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相対的貧困とは? 定義と現状、解決につながる対策を紹介

相対的貧困とは? 定義と現状、解決につながる対策を紹介
相対性貧困とは(デザイン:吉田咲雪)
長崎大学教育学部准教授/小西祐馬

SDGsといえば環境問題・気候変動問題のイメージが強いかもしれませんが、「17の目標」で最初に位置するのは「貧困をなくそう」です。貧困とは、開発途上国だけに存在する問題で、先進国においてはもう解決したのでは? と考える人もいるかもしれません。しかし、先進国にも「相対的貧困」が存在します。

著者_小西祐馬さん
小西祐馬(こにし・ゆうま)
長崎大学教育学部准教授。専門は児童福祉・貧困研究。「子どもの貧困」についての研究や、貧困問題に対応できるような保育士や教員の養成に取り組む。主な著書(編著)に、『子どもの貧困② 遊び・育ち・経験――子どもの世界を守る』(明石書店)、『貧困と保育』(かもがわ出版)。

1.相対的貧困とは

相対的貧困とは、「生きるか死ぬかの飢餓レベルというわけではないけれど、同じ国・地域の人とくらべて(=相対的にみて)収入・資産が少なく、生活も厳しく不安定な状態」のことです。その時代のその社会に所属している人ならほとんどの人が持っているものが持てず、ほとんどの人ができていることができない状態ともいえます。

例えば、冷蔵庫や洗濯機が買えない、学校の修学旅行に行けない、香典や服が用意できずお葬式に行けない、友人や親族の集まりに参加できないなどが該当します。

相対的貧困には類似の言葉として「絶対的貧困」があり、これはどんな時代・どんな国での生活であっても、人間が生き延びるために「絶対に」必要なもの(食糧・衣服・住居など)が欠けている状態のことをいいます。

絶対的貧困も相対的貧困も、多くの場合、所得を基準として計測・把握されます。この所得基準のことを「貧困ライン」といい、これを下回ると貧困だということです。

絶対的貧困の貧困ラインは、世界銀行による「ひとり1日1.90ドル」というものがよく知られています。

相対的貧困の貧困ラインは、相対的、つまり時代・社会・地域などによって具体的な金額は異なりますが、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割ったもの)の中央値の50%または60%を貧困ラインと設定しています。日本の場合、2018年の貧困ラインは127万円(1人世帯)です。この金額に世帯人数の平方根をかけると世帯人数ごとの貧困ラインも求められ、2人世帯だと約180万円、3人世帯だと約220万円、4人世帯だと254万円になります。この基準を下回ると、相対的貧困だということです。

2.相対的貧困の現状

では、相対的貧困の現状はどのようになっているのでしょうか。

(1)世界の相対的貧困率 日本は先進国のなかで最悪

世界各国の最新の相対的貧困率については、OECD(経済協力開発機構)が加盟国を中心とする37カ国のランキングを示しています(参照:Poverty rate丨OECD、2023年2月13日確認)。

これを見ると、相対的貧困率が最も高いのはコスタリカ(20.3%)です。そして、ブルガリア(17.6%)、イスラエル(17.3%)、ルーマニア(17.0%)、ラトビア(16.9%)、メキシコ(16.6%)と続き、7番目に日本が登場します。相対的貧困率は15.7%。G7(主要7カ国)の中で最悪の数字であり、先進国で最も貧困率が高い国とさえいえるでしょう。

(2)日本の貧困率が高い理由

日本の相対的貧困率が高い理由は、いうまでもなく、低所得の人が多いからです。

なぜ低所得の人が多いのかについてはさまざまな見方があります。例えば政府(内閣府)は、高齢者人口が増加したことと連動して低所得の高齢者も増え、それによって日本全体の相対的貧困率が上昇したと指摘しています。

また、近年の日本は低賃金の非正規雇用が大幅に増加したことに加え、正規・非正規問わずそもそも賃金の上昇がまったく見られない国となっており、これらのことも相対的貧困と大きく関係しています。

賃金が得られず、低所得となり、相対的貧困に陥った場合、「セーフティーネット」として社会保障制度を利用することになります。ひとり親家庭への児童扶養手当や失業者への雇用保険などがありますが、利用できる人は限られています。相対的貧困の状況にある人すべてに関係する生活保護も、日本では利用が厳しく制限されており、相対的貧困緩和の効果は非常に乏しいものにとどまっています。

低所得の人々の社会保障費負担が重いこと、言い換えると税と社会保障による所得再分配効果が弱いことも相対的貧困率が高い理由として考えられます。

(3)相対的貧困の原因・背景

ある個人・世帯が相対的貧困に陥る原因は、失業・無職または低賃金の労働に従事しているためで、その背景には低学歴(中卒・高校中退など)や無資格があります。また、世帯の大人が病気・障害を理由に職から遠ざかること、そして家族の病気・障害のケアのために大人が働けなくなることもあります。

