レバノン首都で銃撃戦、6人死亡 爆発事故の捜査めぐるデモで

Shia militia fighters fire rifles and rocket-propelled grenades during clashes near the Palace of Justice in Beirut, Lebanon (14 October 2021)

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画像説明, イスラム教シーア派とキリスト教系の民兵が路上で銃撃戦を繰り広げる中、地元住民は逃げ出した。写真はライフルを使うシーア派の民兵(14日、レバノン・ベイルート)

レバノンの首都ベイルートで14日、昨年8月に港湾地区で起きた大規模爆発の捜査をめぐる抗議デモの参加者に何者かが発砲し、銃撃戦となった。少なくとも6人が死亡、32人が負傷した。

銃撃戦は、イスラム教シーア派組織「ヒズボラ」と「アマル」が、昨年の大規模爆発の捜査を担当した判事に対する抗議デモの最中に発生した。レバノンでの暴力事件としてはここ数年で最悪となった。同国のナジブ・ミカティ首相は同日、国として喪に服すと発表した。

シーア派組織側は、対立するキリスト教系政党「レバノン軍団」(LF)のスナイパーが、レバノンを紛争に引きずり込むために群衆に発砲したと主張。LFはこれを否定した。

ミシェル・アウン大統領は、「我々は、自分の利益のために国を人質にすることを誰にも認めない」と述べた。

判事への反対と支持

219人の死者を出した爆発事故の捜査をめぐっては、大きな緊張が走っている。

ヒズボラとその同盟組織は、捜査を担当した判事は考えが偏っていると主張している。一方で、爆発事故の遺族は判事の仕事を支持している。

ベイルートの大半が壊滅的な被害を受けた昨年8月の大惨事をめぐっては、これまでのところ誰1人として責任を追及されていない。

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何があったのか

ベイルートで取材するBBCのアンナ・フォスター記者の報告によると、爆発事故の捜査に対する数百人規模の抗議行動は、裁判所パレス・オブ・ジャスティスの前で始まった。抗議者は捜査が政治化されているとしてタレク・ビタル判事の解任を求め、抗議はすぐにエスカレートした。

群衆がタヨウネ・バダロ地区の環状交差点(ラウンダバウト)を通過する際に、激しい銃撃戦が発生した。

イスラム教シーア派とキリスト教系の民兵とみられる武装した男たちが、自動小銃などで銃撃戦を繰り広げ、地元住民は家から逃れるなどした。児童は机の下に身を隠した。衝突は数時間続いた。

目撃者がロイター通信に語ったところによると、近くの学校では教師が幼い子供たちに、頭を手で覆いながら地面に伏せるよう指示していたという。

病院や軍の関係筋は、死亡した人の中には頭を撃たれた人もいると語った。自宅の中にいた時に流れ弾に当たった女性もいるという。

Lebanese army armoured personnel carriers and ambulances near the Palace of Justice in Beirut, Lebanon (14 October 2021)

画像提供, AFP

画像説明, 銃撃戦が発生し、レバノン軍の兵士と救急車が現場に駆け付けた。写真は裁判所近くに集まるレバノン軍の装甲兵員輸送車と救急車(14日、レバノン・ベイルート)

シーア派組織とLFの主張

シーア派組織のヒズボラとアマルは、デモ参加者が「近隣の通りや建物の屋上に配置されたLFのグループによる武力攻撃の標的となった。直接狙撃され、意図的に殺害された」と主張した。

LFのリーダー、サミール・ジャアジャア氏はこの暴力行為を非難し、事態の沈静化を求めた。

「このような事態を招いた主な原因は、いついかなる場所でも市民を脅かす武器が野放しにされ、まん延していることにある」と、ジャアジャア氏はツイートした。

レバノンのミカティ首相は国民に対し、「落ち着いて。いかなる理由があろうとも、扇動に巻き込まれないように」と呼びかけた。

レバノン軍は、襲撃犯の捜索のために部隊を投入したと明かし、「路上で銃を持っている者には発砲する」と警告した。

Protest in Beirut against the judge investigating last year's blast at the city's port (14 October 2021)

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画像説明, タレク・ビタル判事の解任を求めて集まったヒズボラとアマルの支持者(14日、ベイルート)

裁判所は銃撃戦が起きる前、元閣僚のアマル系議員アリ・ハッサン・カリル氏とガジ・ザイタル氏の申し立てを却下した。ビタル判事は爆発事故に関連し、過失の疑いで2人を聴取しようとしていた。

不正行為を否定している両議員は、ビタル判事には偏見があると非難した。

爆発事故の遺族は両議員の訴えを非難しており、捜査は3週間で2度中断された。

遺族は、政治指導者らが調査から身を守ろうとしていると主張している。

ヒズボラとつながりのある閣僚がビタル判事の交代を要求したことを受け、遺族は13日、「司法に手を出すな」と内閣に警告していた。

昨年8月の大規模爆発は、2750トンの硝酸アンモニウムが保管されていた倉庫で起きた。農業用の肥料や爆薬として利用される硝酸アンモニウムが、6年近くも安全ではない状態で保管され、火災につながった。

港湾当局の幹部らは硝酸アンモニウムの危険性を認識していたものの、安全性の確保や破棄するなどの対応を怠ったとされる。