基金5466億円 国庫返納 休眠状態11事業は廃止

 政府は22日、中長期的な政策の推進に充てられる一方で無駄に積み上がっていると指摘される国の基金を総点検した結果、使う見通しがないと判断した5466億円を国庫に返納させると発表した。基金を使った事業で既に補助金支給といった役割は終え、管理費だけの支出が続く休眠状態の11事業の廃止も表明。存続させる全事業には、成果を検証できる数値目標を設定した。同日のデジタル行財政改革会議で報告した。

国庫返納する主な基金と金額
国庫返納する主な基金と金額
国の基金で指摘される問題点
国の基金で指摘される問題点
国庫返納する主な基金と金額
国の基金で指摘される問題点


 基金は新型コロナ対策で膨らみ、2022年度末の残高は計約16兆6千億円に上る。返納させるのは、業績が悪化した中小事業者に融資する「新型コロナウイルス感染症基金」が3583億円、開発や国内流通を促進する「ワクチン生産体制等緊急整備基金」が1008億円など。
 点検は岸田文雄首相が23年12月に指示し、152基金の200事業を対象に行った。指示の前に3105億円を返納できる見込みが立っており、点検により2千億円超を積み上げた。首相は22日の会議で「不断の適正化に取り組んでほしい」と関係閣僚に求めた。
 廃止は「省エネルギー設備導入促進基金」で電気自動車(EV)充電設備の設置を図る事業や、農林漁業者が発電事業を行う「地域還元型再生可能エネルギーモデル早期確立基金」を使った事業など。
 これまでは数値目標がなく成果の検証が難しい基金が多く、点検結果を踏まえて数値目標を設定した。基金設置から原則10年以内を事業の終了予定時期とし、成果検証を踏まえて存続の必要があるかどうか判断する。
 会議では、基幹業務システムの管理で国や自治体が共同利用する「ガバメントクラウド」など行政のデジタル共通基盤整備で、6月の策定を目指す基本方針の骨子も示した。国と自治体の役割分担や費用負担の基本的な考え方、デジタル人材の確保策を盛り込む。

残高膨張 3年で7倍  一度積み立てると所管官庁の既得権益となりやすく、無駄遣いの温床との批判も強い国の基金にようやくメスが入った。2022年度末の基金残高は新型コロナウイルス対策の巨額計上も背景に、19年度末比で約7倍の計約16兆6千億円に膨らんだ。予算の適切な執行に向け、継続的な監視体制の構築が課題となる。
 基金は複数年度にわたる中長期的な政策課題に対応する目的で使われる。国の財政運営は毎年度の国会承認を経て予算を決定・執行する「単年度主義」が原則だ。第2次安倍政権以降、単年度主義の弊害を改める必要性が強調され、その手段として基金が多用されてきた。
 基金設立後は所管官庁の外郭団体に運営が委ねられることが多い。国会による監視の目が届きにくく、安易な税金投入につながる事例も散見される。基金を積むと経済対策の規模を膨らませることができるため、世論向けのアピールとして政治的に利用されるケースも繰り返されてきた。
 巨額の予算に比して、政策効果に疑問符の付くものも多い。所管官庁別の残高では経済産業省が61基金の計約11兆5千億円で突出する。コロナ対策で中小企業の事業継続を目的とした借入金利の実質補塡(ほてん)事業は、22年度に利用を見込んだ1千億円のうち146億円しか使われず、同年度末の残高が2千億円超に上った。電気自動車(EV)充電設備の普及事業は支給実績が皆無だった。
 一橋大の佐藤主光教授(財政学)は「長期間投資が必要な半導体産業など予算の機動的な観点ではあり得る選択肢だ」とし、基金の活用に一定の理解を示す。その上で「外郭団体へ丸投げ状態となり、親が責任を取らない子どもへのお小遣いと同じだ」と述べ、厳格な運用管理の必要性を指摘している。

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