編集部へのお問い合わせはこちら

フードテックとは? 意味やメリット、企業の事例を徹底解説!

フードテックとは? 意味やメリット、企業の事例を徹底解説!
フードテックの意義と活用されている分野(デザイン:増渕舞)
ライター&オンライン講師/藤田まみ

持続可能な食料生産に欠かせないのが「フードテック」。世界的に注目を集めるテクノロジーの一つで、日本でも市場が拡大しています。とはいえ、「フードテックとは?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。この記事では、フードテックの意味や必要性、企業の事例をくわしく解説します。

著者_藤田まみさん
藤田まみ (ふじた・まみ)
ライター&オンライン講師。小学校教諭歴6年。退職後、社会とのつながりに悩むも、サステイナブルライフと出会い、自分らしい生き方を実現。現在はSDGsや教育分野の記事を執筆。自分・社会・環境を大切にする輪を広げるために、noteで積極的に情報発信をしている。著書『ふだん使いのSDGs』。

1.フードテックとは?

フードテックとは、「Food」と「Technology」を組み合わせた言葉で、食の最先端技術のことです。最新のテクノロジーを活用して、食における問題解決や食の新たな可能性の拡充などを目指しています。

例としては以下の通りです。

・狙った遺伝子を変化させることで、環境ストレスに強い野菜を生産するゲノム編集

・機能性食品や完全食

・代替肉

・食材の長期保存

・スマート調理家電や調理ロボットの導入

・AI(人工知能)技術による個々にあった食事の提案

このように、フードテックは、生産から加工、流通、調理や消費など食分野の新たなビジネスモデルを支える技術といえるでしょう。

近年、生物学やデジタルなどにおける科学技術が大きく発展したことによって、食料不足の解消や環境保護などの世界的な課題を解決する救世主として期待されているのです。

(1)市場規模

食の問題解決の鍵となるフードテックは、国内外問わず注目されています。ベンチャーキャピタルAgFunderの報告書「AgFunder AgriFoodTech Mid-Year Investment Review - H1’20」によると、世界のフードテック分野への投資額は「年間2兆円以上」といわれています。

世界のフードテック分野への投資額
出典:農林水産省フードテック研究会 中間とりまとめ p.8丨農林水産省

しかし国別にみれば、アメリカや中国、インド、イギリスなどに比べると、日本の投資額は圧倒的に小さいのがわかります。

フードテックは、世界中の投資家の関心が非常に高いビジネスであるとともに、国内での伸び代も大きい市場であるといえるのではないでしょうか。

(2)フードテックが導入されている分野

フードテックは、主に食に関する業界で導入されています。では、具体的にはどのような分野があるのでしょうか。以下にくわしくまとめました。

①生産や開発

食品の生産や開発分野で導入されています。栄養素をバランスよく配合した完全食やたんぱく質不足を補う代替肉などの開発が有名です。これらはヘルスケアの分野とも深く関わっています。

さらに、持続可能な食料供給に向けて、昆虫食や培養肉などの開発も進められています。

②調理

ライフスタイルが多様化するなか、調理環境の整備にもフードテックは活用されています。家事負担を減らしたり、個々の健康状態に合わせた食を提供したりする「スマート調理家電」もその一つです。

人手不足が深刻な医療や介護現場では、調理を支える3Dフードプリンターや調理ロボットも導入されています。

③小売り

小売りも技術開発が重点的に進められている分野の一つです。特に、長期保存が注目されています。

例えば、最先端の冷凍技術を活用することで、質のいい冷凍すしや冷凍宅配の販売が可能になりました。食の提供の幅が広がることは、小売業界の売り上げ増にもつながります。また、廃棄される食材が減ることで、食品ロスの削減にも貢献できるのです。

