遺族厚生年金は、残された家族の経済的負担を減らすために設けられた年金制度です。しかし、制度が複雑で「よくわからない」「難しい」と敬遠してしまう人は少なくないでしょう。
そこでこの記事では、遺族厚生年金の基本から受給資格、受給金額をわかりやすく解説します。
<目次>
1.遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、厚生年金保険に加入していた人が亡くなったとき、生計を維持されていた人が受け取れる年金です。遺族厚生年金を知るために、まずは遺族年金について知りましょう。
(1)そもそも遺族年金とは
遺族年金とは、厚生年金や国民年金に加入していた人が亡くなったとき、配偶者や子など、亡くなった人によって生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。家族であれば誰でも受け取れるわけではなく、生計維持要件を満たした人でなければ受け取れません。
生計維持要件は、以下の通りです。
・生計を同じくしていること。 (同居していること。別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます) ・収入要件を満たしていること。 (前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること) |
(引用:さ行 生計維持|日本年金機構)
また、遺族年金は、非課税にあたります。つまり、所得税、住民税、相続税などの税金はかかりません。確定申告も不要である旨を覚えておきましょう。
(2)遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類
遺族年金は、大きく「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。両者の違いを簡単にまとめました。
遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | |
遺族年金を受け取れる人 | ・子のいる配偶者 ・子 「子」の要件 ・18歳到達年度末(3月31日)までの子 ・20歳未満で障害等級1級または2級の子 |
・配偶者 ・子 ・父母 ・孫 ・祖父母 |
特徴 | ・子のいない配偶者は受給できない | ・子の有無にかかわらない |
遺族基礎年金は、18歳到達年度末までの子(※)、または20歳未満で障害等級1級、もしくは2級の障害の状態の子がいる場合に受給できます。また、遺族厚生年金は、亡くなった人が厚生年金に加入していた場合に受給できる遺族年金です。
(※)18歳到達年度末までの子とは、18歳になった年度の3月31日を過ぎていない子のこと
【例】
2005年8月15日生まれなら、2023年8月14日に18歳に到達するので、18歳到達年度末は2024年3月31日。2005年8月15日生まれの子がいる人は、この日までであれば遺族基礎年金を受け取れる
18歳到達年度末までの子(または、20歳未満で障害等級1級、もしくは2級の障害の状態の子)がいる、かつ亡くなった人が厚生年金に加入していた場合、遺族は遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給することができます。
なお、子が18歳になった年度の3月31日を経過したり、障害1・2級の子が20歳に達したりすると、遺族基礎年金の受給資格は失効し、遺族厚生年金のみの受給となります。
2.遺族厚生年金の受給資格
遺族厚生年金は、どのような人が、どのような条件のもと、どのくらいの期間受給できるのでしょうか。もう少し詳しくみていきましょう。
(1)遺族厚生年金を受給できる人
遺族厚生年金は、生計維持要件を満たした遺族のうち「最も優先順位の高い人」が受給できます。優先順位は、以下のように定められています。
1. 妻
2. 子(18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1・2級)
3. 夫(死亡当時に55歳以上である場合)
4. 父母(死亡当時に55歳以上である場合)
5. 孫(18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1・2級)
6. 祖父母(死亡当時に55歳以上である場合)
出典:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
注意点は、妻が亡くなって遺族厚生年金を受け取りたい夫のケースです。妻の死亡時に夫が55歳未満であった場合、遺族厚生年金の受給はできません。
(2)遺族厚生年金の支給要件
遺族厚生年金の支給要件は、以下のように定められています。
1. 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
2. 厚生年金保険の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
3. 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている方が死亡したとき
4. 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