ただ、人々の経済状況は、資本主義経済における好景気・不景気、地震や大雨などの自然災害、コロナ禍などのパンデミック、戦争をはじめとする国際問題、そして以上について政府がどのように対応するかによって大きく左右されます。

日本においては相対的貧困の状況にある人々に対し、その個人が努力していないからだ、意欲がないからだ、という「自己責任論」が浴びせられることがよくありますが、個人にはどうしようもない時代の背景を考慮にいれなければなりません。

3.相対的貧困を放置しておくとどうなる? 指摘される問題点三つ

2015年に採択されたSDGsの1番目に「貧困をなくそう」が掲げられているように、貧困は早急に解決しなければならない課題です。

SDGs目標1アイコン

仮に相対的貧困をこのままにしておいてしまった場合、次のような問題が起きることになります。

(1)貧困が固定化される

相対的貧困は「所得が少ない」ということであり、それは現代においてはさまざまなチャンス(機会)が制限されることにつながり、結果的に現在の貧困状態から抜け出すチャンスも奪われてしまうことになります。ひとりの個人が生涯にわたって貧困から抜け出せなくなる、そして家族をつくり子どもを持ったとしても、その子どもまでもがずっと貧困のまま、という危惧が出てくるのです。これを「貧困の世代的再生産」または「貧困の世代間連鎖」といいます。

前述したように、日本では相対的貧困を個人の責任として見がちです。貧困から抜け出すことも個人・家族の責任とされ、社会による支援は縮小し、貧困から抜け出すチャンスはわずかしかなくなり、貧困にある人々から希望がどんどん奪われていきます。その結果、相対的貧困率は改善することなく悪化し続ける、という悪循環に陥ることになります。

(2)社会が分断される

持てる者と持たざる者の二極化・固定化が進むような社会では、仕事、生活、教育、価値観、社会意識などさまざまな領域で分断が起こることも予測されます。また、豊かな人が住むところと貧しい人が住むところがさらに明確に分かれ、地域的な分断が進む可能性も十分あります。

深刻な分断は葛藤や対立を生み、争いを生みます。社会における「連帯」が失われ、人々が平和な日々を自ら放棄する事態にもなりかねません。

(3)「公平」という規範が失われる

「努力は報われる」とよく言われますが、有名大学・難関大学に合格するのは、都市部で暮らす経済的に恵まれた家庭の子どもたちばかりで、貧困にある子どもたちにとっては非常に高いハードルです。大学受験ひとつ取っても、公平・平等はどこにも見当たりません。

さらに、貧困状態で生きる子どもたちは、ごはんをおなかいっぱい食べられない、お金がなくて病院に通院できない、家族旅行やキャンプなどに行ったことがない、虐待・暴力の被害にあう割合が高いなど多くの困難に苦しむ姿が明らかになっています。2022年には「親ガチャ」という言葉も広く話題になりました。まさに不公平な現代の日本を反映しています。

相対的貧困率が高い日本社会は、言い換えると、不公平で不平等であるということです。このままでは「がんばれば何とかなる」という希望は社会から失われていきます。

4.相対的貧困を解決するために 国の取り組みと必要な対策

最後に、こうした状況から抜け出すために国がおこなっている取り組みと、私たちにできることをご紹介します。

(1)国がおこなっている取り組み

先進国では「1日1.90ドル以下」というレベルの絶対的貧困は、かなりの部分、解決できたといえます。しかし、相対的貧困は「相対的」ということですから、相対的貧困率を「0」にすることは困難であることは間違いありません。しかし、少しでも「0」に近づけるような努力が求められます。

解決に向けた方向としては、国の相対的貧困率を減少させること、そして、ある個人が相対的貧困に陥っている期間をできるだけ短くすること(=長期間の貧困状態を避ける)です。

①福祉国家による社会保障制度

20世紀を通じて多くの先進国が採用した「福祉国家」という体制は、高所得の人により多くの税・社会保障の負担を求め、それを財源として「セーフティーネット」を構築し、貧困・低所得になった際に支援をおこないます。この、いわゆる「所得再分配」が基本設計です。

社会保障制度には、何かトラブルがあっても貧困にならないように(=予防)するための社会保険(医療保険や年金保険、雇用保険など)と、貧困になってしまったときのための公的扶助(生活保護など)があります。

多くの国で上記のような制度を備えていますが、例えば生活保護をみてみると、利用率や給付額などは国によって大きく異なっています。日本の生活保護は、世界的にみて、給付額はそれなりの水準にありますが、利用する人はとてつもなく少なく、非常に狭き門となってしまっています。