④飲食

フードテックは、飲食店にも大きな影響を与えています。例えば、新型コロナウイルス感染症拡大を受けて急拡大したモバイルオーダーはその典型例です。

また、無人で食事の宅配や配膳ができるロボットや、スマートフォンをメニューにかざすと、AR(拡張現実)技術を使って実寸大の料理が見られるサービスもあげられます。

(3)フードテックとSDGs

フードテックとSDGsは大きく関わっています。

2020年度の「農林水産省フードテック研究会中間とりまとめ」の中でも、「今後、SDGsの達成やコロナ後の産業・生活の在り方への対応等の観点から、オープンイノベーションの枠組みで、民間活力を最大限活用し、フードテック領域の研究開発・投資、社会実装を促進していく必要がある」と明記されていました。

例えば、持続可能な食料生産を実現することは目標2「飢餓をゼロに」の達成に欠かせません。個々人に合った健康管理は目標3「すべての人に健康と福祉を」に関連するでしょう。そのほかにも、食品ロスの削減は目標12「つくる責任、つかう責任」、食料生産に伴う環境負荷の低減は目標13「気候変動に具体的な対策を」につながります。

SDGs目標2、3、12、13のアイコン

このように、フードテックを拡大させることは、SDGsの達成にも貢献するのではないでしょうか。

2.フードテックが注目される理由

今後の世界の食産業を支えるフードテックへの注目は高まるばかりです。この背景には、三つの理由があります。

(1)世界人口の増加と食料危機

まず、世界人口の増加に伴った食料危機への対応が必要なためです。

UNFPA(国連人口基金)によると、世界人口は2022年に80億人を突破しました。この勢いで増加が続けば、2058年には100億人になるといわれています。

急激な人口増加は食料需要の拡大に直結します。すべての人に食事を提供するためには、これまで以上に大量の食料を確保しなければなりません。

国連も、2050年までに増加が見込まれる20億人分の食料を確保するために、グローバルな食料と農業のシステムの抜本的な改革が必要だと言及しています(参考:目標 2 飢餓をゼロに|国連広報センター)。

持続可能な食料生産システムを根本から変えるために、フードテックが期待されているのです。

(2)生産性の向上と環境保護の両立

世界人口の増加と経済発展にともない、各地域で食生活の欧米化が進んでいます。それにより、畜産物と、飼料になる穀物などへの需要が、下図のとおり大きく高まると予測されています。

世界全体の品目別食料需要量の見通し
出典:2050年における世界の食料需給見通し p.10丨農林水産省

しかし、家畜肉は非常に環境負荷が大きいとされています。環境省は「環境白書」の中で、肉の生産にともなう温室効果ガスの排出量が大きいと報告しました。飼料の生産や輸送に伴う二酸化炭素の排出に加え、家畜の消化器からのメタンの発生も、環境負荷につながります。

こうした課題の解決策として注目されているのが、フードテックによる代替肉の開発です。豆類などの植物由来のたんぱく質を使用した代替肉であれば、環境負荷を抑えながら必要な食料を供給できます。

(3)多様化する食への対応

消費者の健康や環境志向の高まりで、食に求める価値が多様化しています。これらのニーズに合わせた新たな食の提供が求められているのです。見方を変えれば、新たな食のビジネスチャンスともいえるでしょう。

菜食主義の人の場合、肉や魚を食べないため、たんぱく質が不足しやすいのが悩みの種です。しかし、植物由来のたんぱく質でできた代替肉や代替シーフードが開発されたことで、たんぱく質も摂取しやすくなりました。

また、ダイエットをしている人に向けて、栄養バランスのよさとカロリーコントロールを兼ね備えた完全食や機能性食品の開発も進んでいます。

このようにさまざまな食のニーズに対応するためにも、フードテックは欠かせない存在といえるのです。

(4)人手不足への対策

食品業界における人手不足は深刻な問題です。人口減少や職業の多様化などに伴い、生産や加工、調理や配膳など、さまざまな工程で一定の働き手を確保することが難しくなっています。

さらに、農業就業者の高齢化も進んでいます。

農林水産省「令和2年度 食料・農業・農村白書」によると、自営農家の平均年齢は2020年に67.8歳に達し、10年前と比べると約2歳も高齢化が加速しました。一方で、49歳以下の青年層は10年前と比べ30.7%減少しています。

