築35年の自宅の1階をカフェに。 お客さまの笑顔に支えられる第二の人生へ
「お客さまを真っ先に迎えたい」と入口正面にキッチンを配置。心理的な垣根をなくすためカウンターは低くし、料理の様子が見えるように
2021.04.20

築35年の自宅の1階をカフェに。 お客さまの笑顔に支えられる第二の人生へ

39年間、養護教諭として働く中で思い描いたカフェ経営を自宅で実現。 アットホームな空間で心ゆくまで訪れる人をもてなし、自分自身も癒される日々

TRIP
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 閑静な住宅街に現れる、温かな木の壁と大きな窓を備えた一軒家。「いらっしゃい」と語り掛けるような家の形をした扉を開けると、キッチンに立った店主が笑顔で迎えてくれる。39年間、小学校の養護教諭をしていたMさんは、約3年前に自宅にカフェをオープン。そのきっかけは、教諭時代の経験にあるという。

物件データ 所在地/札幌市南区
面積/44.50㎡
リノベーション年月/2018年5月
設計/伊藤宏行(アトリエココ)
www.ateliercoco-sapporo.com
コーディネーター/白取真美(ルチルデザイン)
www.rutiledesign.com
施工/高杉工務店
takasugi-k.com

「生徒の中には家庭に困難を抱えている子が少なからずいて『おいしいご飯を食べさせてあげたい』と常々感じていたんです。一方で、先生たちの苦労も絶えなくて。公務員の枠から離れ、誰もが気軽に立ち寄って心と体を大事にできる場所をつくりたいと考えていました」(Mさん)

通りから店内の様子が分かるように窓を大きく、入口扉をガラス戸に変更。夜になると明かりが漏れて、訪れる人に安心感をもたらす
大幅なリフォームは1階のみで、住居スペースの間取りは既存のまま。住宅玄関に入って左手に店舗とつながる引き戸があり、行き来がしやすい

やり残した仕事の目処が立ったことから、定年を待たずに退職することに決め、仕事をしながら開業の準備を始めた。店舗は当初、駅近の物件を借りるつもりでいたが、「90歳のおばあちゃんになってもお店がしたいと思ったら2階を住居スペース、1階をカフェにするのがいいと気づいたんです。階段を下りるだけで仕事ができますから」とMさん。料理も経営も素人で心配は尽きなかったが、いろいろなカフェを見て回り、開業支援のスクールで学ぶ中で「まずはやってみよう」という気持ちになったという。

庭にアオハダを植栽。「枝が細く、葉が小さいので壁に映る影がきれい。夏の強い日差しや視線を程よく遮ってくれます」(Mさん)

「くつろげる空間を」と建築家の伊藤宏行さんに依頼した。「ほっとできる家庭的な雰囲気になるようシステムキッチンや自然素材を取り入れています。大人数のテーブル席、ひっそり過ごせるカウンター席を用意し、思い思いに過ごせるようにしました」(伊藤さん)
Mさんにとってカフェは住居の一部。閉店後に食事を摂ったり、ちょっとした家事を済ませたりとリビングのように使っている。メニューは塩麹、醤油麹などの発酵食が中心。マイペースな時間と良質な食事のおかげで、まず自分自身が健康になれたという。

断熱材を入れ替え、壁を補強して築35年の住まいをアップデート。ゆったり配したテーブルとパイン材の床が、和やかなムードを醸し出す
北側は壁でふさいでいたが、裏山の景色を生かすべく、大きな窓をつくってカウンター席に。ときにエゾリス、キツネが訪れる特等席

「来た人に『ほっとする』と言ってもらえるのが何よりの喜び。家が生まれ変わり、私自身もリラックスできるようになりました。最初は一緒に働く仲間がいなくて心細かったですが、今は自営業者のつながりを楽しんでいます。やりたいことに素直に行動すると、縁が広がるものですね」とMさん。変わらないアクティブな姿勢が、第二の人生を輝かせている。(海老原さん)

教諭時代の同僚や親御さんのほか、ふらりと立ち寄る1人客も多い。仕事の合間や閉店後に自らほっとひと息。カフェはMさんの暮らしそのもの
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

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