5. 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
(引用:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構)
1・2に該当する場合、保険料の未納期間がないかが問われます。4・5に該当する場合は、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある人に限定されます。
(3)遺族厚生年金の受給期間
遺族厚生年金の受給期間は、受け取る遺族によって異なります。ここでは、妻・夫・子にわけてみていきましょう。
①妻が遺族厚生年金を受け取る場合
夫が亡くなったとき、30歳未満で子がいない妻の場合は、「夫が亡くなった翌月から、再婚などをしない限り原則として5年間」しか受給できません。例えば、2022年6月22日に夫が亡くなった場合、「2022年7月分から2027年6月分まで」受給できます。なお、年金は偶数月の原則15日に「前々月分と前月分」が振り込まれます。
一方、子がいる妻、または30歳以上の妻の場合は、「夫が亡くなった翌月から、再婚などをしない限り原則として一生涯」遺族厚生年金を受給できます。
②夫が遺族厚生年金を受け取る場合
妻が亡くなったとき、夫が55歳以上の場合は、「60歳から、再婚などをしない限り原則として一生涯」遺族厚生年金を受給できます。ただし、夫が遺族基礎年金を受給できる場合は、55歳以上60歳未満でも遺族厚生年金を受給することができます。
なお、妻が亡くなったとき、夫が55歳未満の場合は、夫が遺族厚生年金を受け取ることはできません。
③子が遺族厚生年金を受け取る場合
「親が亡くなった翌月から18歳に到達する年度末、つまり3月31日まで」の期間、遺族厚生年金を受給できます。例えば、2015年9月12日生まれの子が、2022年6月22日に親を亡くした場合、「2022年7月分から2034年3月分まで」受給できます。なお、年金は偶数月の原則15日に「前々月分と前月分」が振り込まれます。
障害等級1級・2級の場合は、「親が亡くなった翌月から20歳に達するまで」の期間に受給可能です。
3.遺族厚生年金の支給金額と計算方法
遺族厚生年金が受け取れるとわかったら、気になるのが支給される金額です。遺族厚生年金の調べ方や、実際にいくらもらえるか具体的な金額をシミュレーションごとにみていきましょう。
(1)遺族厚生年金の調べ方
遺族厚生年金の年金額の原則は、亡くなった人の「老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の金額」です。つまり、65歳から支給される老齢厚生年金の金額のおおむね3/4の金額です。したがって、遺族厚生年金がいくらか調べる最も簡単な方法は、ねんきん定期便で老齢厚生年金の報酬比例部分がいくらか確認することといえます。
自分で計算したい場合は、以下の式をもとに報酬比例部分を計算することも可能です。
報酬比例部分 = A(平均標準報酬月額)+ B(平均標準報酬額) A:平均標準報酬月額 × 7.125/1,000 × 2003年3月までの加入月数 B:平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 2003年4月以降の加入月数 |
また、老齢厚生年金(老齢共済年金)を受け取る資格がある場合は、次の①と②を比較し、金額が高い方が遺族厚生年金の額となります。
① 亡くなられた方の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額
②「上記①の額の2/3」と「ご本人の老齢厚生(退職共済)年金の額 の1/2」を合計した額
(引用:遺族年金ガイド 令和5年度版 p.5|日本年金機構)
ただ、遺族厚生年金を自分で計算するのは、大変難儀な作業です。正確な金額を知りたい人は、年金事務所、街角の年金相談センターへの問い合わせをおすすめします。
(2)【シミュレーション】遺族厚生年金の支給金額
遺族厚生年金の調べ方がわかったところで、実際にいくつかのパターンを想定して遺族厚生年金の金額を確認してみましょう。
今回は、以下のパターンを想定してシミュレーションをおこないます。
・夫婦ともに65歳から老齢年金を受給中 ・老齢厚生年金80万円の夫が亡くなった ・妻の老齢基礎年金は78万円 ・妻に老齢厚生年金の受給が「ない場合」と「30万円だった場合」「80万円だった場合」の3パターンで、妻が受け取る年金の変化を比較する |
①妻に老齢厚生年金の受給がない場合
「妻の老齢基礎年金 + 夫の老齢厚生年金の3/4」という計算になります。
80万円(夫の老齢厚生年金) × 3/4 = 60万円(遺族厚生年金) ↓ 78万円(妻の老齢基礎年金) + 60万円(遺族厚生年金) = 138万円(妻が受け取る年金) |
妻が受け取る年間の年金支給額は、遺族厚生年金の60万円が増えて、138万円になります。
②妻に老齢厚生年金の受給がある場合
65歳以上で老齢厚生年金を受け取れる方が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、下記A、Bのどちらか高い方が、計算上の遺族厚生年金の額となります。
