ジェームズ・ウェッブ望遠鏡が撮影した「かに星雲」の新たな画像(右)で特筆すべきなのは、星雲の中心にあるパルサーがはっきりと写っていることだ。これはハッブル望遠鏡の画像(左)ではほとんど目立たない。
Hubble Image: NASA, ESA, J. Hester, A. Loll (Arizona State University); Webb Image: NASA, ESA, CSA, STScI, T. Temim (Princeton University).
- NASAのジェームズ・ウェッブ望遠鏡は、「かに星雲」のこれまで見たことのない詳細をとらえた。
- この新たな画像は、白い煙のように見える荷電粒子や、超新星爆発のあとに残ったコアをはっきりを写している。
- かに星雲は爆発した星の残骸で、6500光年の距離にある。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が星雲の新たな姿を捉え、これまで見ることがなかった詳細が明らかになった。
星雲とはガスと塵でできた雲で、死にゆく星や爆発した星の残骸などから形成される。これらのガスや塵は新たな星を育む材料となることから、星雲は星のゆりかごのようなものであるとも言える。
天の川銀河だけでも何万もの星雲があると推定されており、JWSTはそのうちの1つ、約6500光年先にある「かに星雲」にカメラを向けた。
かに星雲を驚くほど詳細に捉えた
2023年10月30日、NASAはかに星雲の新たな画像を公開した。その中心部には「かにパルサー」と呼ばれる小さな白い点がはっきりと見える。
矢印の先で示した白い点が「かにパルサー」。
NASA, ESA, CSA, STScI, Tea Temim (Princeton University)
約1000年前、超巨星が超新星爆発を起こし、燃えさかるような高温の物質を宇宙空間にまき散らした。しかし、その星の高密度のコアはそのまま残り、星雲の中心部でかにパルサーとなって存在している。
パルサーとは電磁波を放出しながら高速で回転する天体のことをいう。JWSTは、かにパルサーが周辺にガス状物質を大量に放出している様子を初めて詳細に捉えた。ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2005年にかに星雲を撮影した時には見えなかったものが見えるようになったのだ。
これまで見えなかったものが見えるように
HSTは、人間の目と同じように可視光で宇宙を観測することが多い。そのため、JWSTが赤外線で捉えた白い煙のような荷電粒子を捉えられなかった。
ハッブル宇宙望遠鏡が可視光で撮影したかに星雲(左)と、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が赤外線で撮影したかに星雲(右)。
NASA, ESA, J. Hester, A. Loll (Arizona State University); NASA, ESA, CSA, STScI, T. Temim (Princeton University)
これらの荷電粒子は、かにパルサーが作り出す強い磁場を、光速に近い速度で飛び回りながら、シンクロトン放射光という強力な光を放射する。X線観測衛星はこのような光を観測する。
画像に写るカラフルなガスや塵は、死んだ星の残骸だ。イオン化した硫黄は赤みがかったオレンジ色に、イオン化した鉄は青色に、塵は緑がかった黄色に見えている。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した「かに星雲」。
NASA, ESA, CSA, STScI, Tea Temim (Princeton University)
「JWSTの感度と空間分解能によって、放出された物質の組成、特に鉄とニッケルの含有量を正確に決定することができた」と、JWSTの赤外線観測装置を使ってかに星雲を撮影したチームを率いるティー・テミム(Tea Temim)はNASAに語っている。
NASAによると、来年にはHSTが撮影したかに星雲の新たな画像の用意ができることから、20年前の画像と比較ができるようになるという。