潮流発電に九電が挑戦 国内初の大型機導入へ 天気に左右されず【スクランブル】
潮の満ち引きを利用した「潮流発電」の実用化を目指し、九州電力が本腰を入れている。初期段階の実験を終え、大型発電機の設計に取り組んでおり、2024年度にも国内で初導入する計画だ。天気に左右されない安定的な発電が可能な次世代の「海洋エネルギー」活用に向けコスト面の克服などに挑戦する。
長崎県・五島列島沖。水深約40メートルの海底に置いた発電機の横を魚が泳いでいた。海水の流れに合わせ、風力発電機に似たプロペラがゆったりと動く。再生可能エネルギー事業を手がける九電子会社「九電みらいエナジー」(福岡市)の記録映像はのどかだ。
みらいエナジーは21年1~12月、五島列島の奈留瀬戸に沈めた出力500キロワットの発電機で潮流発電に成功した。環境省の採択事業で政府も後押しした。
データを収集し発電量を分析したところ、予測値との違いはわずか1%。潮の干満は通常1日に2回で、新月や満月の際はその差が大きくなるなど規則性があるためだ。
海中の発電機の運転は台風など悪天時でも支障が生じない。「地元漁業者の反対もあまりなかった」とみらいエナジーの和田好広事業企画第2部次長。太陽光や風力といった再エネで問題視されている景観などへの影響も小さい。
みらいエナジーは今、商用サイズとなる1100キロワットの発電機の設計に余念がない。一般家庭約800世帯分の消費電力を賄う想定で、電力系統につないで送電できるかどうかを検証する予定だ。
九電が潮流発電に挑むのは潜在力に注目しているからだ。国内では鳴門海峡や関門海峡などが適地と見込まれ、原発2基に当たる220万キロワットの発電が可能との試算もある。和田氏は「地域の脱炭素化に貢献できる。事業を確実に進めたい」と意気込む。
海洋エネルギーに活路を見いだそうとする動きは他にもある。商船三井や佐賀大は沖縄県久米島町で、海水の表層と深部の温度差で電気をつくる「海洋温度差発電」を実証。岩手県釜石市では波の動きによる「波力発電」導入へ準備が進む。
ただ、国は海洋エネルギーに関し「技術開発の段階」(経済産業省)と位置付ける。政府は30年度の電源構成に占める再エネ比率を36~38%に引き上げる目標を掲げるが、そこには含まれていない。
日本エネルギー経済研究所の二宮康司研究主幹は、発電機が海水でさびるなど海洋エネルギーには耐久性の問題があり、コスト低減に時間がかかると指摘。「単独の利用ではなく、洋上風力を補助する役割としてハイブリッドで活用する方法もある」と提案する。