通信衛星「ブルーウォーカー3」が夜空に残した軌跡。アリゾナ州キットピーク国立天文台にて撮影。
KPNO/NOIRLab/IAU/SKAO/NSF/AURA/R. Sparks
- ASTスペースモバイルは、アレイが約64平方メートルに広がる「ブルーウォーカー3」と名付けられた通信衛星を軌道に投入した。
- かなり明るい星に匹敵する明るさで、天体観測に影響を与える可能性があると天文学者は警告している。
- ASTは今後、168基の衛星を軌道に乗せ、宇宙ベースのブロードバンド・ネットワークを提供する計画だ。
2022年11月、ASTスペースモバイル(AST SpaceMobile)は、ソーラーパネルと巨大なアンテナを備えた通信衛星「ブルーウォーカー3(BlueWalker 3)」を地球の低軌道に打ち上げ、約64平方メートル(学校の教室ほど)のサイズになるアレイの展開を完了した。
国際天文学連合(IAU)は11月28日の声明で、この人工衛星は空で最も明るい物体の1つになったと述べている。
スターリンクは良くないと思ってた? (そうなんだよ!)
アンテナ面積64平方メートルの新しい人工衛星ブルーウォーカー3が、最大輝度で「天空の最も明るい天体」トップ20以内に入った。
夏の大三角で有名なデネブより明るい。
これはやばいよ。
ブルーウォーカー3は、軌道から地球に携帯電話サービスを提供するために開発された。ASTはこの衛星を「地球低軌道に展開された史上最大の商業通信アレイ」と称している。
同社は今後2年間で100基以上の衛星を打ち上げ、それらを一体的に機能させる「衛星コンステレーション」を構築する予定であり、ブルーウォーカー3はその試験機にあたる。
IAUは、この巨大衛星が空に残す明るい軌跡が写った画像を公開した。
夜空を横切るブルーウォーカー3の軌跡。2022年11月20日、アリゾナ州ツーソンにある民家の裏庭で撮影された。
A. Block/IAU CPS
IAUの天文学者の観測によると、この衛星の最大輝度は、アンタレスやスピカとほぼ同じ明るさだった。これらは夜空で15番目と16番目に明るい星だ。
天文学者は、このような「宇宙の携帯電話基地局」によって電波干渉が生じるのではないかと懸念しており、IAUは電波天文学の研究に支障をきたす可能性があると警告している。
この警告を受け、ASTは声明を発表し、電波および光学天文学の観測を妨害することを避けるつもりだと述べている。
「我々は、天文学への影響を可能な限り軽減するために、最新の技術と戦略を使用するつもりだ。そのために次世代型反射防止材の開発といった最新の技術革新に、業界の専門家と積極的に協力しながら取り組んでいる」
さらに「アメリカ航空宇宙局(NASA)や天文学コミュニティ内の特定のワーキンググループとも連携し、運用上の介入の可能性を含む先進的な解決策の考案に取り組んでいる」と付け加えた。
人工衛星の破片は、宇宙の視界を遮り、宇宙船に危険をもたらす可能性も
アメリカの政府説明責任局の報告書によると、すでに5500個以上の衛星が地球低軌道に散らばっているという。
ESA/ID&Sense/ONiRiXEL
アメリカの政府説明責任局の報告書によると、すでに5500個以上の衛星が地球低軌道にゴミとなって散らばっているという。2030年までには5万8000個の衛星が打ち上げられるとも予測されており、そのほとんどが衛星コンステレーションによるものだと見られている。
スペースX(SpaceX)はすでに3000基以上の衛星を打ち上げ、保持しており、今後10年間ではその数を1万2000基以上に増やし、遠隔地に低コストのインターネットサービスを提供しようとしている。
スペースXの衛星コンステレーション「スターリンク」のネットワークを示すイラスト。
Getty Images
軌道に打ち上げられる衛星の数が増えるほど、使用済みの衛星やロケットの部品などのデブリ(破片)と宇宙船が接近する危険性が高まる。10月には、国際宇宙ステーションがロシアの人工衛星の破片との衝突を避けるために旋回しなければならなかった。
IAUの声明によると「人類が自然の夜空を体験する能力」の喪失に、衛星コンステレーションがどれほど関わっているのかについても、天文学者は懸念しているという。
すでに、人工衛星や人間による光害のために、手付かずの夜空は少なくなっている。2021年9月の調査では、人工衛星による世界の光害が、1992年から2017年の間に49%増加したことが明らかになった。
我々が夜空を見上げるとき、明るい光の多くは星ではなく、人工衛星なのかもしれない。