フードテックによって加工や調理を自動化するロボットの開発を進めることで、少人数で効率よく持続可能な食料生産をすることが期待されているのです。

3.フードテックの事例

フードテックを活用したサービスや商品は、どのようなものがあるのでしょうか。以下に、国内の事例をまとめました。読めば想像以上に身近な存在だと感じるかもしれません。

(1)ミラクルミート(DAIZ)

熊本のベンチャー企業・DAIZは、独自技術により、従来の植物肉で課題とされていた「味と食感に残る違和感」「大豆特有の臭み」「肉に見劣りする機能性(栄養価)」を解決した植物肉「ミラクルミート」の開発に成功しました。

ミラクルミートは、イオンや伊藤ハム、フレッシュネスバーガーなど、さまざまな大手企業に採用されています。

大豆パティを挟んだハンバーガー
フレッシュネスバーガーの大豆パティを挟んだハンバーガー(筆者提供)

(2)コオロギのお菓子(無印良品)

無印良品は徳島大学と連携してコオロギパウダーを使用した「コオロギチョコ」と「コオロギせんべい」の二つの商品を開発し、販売しています。

食べるのに抵抗がある人も多いかもしれませんが、コオロギはたんぱく質が豊富で効率よく栄養を摂取できます。

また生育するうえで、温室効果ガスの排出、必要なエサや水の量などが家畜と比べて圧倒的に少ないことから、地球に優しい未来食として注目を集めているのです。

コオロギせんべいを実際に食べてみると、薄味のエビせんべいを食べているようでした。予想以上に食べやすく、少しクセになる味です。

コオロギせんべい
無印良品が販売しているコオロギせんべい(筆者提供)

(3)調理ロボット(コネクテッドロボティクス)

コネクテッドロボティクスは、食品工場や飲食店向けのロボットサービスの研究開発および販売を行っています。

食品工場に向けて、一定量を測ってトレーに盛り付ける「盛り付けロボット」、AI画像認識技術を利用して、不定形食品の検査と排出を行う「検品ロボット」などが開発されています。

飲食店には、自動でそばをゆでて水で締める「そばロボット」、一定量のポテトを揚げて、味付けの場所まで移動させる「フライドポテト」などが導入されました。

最新のAI画像認識やロボットコントロールの技術を開発することで、作業の自動化や、作業効率のアップが可能となり、人手不足の解消へ尽力しています。

(4)水産代替飼料の開発(水産庁)

水産庁では、従来の養殖用の飼料(餌)の替わりになる新しい飼料の開発に取り組んでいます。現状では、養殖コストの6〜7割を餌代が占め、水産飼料用魚粉の約7割を輸入に頼っているという問題があるからです。

そこで、飼料効率の改善や国産原料の安定確保のために、「水産代替飼料」と呼ばれる、安価な魚粉代替たんぱくを利用した飼料、単細胞生物や昆虫由来のたんぱく質を原料とした飼料などの開発が進められています。

4.フードテックの今後

世界の人口増加による食料危機、気候変動による不作など、社会変動が激しい現代を生き抜くためには、安定した食料生産が欠かせません。そのためには、最先端技術を活用しながら、根本から食の生産システムを見直すことが必要です。

フードテックは生産から消費まで、食のあらゆるフェーズに影響をもたらす技術ですが、とりわけ食料不足や環境保護などの世界的な課題を解決する救世主として、これからも期待されるでしょう。

しかし、せっかく開発しても、消費者に受け入れられなければ意味がありません。フードテックを活用した商品やサービスの価値を理解してもらうことが必要不可欠です。

例えば、狙った遺伝子を変更するゲノム編集で生まれたスーパー農作物は、栄養価が向上したり、病害虫や雑草に打ち勝ったりできるよさがあります。

安定した食料生産は実現できるものの、消費者からすると「本当に安全なのか」と心配する声も多くあることも想定されます。

新たな食文化を築くために、食べる人が安心できる情報提供がこれまで以上に重要なのではないでしょうか。また、消費者も、これからの食の当たり前がテクノロジーによって変わっていくことを理解しておくことが大切でしょう。

この記事をシェア
関連記事