頭が痛い、古傷が痛む…低気圧襲来で起こる「気象病」の基礎知識

天気図

3月10日夜から11日にかけて、全国的に春の嵐となりそうだ。

出典:Yahoo!天気・災害

3月10日から11日にかけて、「爆弾低気圧」級に発達する恐れのある低気圧が日本列島を通過する。全国的に荒天模様が予想される。

頭が痛い。やたらと眠い。古傷が痛む……。

低気圧が近づくにつれて、このような体調不良を訴える人は多い。

近年の研究によって、以前は「気のせい」だと思われてきた天気の変化にともなう体調不良には、原因があることが明らかになってきた。今では「気象病」「天気痛」などと呼ばれている。

頭痛

低気圧が近づくと、頭痛やめまいといった体調不良に苛まれる人は多い

liza54500/Shutterstock.com

体調不良の原因は「気温と気圧の変化」

気象病は、気温や気圧の急激な変化によって起こる。

私たちの体には、周囲の環境が変わったときに体内の環境を保とうとする力(ホメオスタシス)が備わっている。その力を管理しているのが、いわゆる「自律神経」だ。自律神経には体を緊張状態にする「交感神経」と、体を緊張から解放してリラックスさせる「副交感神経」の2種類がある。

たとえば、寒いときには鳥肌が立ったり血管が収縮したりする。これは、交感神経が活発に働いた結果であり、体温を外に逃さないようにする効果がある。一方で暑いときには、血管が広がり、皮膚の表面から体内の熱を逃がしている。これは、副交感神経が活発に働いた結果だ。

こうして、外が寒かろうが暑かろうが、体温はおおむね36度台に保たれる。

同様に、低気圧が近づいて気圧が急激に変化したときにも、自律神経が体内環境のバランスを取ろうとする。

しかし、気温や気圧の変化が急すぎると、自律神経の働きが追いつかなくなることがある。すると、体内の環境がうまく保たれず、さまざまな不快な症状があらわれる。これがいわゆる「気象病」である。

気象病ではなぜ頭痛を訴える人が多いのか?

雲

低気圧が近づいて天候が悪くなり、さらに体調も悪くなると、気分も落ち込んでしまう。

Peangdao/Shutterstock.com

低気圧が近づくことで起きる体の不調の中でも、特に頭痛を訴える人は多い。ただし、頭痛には、低気圧が近づいてくるときに注意したい頭痛と、低気圧が去ったあとに注意したい頭痛の2タイプがある。これは、その時々で活発に働く自律神経の種類が違うためだ。

低気圧が近づく際には気圧は徐々に下がり、南から温かい風が吹き込んで気温が急に上がることもある。このときには、気圧の低下や温度上昇に対応しようと副交感神経が活発になり、血管が拡張して、頭がズキズキと痛む片頭痛が起こりやすい

一方で、低気圧が去る際には気圧が上がり、冷たい北からの風が吹いて気温が急に低くなる。すると、今度は交感神経が活発になって血管が収縮し、首や肩の血流が悪くなって後頭部もこわばる。この時には、こめかみをぐるりと一周するようにジワジワと痛む、緊張性頭痛が起こりやすいのだ。

春に気をつけたい「爆弾低気圧」とは?

天気図

2018年2月28日に爆弾低気圧が日本列島を通過した。春は爆弾低気圧が発達しやすい季節だ。

出典:気象庁ホームページ

さて、春先に最も気をつけたい気象現象といえば、「爆弾低気圧」である。

爆弾低気圧とは、24時間で24hPa(ヘクトパスカル)以上気圧の下がる温帯低気圧(北緯60度の場合)のことをいう。正式な気象用語ではないものの、天気予報では「急速に発達する低気圧」などとも表現され、近年よく耳にするようになった。

春は、高気圧や低気圧(温帯低気圧)が西から東へと短期間に日本列島を通過する季節。その中には、急速に発達を遂げ、台風並みの強風が吹く爆弾低気圧になるものもある。

ただし、「台風並みの強風が吹く」とはいっても、爆弾低気圧と台風にはいくつか異なる点がある。

台風(熱帯低気圧)は温かい空気だけでできている一方で、爆弾低気圧(発達した温帯低気圧)は温かい空気と冷たい空気の両方から構成されている。一般的に、温帯低気圧は温かい空気と冷たい空気の気温差が大きいほど発達する。そのため、冬の冷たい空気と初夏の温かい空気がはげしくぶつかり合う春に、ときに爆弾低気圧と呼ばれるほどに発達するのだ。

このため、爆弾低気圧の通過前後では気温が激しく変化する。接近前はまるで初夏のような暑さになることもある一方で、通過後は冬のような寒さが舞い戻ることがある。

台風

2019年10月中旬に各地で大きな被害を出したスーパー台風「ハギビス」の天気図。台風の中にも、非常に大きく発達するものはある。

Joshua Stevens, using MODIS data from NASA EOSDIS/LANCE and GIBS/Worldview

気象予報士・健康気象アドバイザー(※)の小越久美さんは、こうコメントする。

「この気温の変化が油断できません。人間の基礎代謝は季節によって変動し、冬の終わりは体温を保つために基礎代謝が年間でもっとも高くなっています。5月の20度台はすがすがしく感じるのに、2月の20度台は暑く感じます。2016年2月に高知県で行われたマラソン大会では、日中の気温が20度を超え、熱中症患者が出たこともありました」

