株主総会決議を省略する場合の議事録の記載例・注意点

コーポレート・M&A
竹川 奈央子弁護士 桃尾・松尾・難波法律事務所

 当社(取締役会設置会社)は、このたび会社の目的事項を追加する定款変更をするための株主総会決議をしたいと考えています。当社はA社の100%子会社であり決議が成立することは間違いありませんので(かかる定款変更についてはすでにA社の内諾を得ています)、法律上必要な手続は履践しつつ、できるだけ簡略化した手続としたいと考えています。どのような方法が考えられますか。

 株主総会の開催を省略することが考えられます。株主全員の同意が必要ですが、貴社はA社の100%子会社とのことですので、株主全員の同意を得ることは容易であると思われます。

解説

目次

  1. 株主総会の決議の省略
  2. 株主総会の決議の省略の提案ができる者
    1. 取締役による提案
    2. 株主による提案
  3. 株主の同意の方法
  4. 株主総会の決議を省略した場合、議事録はどのように作成するか
    1. 作成者および記載事項
    2. 押印・印鑑証明書の要否
    3. 議事録の記載例

株主総会の決議の省略

 取締役または株主が株主総会の目的事項について提案をした場合において、株主全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の決議があったとみなされます(会社法3191項)。これにより、株主総会の招集に関する手続を省略することができますし、実際に株主が出席して決議する必要もなくなります。

株主総会の決議の省略の提案ができる者

取締役による提案

 株主総会を開催して決議する場合、取締役会設置会社においては株主総会の招集について取締役会決議が必要です(会社法298条1項・4項)。登記に際してこの取締役会決議を証する取締役会議事録を添付書類とする必要はありませんが(商業登記規則61条参照)、取締役会決議を欠いた株主総会の招集は、招集手続の法令違反(会社法831条1項1号)として決議取消事由となります(最高裁昭和46年3月18日判決・民集25巻2号183頁)。

 これに対して、株主総会決議を省略する場合には、取締役がこのような省略の提案をするに際して取締役会決議を必要とする法律上の明文の規定はありません。しかし、本来会議を経たうえで決議することを要するケースについて議事の省略を認めることに過ぎないのであって、取締役会決議を欠く株主総会決議省略の提案は同様に株主総会決議取消事由になるとの有力な見解がありますので、取締役会決議を経ておくことが望ましいと考えます。なお、登記に際して取締役会議事録や提案者の署名(記名押印)のある書類を添付する必要がないことは株主総会を開催して決議する場合と同様です。

株主による提案

 株主総会の決議の省略の提案は、株主によってもなすことができます。この場合は、前述の取締役会設置会社における取締役による提案のように、取締役会の開催の要否が問題になることはありません。また、後述の通り提案者の氏名または名称を議事録に記載する必要はありますが、登記に際して提案者の署名(記名押印)のある書類の添付の必要はありません。

 したがって、株主による提案とする場合には、株主総会の招集について取締役会を開催して議事録を作成したり取締役会の書面決議の同意書を多数の取締役から取得したりする煩雑さを避けることができます。もっとも、この場合には、株主総会決議の効力が発生する会社にとって重要な手続に取締役の行為が介在しない形になりますので、そのような会社運営のあり方を許容するかについては、別途考慮する必要があろうかと思います。

株主の同意の方法

 株主の同意の方法は書面または電磁的記録によって行うこととされていますが、それ以外に法律上の制限はなく、登記に際して株主の同意を証する書面を添付する必要もありません(商業登記規則61条参照)。なお、株主全員の同意が会社に到達した日が株主の同意があった日であるとされていることから、株主が複数いる場合には全員の同意が得られる期間を考慮する必要があります。

株主総会の決議を省略した場合、議事録はどのように作成するか

作成者および記載事項

 株主総会の決議を省略した場合には、以下の事項を記載した議事録を作成する必要があります(会社法施行規則72条4項1号)。

  • 決議があったものとみなされた事項の内容
  • 提案をした者の氏名または名称
  • 決議があったものとみなされた日
  • 議事録作成に係る職務を行った取締役の氏名

 「議事録作成に係る職務を行った取締役」とは、議事録作成の責任者である取締役との趣旨に理解するべきですから、実際に作業をしたか否かに関わらず、代表取締役の氏名を記載することが多いと思います。

押印・印鑑証明書の要否

 法律上は議事録作成者の押印が求められているわけではありませんが、会社によっては定款の定めにより議事録作成者の署名または記名押印が求められている場合がありますので、注意が必要です。また、株主総会の決議により代表取締役を定めた場合には、変更前の代表取締役が届出印を押印していない限り、議事録作成者である取締役が個人印を押印して印鑑証明書を添付する必要がある点も注意してください(商業登記規則61条6項1号参照)。

議事録の記載例

株主総会の決議を省略した場合の議事録の記載例

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