与所得のみであれば103万円以下)などの条件を満たす必要があります。
2.親と同居を検討する前に…同居のメリット・デメリット
ここからは、親と同居することで得られるメリットと、反対に気をつけるべきデメリットについて紹介します。
①同居のメリット
(1)家事を役割分担できる
掃除や洗濯、食事の準備に後片付け、毎日の生活には必要不可欠だからこそ、分担できると楽になるのが家事です。
自身が忙しくて手が回らないとき、部屋が片付いてきれいな状態になっていれば大助かりでしょう。
また、親が料理をしてくれる場合、外食や弁当がメインの人は健康的な食生活が送れるというメリットもあります。
反対に、親にとっても体に負担のかかる作業は任せられるため危険性も減って安心です。
(2)親の健康状態の把握ができる
高齢になるほど病気やけがのリスクが高まるため、日常的に状態を把握しておくことは大切です。
実際にあった例として、親(70代)と同居を始め、しばらくして認知症を発症したというケースがあります。
早期発見できたことで治療や資産管理などもスムーズに行え、同居していてよかったといわれていました。
ほかにも、心配事が増えた親(70代)と同居を決めたところ、無気力な様子に違和感を覚えて病院を受診してもらい、老人性のうつ病が発覚したというケースもあります。
最近では70代でも元気な方が多くいますが、実際には心身ともにさまざまなリスクがあるのです。
不調の早期発見ができると治療も早まり元気に過ごせる健康寿命も延びます。
(3)生活費の折半や扶養控除などで家計が楽に
同居することで食費や光熱費、家賃を折半できるなど金銭的なメリットもあります。
扶養が認められれば所得税や住民税の控除が受けられ、会社によって手当が支給されることもあるでしょう。
将来の資金形成のためにも同居する意味は大きいです。
また、近年は高齢者を狙う詐欺も横行しているため、同居によって被害を食い止めることができます。
リフォーム業者を装った詐欺も多発しており、一人暮らしの高齢者が屋根の修繕などで法外な金額が請求されるケースもありました。
②同居のデメリット
(1)親との間で生まれるストレス
親子とはいえ、生活上のさまざまな習慣が異なることがあります。小さな違いが積み重なることで大きなストレスを感じることもあるでしょう。
近い関係だからこそお互いに我慢ができなくなるという側面もあります。
就寝や起床、食事や入浴の時間など、生活リズムのほとんどが異なるというのも珍しくありません。
また、親が子を心配するというのは年齢に関係なく、ときにはおせっかいに感じることもあるでしょう。
実際に、90代の方が息子や娘の生活を心配し、80代の方が子どもの老後や収入を心配する話などよく耳にします。
ほかにも、分担するつもりだった家事がうまくいかず、自身の負担だけが増えるということもあるようです。
(2)介護負担で自身の生活が苦しくなる
病気やけがによって介護が必要になると生活は一気に変わります。
働きながら親の分の家事をこなしつつ、トイレやお風呂の介護をするというのは、心身ともに大きな負担になるでしょう。
通院や入院の対応、状態によっては夜中も起きて介助など、多くの時間が介護に費やされることもあります。
仕事を休む必要があれば収入も減り、経済的にも生活は苦しくなるかもしれません。
「介護うつ」という言葉があるほど介護者の心身の負担は大きいものです。
(3)親の精神的負担や認知症を発症する原因にもなる
実は環境の変化は精神的な負担が大きく、認知症の発症や悪化の要因のひとつとして考えられています。
そのため、特に親が子の世帯に引っ越す際は注意が必要です。地方から都心部など、変化が大きいほどにストレスも増えやすくなります。
また、今までの交友関係や地域との関わりもなくなるため、孤立状態となりやすいです。
外との関わりを喪失し、社会的な役割が失われるほどに老人性のうつ病を引き起こしやすくなります。
環境の急激な変化は、高齢になるほど影響を受けやすいため注意しなければなりません。
3.親との同居をする際の注意点
同居では金銭面のトラブルが起こりやすいため、生活費の支払いなどお互いが負担する範囲を明確にしておくことが大切です。
生活習慣の違いがあることを認識しつつ、お互いの生活リズムに応じて間取りや導線を工夫し、干渉を減らすのも対策のひとつになります。
また、将来的なこともあらかじめ話し合うことが重要です。
いざというときの入院先の希望や介護が必要になった際の相談先の確認、遺産相続や延命治療についてなど、一緒に前向きな終活に取り組むことをおすすめします。
親子とはいえ、思いや考えは知らないことが多いものです。同居をきっかけに将来を見据えることで、これからの生活を豊かにすることもできるでしょう。
4.同居が難しい場合は「近居」や見守りサービスなども選択肢に
親の状況や関係性、お互いの生活などによっては、必ずしも同居がベストな選択にはならないかもしれません。
それでも、親の健康状態や日常的な安否の確認をしたい場合には、同居ではなく近い距離に住む「近居」がおすすめです。
近居の場合、日常的な健康管理はしやすく、生活による余計なストレスは少ないという特徴があります。
適度な距離感は、お互いの良好な関係性を保つためにも大切です。
また、「自分がやらなければ」と気負いすぎると、負担が増えて自身の生活も不安定になるかもしれません。
無理に同居をするよりも、まずは利用できるサービスはないか考えることも必要です。
介護保険を使わない場合でも地域包括センターや電話相談窓口、親の住む地域の民生委員などに相談は可能で、セキュリティー会社でも見守りサービスなどが展開されています。
緊急性がない場合は、今のうちから週に1回電話するなど連絡を取り合う習慣をつくっておくことも重要です。
健康状態の把握や詐欺被害がないか、どのようなことで困っているかなど、色々と確認できることはあります。
もしも、親が自力で生活できないような状態であれば、介護保険施設や有料老人ホームなどの入所サービスの利用も可能です。
どちらにしても、親が元気なうちに対策を考えることが大事ですので、早めに将来のことを話し合いましょう。
(やまびこ介護事業所取締役・大久保圭祐)
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