(※健康気象アドバイザー:日本生気象学会が協賛する生物気象研究会の認定資格。健康と気象の関係を伝えるスペシャリスト)

また、台風と比べて爆弾低気圧は規模が大きく、影響を受ける範囲も広い。大型の台風の強風域(風速15m/s以上の範囲)は半径500~800km。だいたい東京から広島までの直線距離が約700kmである。

これに対して爆弾低気圧のように発達した温帯低気圧の強風域の半径は1000km以上になることもある。北海道にある爆弾低気圧の影響が九州におよぶこともあるといえる。

こういった事情から、爆弾低気圧がやってくる際には、環境の変化に対して自律神経をうまく調節できず、気象病の症状があらわれる人が増えやすいと考えられる。

爆弾低気圧で引き起こされる気象病の症状とは?

体調不良の人

Africa Studio/Shutterstock.com

爆弾低気圧がやって来た場合にあらわれる症状は、一般的な気象病の症状と基本的には同じだ。

ただし、小越さんは「頭痛や体のだるさなど、一般的な低気圧が来るときに出る症状が、さらに強く出る可能性があります」という。

気象病を感じやすい人は、いくつかのタイプに分けられる。

まずは、交感神経が活性化しやすい人(ストレスタイプ)。このタイプの人は、緊張性頭痛や生理痛、関節痛、腰痛、古傷の痛み、イライラ、便秘などが出やすい。

そして、副交感神経が働きやすい人(おっとりタイプ)だ。こちらは片頭痛や倦怠感、眠気などが出やすい。

「ストレスタイプは低気圧が近づいて気圧が下がり始めたときや、寒冷前線が通過した後の寒さで交感神経が活発になって症状が悪化する可能性があります。おっとりタイプの人は、まさに低気圧が通過している最中の朝から曇りや雨のとき、そして温暖前線が通過する前の気温が上昇したときなどに副交感神経が活発になるので、症状の悪化に注意が必要です」

このほかに、交感神経と副交感神経の両方の働きが弱い人(ぐったりお疲れタイプ)もいるが、このタイプは低気圧に関係なく不調を抱えやすい。

(※本節カッコ内の表現は、小越氏の著書「低気圧女子の処方せん」より引用)

気象病のつらい症状を少しでも和らげるには?

寝ている人

beeboys/Shutterstock.com

気象病対策の基本となるのは、自律神経のバランスを整えること

普段から、1日3食をしっかりと食べ、睡眠を十分にとり、適度な運動を行うなど、規則正しい生活リズムで過ごすことが大切だ。メリハリのきいた規則正しい生活を送ることは、体に適度なストレスを与えるため、環境の変化に応じて自律神経が働きやすくなる。

いざ気象病の症状があらわれたときの対処法は自分の「タイプ」によって異なる。

交感神経が活性化しやすい人(ストレスタイプ)は副交感神経を活発にさせるケアを、副交感神経が活性化しやすい人(おっとりタイプ)は交感神経を活発にさせるケアが必要だ。

「ストレスタイプの人は、体を温めるなどして副交感神経の働きを促しましょう。ぬるいお湯につかり、半身浴などでリラックスすると、副交感神経が優位な状態に切り替えられるといいます。逆に、おっとりタイプの人は、気分をシャキッとさせる行動で交感神経を活発にすると良いでしょう。例えば、早起きして朝食を作ったり体を軽く動かしたり活動的になることで、交感神経の働きを促してくれます」(小越さん)

また、何らかの理由で耳回りの血流が悪いと耳の内部のリンパ液も一緒に滞り、頭痛やめまいの原因になると考えられている。そこで、耳まわりをやさしくマッサージしたりすると、耳回りの血流が良くなり、気象病の症状が和らげられることもあるという。

低気圧が発達しやすくなるこれからの季節は、天気図や気圧の変化がわかるアプリなどを活用して、事前に爆弾低気圧に備えておきたい。また、それまでに自分の気象病のタイプを理解し、症状を和らげられる自分なりの方法を見つけ、うまく乗り切ってほしい。

(文・今井明子、監修・小越久美子、編集・三ツ村崇志)


今井明子:サイエンスライター。京都大学農学部卒。気象予報士。得意分野は科学系(おもに医療、地球科学、生物)をはじめ、育児、教育、働き方など。「Newton」「AERA」「東洋経済オンライン」「m3.com」「暦生活」などで執筆。著書に「気象の図鑑」(共著、技術評論社)、「異常気象と温暖化がわかる」(技術評論社)がある。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師なども務める。

小越久美子:気象予報士・健康気象アドバイザー・防災士・データ解析士。著書に、「低気圧女子の処方せん」(セブン&アイ出版)、「かき氷前線予報します〜お天気お姉さんのマーケティング〜」(経法ビジネス新書)

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