②ワークフェア

1990年代以降、労働(ワーク)と福祉(ウェルフェア)を組み合わせた「ワークフェア」という言葉がよく使われるようになりました。社会福祉制度の給付を受けるための条件として就労訓練を義務付け、就労による脱貧困を目指す仕組みです。日本においても2015年から「生活困窮者自立支援制度」として実施されています。

就労訓練によって新たな技術を身に付け、安定した仕事に就くことができればよいのですが、そもそも仕事が少なく、雇用が不安定な状況では「就労自立」には限界があります。にもかかわらず、就労できなかったことをその個人の責任とし、社会保障給付を打ち切る口実に使われることもありました。そういった意味で、このワークフェアという取り組みには慎重な制度設計が必要です。

③日本:生活保護、生活困窮者自立支援、子どもの貧困対策

日本の貧困への対応として真っ先に挙げられるのは、「生活保護法」です。日本国憲法第25条が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めた生存権を具体的に保障する制度として、1950年の制定以来、70年以上に渡って運用されてきました。多くの課題を抱えていますが、最重要の制度であり続けています。

2013年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」もできました。これにより、行政による広報活動や子どもの生活実態調査がおこなわれるようになりはしましたが、貧困にある子どもへの支援策が新たに制定されたわけではなく、そもそもなぜ「子どもの貧困」だけに絞り、大人・高齢者は対象外なのかなど、不可解な制度でもあります。

2015年には「生活困窮者自立支援法」も施行されています。生活に困窮する人が生活保護に至る前に支えることを目的とし、相談支援や住宅確保給付金の支給、就労支援、家計改善支援、子どもの学習支援などをおこなっています。

(2)解決のために私たちにできること

相対的貧困を解決するために、筆者が有効だと考えている方法は主に次の三つです。

①相対的貧困への理解を深める

とにかく、まずは知ることです。インターネット上にも、新聞紙面にも、本にも、日本の貧困を取り扱ったものがたくさんあります。また、ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』、是枝裕和監督の『万引き家族』『ベイビー・ブローカー』などの映画を見れば、よりリアルな実感を持って理解できると思います。

ぜひ、さまざまな記事や作品にアクセスしてみてください。そして、自分が持っていた貧困のイメージ、見えていた社会の風景を問い直し、21世紀に備えるべき視点について考えてみてください。

②政府・自治体の政策に注目し、貧困対策をおこなうよう求める

貧困問題を解決する制度への直接的な影響力を持っているのは、政治家・政府・地方自治体です。これらの人を動かし、より積極的な貧困対策を実行に移すことこそが、問題解決に至る近道です。そのためにはどうすればいいでしょうか。

高いハードルを感じるかもしれませんが、選挙はとても重要な機会になります。貧困問題の解決に力を入れている候補者・政党に投票することで、実際の政策が動く可能性は十分にあります。選挙の際に候補者の公約などに注目してみる価値はあるでしょう。

それから、行政が何らかの制度を決定し実行するときには「パブリックコメント」を募集します。これも意見を伝えるチャンスです。貧困に関係するパブリックコメントが募集される期間を見逃さないことが大切です。

いずれにせよ、政府や行政のホームページ(特に貧困対策のページ)に日頃から注目しておく必要があります。

③自分が住む地域の支援活動を調べ、できることで参加してみる

貧困問題の解決を目指す支援活動・支援団体を知り、問い合わせ、できることで参加してみるのもおすすめです。

近年、「子ども食堂」が全国にたくさんできています。また、昔からホームレス・野宿の人々への支援活動がさかんな地域もあります。ほかにも、子どもの学習・生活支援、子どもの電話相談支援、ヤングケアラー支援、女性支援(DV、ハラスメントなど)、LGBTQ支援、障害のある人の支援など、「貧困」という言葉がついていなくとも関係する多様な活動が各地で展開されています。

こうした情報は、インターネットで調べると多く出てきます。役所で尋ねてみてもいいかもしれません。

参加の方法は、資金や物品の寄付、インターネット・SNS上での情報拡散、署名、口コミなどいろいろあります。何よりも、まずは近くにいる人と気になったことを話してみる、それが最初の一歩かもしれません。

5.貧困をなくすことはSDGsにおける重要な目標

最後にSDGsの「17の目標」に触れておきましょう。目標1「貧困をなくそう」以外にも、相対的貧困と深く関係するものとして、目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標16「平和と公正をすべての人に」など、たくさんあります。貧困をなくし、平等・公正な社会を目指すことは、世界が、日本が、取り組むべき大きな課題なのです。

そのためにも、まずは私たち個人が現状と原因を知り、何が必要なのかを考えることが大切といえます。それが結果的に、日本の相対的貧困率を下げ、世界の貧困問題の解決につながっていくのです。

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