A:「死亡した人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の3/4」
B:「死亡した人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の1/2 + 自身の老齢厚生年金の1/2」
そのうえで、「計算上の遺族厚生年金 - 自身の老齢厚生年金」が実際に支給される遺族厚生年金です。なお、自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金は、配偶者死亡後も変わりません。
<妻の老齢厚生年金が30万円である場合>
妻の老齢厚生年金が30万円というケースを想定してシミュレーションします。
A:80万円(夫の老齢厚生年金) × 3/4 = 60万円 B:80万円(夫の老齢厚生年金) × 1/2 + 30万円(妻の老齢厚生年金) × 1/2 = 55万円 |
したがって、計算上の遺族厚生年金は、高い方(A)の60万円となります。さらに、実際に支給される遺族厚生年金は以下の通りです。
60万円(計算上の遺族厚生年金) - 30万円(妻の老齢厚生年金) = 30万円 ↓ 78万円(妻の老齢基礎年金)+ 30万円(妻の老齢厚生年金) + 30万円(遺族厚生年金) = 138万円(妻が受け取る年金) |
妻が受け取る年間の年金支給額は、遺族厚生年金30万円が増え、138万円になります。
<妻の老齢厚生年金が80万円である場合>
妻の老齢厚生年金が80万円だったというケースです。
A:80万円(夫の老齢厚生年金) × 3/4 = 60万円 B:80万円(夫の老齢厚生年金) × 1/2 + 80万円(妻の老齢厚生年金) × 1/2 = 80万円 |
したがって、計算上の遺族厚生年金は、高い方(B)の80万円となります。さらに、実際に支給される遺族厚生年金は以下の通りです。
80万円(計算上の遺族厚生年金) - 80万円(妻の老齢厚生年金)= 0 ↓ 78万円(妻の老齢基礎年金)+ 80万円(妻の老齢厚生年金)= 158万円(妻が受け取る年金) |
遺族厚生年金は支給されないため、妻が受け取る年間の年金支給額は、158万円のまま変わりません。以上のことからわかるように、妻の老齢厚生年金が夫の老齢厚生年金と同額、もしくは多い場合は、遺族厚生年金は支給されないということになります。
(3)遺族厚生年金が上乗せされる制度
遺族厚生年金には、受給権者が妻である場合、遺族厚生年金が上乗せされる「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」の二つの制度が用意されています。
①中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算(ちゅうこうれいかふかさん)とは、40歳から65歳になるまでの期間、年額59万6,300円(2023年度)が遺族厚生年金に加算される制度です。ただし、下記の条件を一つでも満たしていることが条件です。
・夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子(18歳になる年度の3月31日を経過していない子、または20歳未満で障害等級が1級または2級の子)がいない妻
・遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のいる妻(40歳に到達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けている)であり、子が18歳到達年度の3月31日を経過するなどして遺族基礎年金を受給できなくなったとき
(参照:遺族厚生年金〈受給要件・対象者・年金額〉|日本年金機構)
なお、支給金額は毎年変動します。
②経過的寡婦加算
経過的寡婦加算(けいかてきかふかさん)の支給条件は、以下のいずれかを満たすことです。
● 生年月日が1956年4月1日以前の妻が65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生した
● 中高齢寡婦加算を受け取っていた1956年4月1日以前生まれの妻が65歳に達した
支給される金額は、妻の生年月日によって異なるうえに、毎年変動します。
4.遺族厚生年金の見直しがスタート
ここまで遺族厚生年金についてみてきて、妻が優遇された年金であると感じた人は少なくないでしょう。これは、「夫が家計を支え、妻は家事に専念する」というひと昔前の家庭をモデルとした仕組みだからです。
昨今では、若い世代ほど共働きが一般的になっており、夫に生計を頼っている家庭は少なくなってきました。そこで厚生労働省は、2025年ごろの制度改正に向けて、男女差をなくす方向で遺族厚生年金の見直しをスタートしています。
5.遺族厚生年金についての不安は専門家に相談を
遺族厚生年金をはじめとする遺族年金は、残された家族を救済するための仕組みですが、その内容は複雑で難しいものです。基本的な知識を蓄えるなかでわからないことや不安があるときは、年金事務所、街角の年金相談センターに相談をしましょう。
(ファイナンシャルプランナー 福嶋淳裕)
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